Ambivalent and Vague

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Zero Gravity 23 (R)

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I shut her up in my world.

 
 これまで何回も考えてきたことだ。その度に考えはどこかに辿り着き、再び流されていく。少しずつ、その形は変わってゆく。
 この感情に名前を付けるとすれば、それは「愛」となるのだろうか、と。
 自分の総てを相手にぶつけ、その存在を檻に閉じ込める。それこそ他のことなど考えられないほどに、その檻の中で彼女を快楽で縛り、熔けるほどに甘やかす。それを「愛」というのかどうか。これまで数え切れないほど考えてきても、幾度となく答えを出しては、結局は明確な答えが見つからない。
 ───独占欲? 束縛? 嫉妬? 執着心?
 そんな生温いものじゃない。あいつは自らの自由を行使するし、その権利を持つ。俺はそれを阻止するために罠を張る。例えそれがあいつの笑顔を奪うことになっても、次に注ぎ込まれるのは、優しさという名の毒。
 ───狂気。支配。
 愛情というのもが俺の中にあるのならば、その実際はこの言葉だろう。世の中で言われている「愛」はもちろんわかるが、俺の中にも同じくあるかどうかは謎だ。それよりも、相手の総てを掌中におさめ、彼女のどんな感情をも自分がもたらしたい。そうしなければ、俺の気が済まない。今はもう、自分自身もそれをわかっている。
 そんな俺を、彼女はその存在を持って受け入れてくれるように思う。俺すらも奥底に閉じ込めていた酷薄さをぶつけても、満身創痍になりながらその手を俺に向かって広げる。
 甘い言葉を囁いても、何をしても、それは俺の世界に彼女を閉じ込める罠だ。堕ちてきた彼女を二度と手放したりはしない。どんなに泣き叫んでも、あいつの居場所はここだ。そして俺は、自分の世界で香という存在に跪くのだ。そう、この総てを差し出して。





 香を抱いてから、やむを得ないとき以外は自分の寝室に連れ込むようになった。今までだってそうしたかったが、「パートナー」という便利な言葉がそれを邪魔していた。だが、これからは違う。本音を言えば、毎日でも濃厚な時間を過ごしたいと思っている。ただ、密度のある内容は、やがて飽きられる運命にもある。離れられなくするには、何の法則性もなく密度に変化を持たせればいい。ただ抱きしめるだけの夜もあれば、俺の好きなように香に牙を立てる夜もある。そこに法則性がなければ、香も俺に対処しづらい。そんな日々に、香は緊張していたようだった。夜を誘うと、途端に緊張を見せていた。だから、
「そんな固くなるな。俺だって、そんな毎日はがっつかねぇよ」
と優しく言ったこともある。今までの俺を見れば、関係を持った途端に毎日求められると香が思うのも当然だ。女を見ればアプローチをかけ、肝心の本人を女として扱わなかった日々は、香にどんな影響を与えたのか。そう思うと、見えない傷が広がっているであろう香を包み込んでやりたいとも思う。そうは言っても、香と交わったところで、スイーパーである俺が変わることはない。パートナーとして、俺を引き寄せようとする輩が香を利用することは決して無くならない。今までに何度となく攫われてきた香が、今度は「女」という要素が加わったらどうなるのか。今まで以上になるのは明らかだった。香を守るためにも、俺は一見、今まで通りを装い、振る舞わなければならなかった。装い、偽ること自体は俺に馴染んだ行為だから、そこに何を思うこともない。だが、香はそうは受け取れないだろう。ともすると、「自分は相応しくない」とばかりに、俺の側から立ち去ろうとするかもしれない。今さらもう、逃がすものか。俺の言葉が蔦となって香を囚われの身にするのなら、いくらでも言葉を掛けてやる。
 やはり香は俺のことがわからなくなったようで、今までならハンマーで終わらせていた場面から逃げるように立ち去っていた。そんな香を追い詰めるべく、俺は香の元へと急ぐ。
「どうした?」
と言っても、その固い表情は変わらなかった。何も言わず、ただそこから立ち去ろうとした香を逃がすまいと、俺は香をソファに押し倒した。その耳朶を唇と舌でなぞり上げると、香は力を奪われたかのように抵抗を見せなくなった。そのまま、その耳に言葉をねじ込む。
「ただでさえお前は危険なのに、俺の女だってわかったら、もっと危険が増えるだろ? 余計な真似はしたくない…」
 そう言うと、香も理解してくれたようだった。俺の言葉を素直に受け止める香が可愛くて、俺は自分の指で香の身体を色づけ始めた。
「お前は俺を信じていればいいんだよ。だが、不安にさせたのは悪かったな」
 言葉と共に積み重ねられる愛撫は、従順な香に「あぁっ」と絶頂をもたらした。


