Ambivalent and Vague

This page is the only Fan Fic.

  • 2017_10
  • <<
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • >>
  • 2017_12

15/映画

Lessons

 
 そのキュートな女の子は黒いワンピースを着て、大きな真珠のネックレスで首もとを飾っている。ヒールで歩く姿も淀みなく、そのまま建物に滑り込んだ。着席した彼女の目の前には、カラフルな彩りの食事たち。その向こうには、苦笑いする一人の男。彼女は目の前の食事に苦戦していた。
 You have atrocious table manners.
 Would you like to learn about ?
  Yes , yes !
  Cheers !!
 Hum...
 そして男は席を立ち、彼女の後ろからカトラリーに手を伸ばした。





 今日の夜は台風が通過するからと、撩が出掛けることはなかった。「それならば」と、香は映画DVDをレンタルしてきた。キュートな女の子が魔法を掛けられたように変身していき、誰もが振り向くような存在になっていくストーリーだ。その彼女が劇中、最後まで苦戦していたのが食事マナーだった。


「あたしもわっかんないなぁ」
「あん?」
「高校時代にマナー教室ってあったし、何となくはわかるんだけど。うーん」
「お前はなんでそんなことを悩んでるんだ?」
「今度、フランス料理を食べるからよ」
「は?」
「友だちの結婚式。何回行ってもスマートに食べられないのよね」
 そう言った香を「ちょっと待ってろ」とリビングに置いていった撩は、どうやら台所で何かをしているらしい。物音が止んだと思ったら、「おーい」と香を呼ぶ撩の声がした。「なぁに?」と台所へ足を運んでみれば、テーブルの上にはナイフとフォークが置かれていた。
「何するつもり?」
「思いついたときにやるのが一番。さささ、スマートに食べる練習をしましょうねぇ」
 こんな時間から何をしようというのか、私を太らせるつもりなのか、と香は文句を言いたくなった。しかし、目の前に差し出された料理を見て、香は素直に着席することにしたのだ。
「これ、もしかして…」
「そう、撩ちゃんのお手製でっす!」


 この男が何でも器用にこなし、実は料理の腕前もプロ級であることは香も知っている。普段は全く作ろうとしない男が依頼時に作ったものを口にすると、その美味しさに香は凹んでしまうのだ。だから香は素直に告白したのだ。『これを食べちゃったら、もう私は作れないなぁ、恥ずかしくて』と。そう言った途端、香は台所の床に押し倒されてしまった。『食事を作ってくれないなら、こっちにする』と言われて始まったあの時間は、今となってはあまりよく覚えていない。「あたし、スペアリブになった気分…」という感想だけは頭に残っていた。
 そんな男が作ったものだ。美味しいに決まっているし、食べなければどうなるかわからない。香には「食べる」以外の選択肢はなかったのだった。
 透明なガラス皿に散りばめられた野菜と刺身は、まるで花畑のように鮮やかだった。刺身はカルパッチョとして味付けされ、サーモンはバラの花のように巻かれている。その花畑を美しく食べようと、香はナイフとフォークを近づけた。しかし、ベビーリーフはそう簡単にフォークには刺さってくれないし、サーモンの花をどう食べればいいのかもわからない。何も考えずに食べていいのならば、この花畑は既に香の胃袋に収められているはずだ。ただ今日は、「マナーを念頭に置いて、スマートに食べる」のがテーマだ。あまりにも考えすぎて、香は動けなくなってしまった。


「おい、香。まずは俺のを見てみろ」
 その声に顔を上げれば、撩は香の向かいで同じようにセッティングされた花畑の前に座っていた。手にしたナイフとフォークを巧みに使い、花畑は美しくガラス皿へと変化した。その流れるような所作に、香は思わず見とれてしまった。
「わかったか?」
 確認を求めるように撩が言ってくるも、「あんたのその姿に見とれていました」と言えるはずがない。そして見たからといって、どうやったらそう上手にカトラリーを動かせるのかも掴めない。「わからない」と首を横に振るのも撩に申し訳なくて、香は困った表情でやや俯いてしまった。
 見てもよくわからなかったか、と判断した撩は、ガタンと音を立てて席を立った。その様子を見た香は、撩が自分に呆れてリビングに戻ってしまうのだろうと考えてしまった。自分が情けなくて、撩に悪くて、少しずつ視界がぼやけてきてしまう。
 次の瞬間、ナイフとフォークを手にしたまま固まっていた香は驚くこととなった。なぜなら、香の後ろに回っていた撩が腕を伸ばしてきたからだ。そして、撩は香の手に自分の手を重ねた。それは先程、二人で観た映画のワンシーンだった。
「り、りょお?」
「俺が動かしてやるから、身体で覚えろ」
「だだだ、大丈夫っ。食べるから、食べるからっ!」
 顔を赤くした香のことなど構わず、撩は香の手に自分の手を添えて動かし、前菜を香に食べさせた。香はもともと、勘はいい方だ。こうやって実際に体験させてやれば早く身につくことも撩はわかっていた。
「わかったか? こうすれば食えるだろ」
「うん、わかった。ありがと…」
 さきほどは自分の中でイメージ出来なかった動きも、体験させてもらったことで頭に思い描くことが出来る。そっと撩が香の手から離れれば、香は美しい動きでガラス皿を綺麗にしていた。


「うわ〜っ、出来たぁ」
「効果覿面、だな」
「うん、本当にそうだね。…なんかさ、さっきの映画みたい」
「んあ? あぁ、さっきの、ね」
 もちろん、撩だって映画を意識していた。映画では、男に教えられて上手に食べられるようになった女の子は、
 You have become more womanly. So , more...
と言われ、その魅力に磨きを掛けるためのレッスンをさらに受けることとなったのだ。そう、ベッドの上で。
「じゃ、そういうことで」
「え? あ、きゃあ!」
 急に抱き上げられた香は、驚いて反抗することも出来なかった。そのまま撩が階段を上がり始めたことで、香は自分が撩の部屋へと運ばれていることを知った。
「撩、も、もしかして…」
「レッスンは続くってことで」
 やっぱりね、と香は思ったが、そのまま撩に身を任せることにした。香が腕を撩の首に回せば、
「はいはい、今度のレッスンは優しくさせていただきますよ」
と撩はニヤリと笑った。その楽しそうな表情は、明らかに悪巧みをしている。
「お手柔らかに…」
と言った香は、今夜は自分が優しくされるはずはないと悟っていた。

スポンサーサイト
  1. [ edit ]
  2. せつないふたりに50のお題

プロフィール

うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

最新コメント

最新トラックバック

« 2017 11  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

検索フォーム

The antenna is here.

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム


pagetop