Ambivalent and Vague

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24/おしえて

変えられゆく世界

 
 刑事を辞した槇村が今は何を生業としているのか、それを知らないシュガーボーイだった香は、槇村が落としたメモをきっかけとして撩に出逢い、少しずつその内側に秘められた何かに気付いていった。
 「アニキを人殺しに引き込んだ男」になぜ自分の出自を告白してしまったのか、それは香にもわからない。不世井重工の会長宅に乗り込んだ際、足手まといになるだけで何も出来ない香を守りつつも仕事をしっかりと遂行した男の強さよりも、自分の頭に乗せられた手の優しさが香には染み入るようだった。そして、夢うつつの中で感じた優しくて温かい感触は、香の心を少しずつほぐしていった。その温かさが撩の背中からもたらされたと気付いたとき、香の胸に生まれた火種を一体何と名付ければよいのか。その火は強さを増し、撩とルポライターの娘のやりとりが終わる頃にはその熱が頬を染めてしまうほど、香は撩に惹かれていた。
 槇村の登場で二人は別れることになったが、撩との出逢いは、香の中に強く何かを残していった。


 数年後、二人は再会を果たす。
 槇村の喪失は二人を繫げる枷となり、近付くことを妨げる壁となった。
 その枷も壁も、お互いを想う強さと時間が、少しずつ崩していく。





 今日は雨。台風の影響で、外に出れば身体が濡れることを避けられない。
「こんな日にわざわざ伝言板なんて、誰も書かねぇよ」
「そんなの、わからないじゃない」
 クスクス笑いながら答える香を包んでいるのは、撩の胸と腕だった。二人は雨雲がもたらす明るさの中で気怠く身体を絡ませ、「はぁ」と香が吐き出した息すらも撩はその唇で飲み込む。昼間の情事は二人を眠りには誘わず、湿度の高さも気にせずにその身を寄せ合っていた。
「外に出るなんて、わざわざ風邪を引きにいくようなもんだ」
「そんなにヤワな身体じゃありませんよ〜だ」
「まったく…」
 そう言って香の頭を撫でる撩の手が、かつてシュガーボーイだった頃の感触を思い出させる。あの時、自分は撩と一度別れたけれど、その別れは恋の入口でしかなかったのだ、と香は思う。恋という感情を教えられた、その瞬間。甘酸っぱい思い出は、当時のことを撩にも聞いてみたいという悪戯心を生み出した。
「ねぇ…」
「ん?」
 だが、すぐに考え直す。あの時のことを撩に聞いたところで、今の自分がいるのはこの温もりの中だ。余計なことを言ってしまったなと、香は即座に発言を打ち消した。
「ううん。何でもない」
「なんだよ、気になるだろ?」
「…言わない」
「ふーん」
 香が何を思っているのかが読み取れなかった撩は、その手を妖しく白い肌に這わせ始めた。
「じゃ、気持ち良くなって、白状してもらおうかな」
 そう言って意地悪く香を見つめるときの撩は楽しんでいるのだ、と今の香にはわかる。過去に気付いた、男の内側。その優しさの向こうには香を突き放す冷酷さがあり、それは撩の不安の種を守るために必要なものだった。ただ、これらだけが撩の総てではないし、言葉で説明出来るほどの器用さを撩は持たないということも、今の香はわかっている。
「言わない」
「まだ言うか」
 撩は身体を入れ替え、香を逃がすまいとその上にのしかかった。気持ちを読み取れない苛つきを乗せた眼が捉えたのは、悪戯っぽく微笑む香の顔だった。
「言わない。けど、教えて」
「何を?」
「今、このときを」
 次の瞬間、撩はニヤリとする。それが香からの誘いだと、撩が気付くのに時間はいらなかった。
「了解」
 お互いを埋め合わせる儀式を再び始めるため、撩はそっと香の額に唇を押し当てた。







朝からヒャッハー!!(↓↓)なニュースが来たので書いてしまいましたとさ。
やっぱりこの二人がやりとりしてこそ、だと思うのです。

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好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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