 今までと全く同じでは、その関係性も変わらない。二人が身体を重ねることで壊された今までの温い関係性には、新たな面を見せてもいいのだろう。香とデートするのも、そういう意味だった。
 他と比べると、香にはあまりエゴがないように感じる。俺が必要であれば嘘も厭わないように、香は必要であれば自分が身を引くことを選ぶような人間だ。俺たちの関係で「香が身を引く」ということは、例えそれが香にとって最善だと判断されようと、俺にとっては許し難い。身体を重ねても何かを諦めているようだった香を、俺はデートに誘うことにした。新宿だとうるさい人間が多いし目立つので、それ以外の場所なら構わないだろう。
「この前のこと、気にさせちゃったの?」
 申し訳なさそうに話す香に、お前は俺の世界にいる限りは何を求めてもいいのだと言いたくなる。だが、どんな言葉をかけても、この時の香は納得しない気がした俺は、少し微笑み返すだけにした。


 俺が選んだデートの場所は、表参道だ。今回はずっと俺が側にいるから、むしろ人混みの中に紛れてしまった方が目立たないだろう。思うところあって、
「いつも通りの服でいいぞ」
と香に言うと、動きやすい、カジュアルな服を選んできた。香の元気な一面が引き立つ服装だ。しかし今日は、あのシンデレラの夜のような香も見てみたい。絵梨子さんの見立てではなく、俺自身の見立てで彼女を着飾らせてみたい。そんな俺が選んだのは、とあるブランドの路面店だった。香ももちろん知っているそのブランド店を前に、一人で百面相をしている香が面白かった。
「お前、挙動不審すぎ」
「だ、だってぇ」
「大丈夫だよ、気にするな」
 金銭面は問題ない。そして、香が似合うかどうかについても問題ない。と言っても、そこはすぐに「そうだね」と言えず、店内でも百面相をしている香を置いて、俺は服を選んでいった。
 香は色んな要素を持っている存在だと思っている。元気な香、美しい香、妖艶な香、愁いを帯びた香。どれかが突出しているわけではなく、それらがバランスよく常に混じり合っている希有な存在だ。だから、色気のある服を着せたからといって、それが香に必ずしもマッチするわけではない。ポイントを押さえてやれば、主張しすぎるデザインは必要ないだろう。むしろ服の主張は、香が本来持っているバランスを崩すかもしれない。
「香、ちょっとこれを着てみろよ」
「えっ、これっ!?」
「いいから、いいから」
 香を試着室に押し込めて、その変身を俺は今か今かと待っていた。しかし、香は一向に試着室から出てこない。その気配から着替えたのはわかるが、そこから動きが見られないのだ。着替えた自分の姿を見て「似合わない」とでも思っているのだろうか。そんなことはない、似合っているはずだ。そしてそれを、今日の俺は伝えなければならない。
「香、着替えたのか?」
「あ、う、うん」
「じゃあ、出てこいよ」
 静かに開いたカーテンの向こうから、オフホワイトのワンピースを纏った香が現れた。眼を伏せたままで、俺のことを見ようとはしない。陰りのあるその表情は、どこか緊張感をも含んでいる。やはり「似合わない」と思っているということか。そして、俺が今までのように女扱いしないとでも思っているのだろう。花の模様が織り込まれたオフホワイトの生地に負けないような白さと上品な肌質、丸い襟元から覗く美しいデコルテ、ワンピースからしなやかに伸びる手足。その足を見ると、まだ靴を履いてはいなかった。似合うと思って持ってきたのは、ヒールの高いピンクのエナメルパテント。この選択が意外だったのだろうか、俯いていた香が顔を上げて俺を見た。香という存在その全てが見えるようになり、俺は本当に綺麗だと思っていた。
「香」
「あ、あの…」
「俺の見立てもまんざらじゃないな。良く似合ってるよ」
「え?」
 香が高いヒールを履いたとしても、まだ俺の方が背が高い。香の顔を見下ろすように、右手人差し指の背で香の頬を軽く撫で上げた。香の身体がピクリと反応したのが、また可愛かった。他にも選んで身に着けさせてやると、これもよく似合っている。ただ、香の表情が冴えないのは、気のせいではないだろう。これまで長年のツケなのだ、これはきちんと伝えるしかない。
「香、気に入らないか?」
「うーん」
「気に入らないのなら、別のでもいいぞ。気になったヤツとかあれば、そっちでも」
「そうじゃなくて…」
「流石だな。ちゃんと着こなしてるよ、お前。綺麗だ」
「………」
「そんな泣きそうな顔をするなよ。今までだって思ってたさ。言わなかっただけで」
「だって…」
「で、香ちゃん。俺のセレクトはお気に召して頂けました?」
「い、いいのかなぁ…」
「お前が戸惑うのも分かるけど。今日は『うん』と頷いておけ」
「うん…」
 今の所は素直に頷いてくれた香に安心して、今度は俺自身の服装を選ぶことにした。香が比較的シンプルな服装だから、俺も同じようにシンプルにすべきだろう。色の系統を選ぼうとすると、この季節に合わせて明るい色でまとめるのもいいかもしれない。
「いや、違うな」
 香を逃がさない罠のために自分を偽るのはこれからも続くが、むしろ根本的な部分で偽り続けてきた自分を少し解放してもいいだろう。俺という存在は、本来「黒」だ。香がどんなに明るく優しい「白」であっても、俺は自分を「黒」以外だと香に偽る必要はない。そんなことを考えていたからか、選んだのはダーク系統のスーツだった。パイソンを携帯するということも加味して選んだスーツに身を包み、俺は香の側へ行った。香は俺をじっと見て、そのまま何も言わない。
「どうした、香?」
「ううん、何でもない。…撩も、よく似合ってるなぁって」
 そんなことを言われると、途端にむずむずとした感覚に襲われる。
「ば、ばぁか。たまに仕事で着てるだろ、こんなもん」
と流した。香が俺を見て何を思ったのか、それがわかるようで、こそばゆくも嬉しかった。


 着てきた服などは配達の手はずを取り、装いも新たに表参道の街中へと二人で繰り出した。次の目的地は、化粧品だ。これぐらい着飾っていると、素顔のままで十分な香でもバランスが悪い。美容部員に薄目の化粧を頼み、俺はその店が入っている建物を一人で散策することにした。頃合いを見て戻ると、香はマニキュアまで済ませていた。色ではなく輝きを主としたメイクの中で、その赤い唇は俺を誘っているかのように熟れていた。
「おっ、終わったか」
「いかがですか?」
「いいと思うぜ。じゃ、会計を」
「かしこまりました」
 化粧品の入った袋を俺が持つと、
「わ、私に使ってもらった化粧品だから、私が持つよ」
と香が言ってきた。そう思うのが香の良さでもあるが、今日は違う。なぜなら、俺が横にいるのだから。
「おい。今日ぐらいは俺に甘えておけよ」
「だって…」
「俺が持つから」
「うん、ありがとう」
 その後はどうしたのか、俺が話し掛けてもボーッとして聞いていないようなことが見られた。流れから考えれば、俺の態度がそうさせてしまっているのだろう。そして、男女関係という点において、俺は必要以上に香を囲んでいたと自覚している。好意を寄せられれば素直に頬を赤く染め、優しくされれば慣れずに断ろうとしてしまう。それに引き替え俺は、香の前であからさまに見せなかっただけで、女の扱いを知らないわけではない。他の女に対する態度を香にもやっていいのかは別としても、そんな俺に何か思うのも当然だった。
 そんな表情をさせたくて、今日のデートをしているわけではないのだ。ベッドの上で香を苛む一方で、甘い時間を一緒に過ごして包み込む。その全てで香を逃がさないようにする。俺の考えはシンプルだ。ならば、やはり香と話をすることが必要なのだろう。表参道にはいくらでもある、建物の狭間へと香を連れ込んだ。
「香。お前、何を考えてる?」
「何でもないよ…」
「嘘を言うな。俺が話し掛けても、何の返事もしてこなかったじゃねぇか」
「……」
 あの依頼前から少しずつ関係性を変えていたはずだから、劇的な変化ではないはずだ。それでも、香にとっては大きすぎる変化であり、自分の中で消化しきれていないのかもしれない。とにかく、香は今、楽しいだけではない。押してもダメなら、一度引いてみるか。
「今日の過ごし方が今までと違うのは承知してる。でも、それが辛いなら、今日は帰ってもいいんだぞ?」
「辛い、よ…」
「わかった。じゃ、帰ろう」
 香が自分の想いを吐露し始めた。辛いとか哀しいとかを表現するのが難しい香を解放してやった上で俺が引く。単純に辛いだけではないのだろうと踏んでいた俺は、香が追い縋ってこの時間に留まろうと選択するのを待っていた。すると、目の前の香が俺の手を引っ張ってくる。香の表情は変わらないが、何か言おうとしているようだ。必死に言葉を紡ごうとしている香を包み込むように、俺は香を柔らかく抱きしめた。
「嬉しいんだよ。でも、辛いの。この前からどんどん変わるのが早すぎて、付いていくのに必死で。これから、どうなるのかなんてわからなくて」
「確かに、今までが今までだし、今も普段がなぁ。でも、お前にこうしたいと思うのも俺だ」
「撩?」
 どんなことだってやってやりたい。今まで出来なかった分とか、そういうことではない。依頼でも何でもないのに、誰かにやってやりたいと思うことなど、今までなかった。だから、その存在を自分の世界に閉じ込めたいのだ。逃がしたら、この想いには二度と出会えない。
「お前を閉じ込める為だったら、何だってするぜ、俺は。言ったろ、逃がさないって」
「撩…」
「だから、少しでも嬉しく思ってくれてるんだったら、今日はこのまま流されておけ。俺がちゃんとリードしてやるから」
「うん…」
 ようやく拝めた香の微笑みに応える形で、俺は香の頬へとキスを落とした。


 その後は特に何をするでもなく街中を散策した。それだけでも十分だった。香の感情豊かさは言葉となり、感想として俺に伝わってくる。それを返してやれば、自分の話を聞いてくれたと嬉しそうにする香。美しく着飾っても変わることのないその表情を見ているのが楽しかった。
「ね、ねぇ。あそこのお店も見ていいかな。ダメ?」
「そんなに時間を掛けなければいいぞ」
「ありがと」
 何か気になったのか、香がとある店に入りたいと言い出した。そろそろ夕食の予約時間だったが、少しくらいはいいだろう。一緒に店内を奥へと進めば、香は嬉しそうにとあるものを見ていた。
「うわぁ、綺麗だなぁ」
「ラピスラズリか」
「これ、石だけで出来ている指輪なのかなぁ」
「くりぬいて出来ているんだろ」
「綺麗な青だね。うーん、買おうかなぁ」
「欲しいのか?」
「え? あぁ、こういうの、前から欲しかったの。せっかくだからと思って」
 比較的カジュアルな指輪だ。持っていても、さほど問題はなさそうだ。色々と考えているであろう香から指輪を取り上げ、購入してラッピングを頼んだ。
「ほれ」
「え、いいの? お金は払うよ」
 香の性格とこれまでの扱いがそうさせているのはわかるが、少し焦れったくもなる。
「お前なぁ。今日はデートなんだろ? それぐらい、俺が買ってやるって」
「いいの? 本当にいいの?」
「まったく、慣れるのに時間が掛かりそうだな、このお嬢さんは」
「だって…」
 俺にされることを当然だと思いすぎて自分では何もしないのは困りものでも、されることに罪悪感を持つ必要はない。いずれにしろ、俺たちにはまだ時間が必要のようだ。
「いいんだよ。これぐらい買ってやるから。だが、ちょっと俺に貸しておいてくれるか?」
「あ」
「ちょいと、な」
 そう言った俺は、再びその袋を手にした。用事が終わったら、また改めて香に渡そう。香は特に何かを言うことなく、俺に指輪を預けてくれた。


 フレンチレストランでの夕食ではさすがに、香も俺とこうして過ごすのに慣れてきていた。
「あの、今日はごめんなさい。そして、ありがとう」
「あ? あぁ、戸惑わせたのはわかってるから、気にするな」
「うん、わかった」
「まぁ、今日は別に何をしたってわけじゃないんだけどな」
「そうかな。撩と一緒に過ごせて、とっても楽しかったよ」
「それなら良かったよ」
 その台詞は俺に気を遣ったものではない、香なりに楽しく過ごしてくれたようだ。
 香が俺をじっと見つめている。いや、俺を見つめているというよりは、俺を見て何かを考えているらしい。それを今聞く必要はない。どんな答えだろうが、俺のすることは変わらない。





 その日の夜、慣れないことをした香の疲労度を考えて、身体を苛むのは止めた。ただ、同じベッドで寝ていても、香の自由を奪うように抱きしめていた。その拘束とは相容れないような優しいタッチで香の身体を撫でていく。
「大事にするさ。その総てを奪い尽くして、他のことなんざ考えられないくらいにな…」
 俺が呟いた言葉は、既に眠りの世界へと旅立った香の耳には入らなかったようだった。その残酷な笑みも気付かれることはなかった。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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