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Ambivalent and Vague

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Möbius loop 2

星に願いを
繭に潜む望み」のつづき


 
「う、ん…」
 久し振りの感覚に目を開けると、そこは陽の光が差し込んだ部屋だった。自分の部屋ではない、どこか病院を思わせるようなその場所を、香は既に知っているような気がした。
「香さん?」
 カチャリと扉が開く音がしたかと思うと、女性の声が香に呼びかける。振り向けば、そこにはどこかホッとした表情のかずえがいた。
「香さん、気がついたのね! 気分はどう?」
 病室のような部屋、かずえの存在。それらを考えれば、ここが教授の屋敷だということが導ける。こうして治療を受けているということは、自分は一体どうなっていたのだろうか。
「よかったぁ。香さんが目を覚ましたって聞いたら、冴羽さんも安心するわよ。ちょっと待ってね」
 撩の名前を聞いて、香はこれまでのことを一気に思い出した。
 見知らぬ人間から手紙をもらい、会いに行ったのだ。手紙の主は、香の存在が必要だと言った。どうしても香でなければならない、と。
 撩が香のことを気に掛けてくれるのはわかっている。ただ、それは槇村の代わりというだけで、秘めた恋心は撩の心ない言葉で常に踏みにじられてきた。あの時の依頼人、そして麗香の存在。三人の会話がだんだんと遠く感じて、気がつけばアパートへと戻ってきていた。その後は心が凍ってしまったかのように、何を見ても心が動かない。あんなに何度も読んでは笑ったマンガも、何回でも涙を流してしまう映画も、香の心を動かすことはなかった。撩に対してもそうだ。自分の心を知りながらも、それを意味のないものとして扱い、そして壊すというのならば、その心を無くせばいい。だが、何年も温めてきた想いを簡単に捨てることが出来るのなら、こんなに香は悩んでいなかった。香に出来たことは、心を凍らせること。そして、撩以外に自分を求めてくれる存在がいれば、何を求められようが、その手を取るつもりだった。
 いつしか自分のことで泣けなくなっていた香は、来るかもわからない日を待ち続けることとなった。そして、それは案外早くやって来た。


 男が光る注射器を持っている。
「槇村さん、これで貴女は苦しまずに済みますよ」
 確かに男はそう言った。だが、「苦しまずに済む」というのは違うと香は思っていた。なぜなら、もはや苦しみすらも凍らせていたからだ。「この人は何を言っているのだろう」と思いつつも、香はそのまま腕を差し出した。


 かずえが嬉しそうに出て行ったのを見て、どうして自分が目覚めたのが嬉しいのか、そして撩が安心するのかがわからなかった。本当にわからなかった。ただ一言、香は呟いた。


「あのままで良かったのに…」





 香が目覚めたと聞いて、撩は早く香に会いたかった。その声を聞いて、そして温もりを確かめたかった。
「香っ!」
 そう言いながら、撩は香がいる部屋に入った。すると瞬時に撩は違和感を抱いてしまう。そこにいたのは、温もりのない笑みをたたえた香だった。
 まだ身体の回復が十分ではないからと、香はしばらく教授の屋敷で過ごすこととなった。撩は出来るだけ会いに行ったが、その度に目にするのは、抜け殻のような香の笑顔だった。そこには何も気持ちが込められていない。ただ反射反応のように、撩がいるから笑っているだけだ。撩はそんな笑顔を見たいわけではなかった。今までのように笑ってくれるにはどうしたらいいのか、撩には皆目見当が付かなかった。





 一ヶ月後、回復した香はアパートへと戻った。撩を拒絶することも、アパートへ戻ることを拒否することもない。表面上はいつも通りの二人だった。香は家事の一切を行い、依頼がないかをチェックする。その繰り返される日々に、撩はどこか油断していたのかもしれない。もしくは、今までと違う何かを認めたくなかったのかもしれない。だから、香が「自分の家に戻るね」と言ったとき、その意味がわからなかった。それは食後のコーヒーを二人で堪能し終わったとき、香が立ち上がって言った言葉だった。
「自分の家って? お前の家はここだろう?」
「確かにここだけど、元の場所に戻ろうと思って」
「元の場所?」
「うん。最初に住んだ、401号室」
 撩がナンパをしている昼間、時間のあるときに荷物を運んだりしたのだとどこか嬉しそうに言う香に、撩は何を言ったらいいのかわからなくなってしまった。一緒にいるからこそ近づけることが出来た物理的距離を、今は香から離そうとしている。どこか遠くに行ってしまうのならば諦めもつく。だが、今作られた二人の隔たりは何メートルだろうか。近くもないが遠くもないその距離は、遙か遠くよりも二人の間が埋められないことを示している。
「だから、家に戻るね。明日、また来るから」
「お前、パートナーだから客間に来たんじゃないのか?」
「何言ってるの? 私はパートナーじゃなくてアシスタントでしょ?」
 そういえばそんなことを、この前の依頼時に言ったような気がする。それはもちろん冗談で、香ならわかってくれると思ったからこその発言だった。それを肝心の香が冗談として受け取ってくれなければ、二人を終わらせる言葉となる。
「お前、あれは…」
「無理しなくていいって。こんな素人がスイーパーのパートナーになんかなれっこないもん」
「香…」
「いいんだって、もう。わかったから、もういいの」
 撩にこれ以上何も言わせないように「おやすみなさい」と作り笑顔で言った香は、そのままリビングを後にした。もちろん、撩は香を追うことはできなかった。
「マジかよ…」





 ある日、伝言板を確認した帰りにキャッツへ寄った香は、そこで会うには珍しい人物に出会った。
「あら、香さん」
 麗香は相変わらず忙しそうで、多くの資料を抱えていた。
「麗香さんは大変そうね」
「まぁね。…ところで、香さんはまた捕まっちゃったんですって? 撩と組むのも大変ね」
 どこか棘を感じさせるその言葉は、香の心をさらに凍らせていく。どんな形であれ、あの時の香は「また」捕まったのであり、撩が助けに来てくれたことには変わりがない。
 「まるで野上さんが冴羽さんのパートナーみたい」と依頼人が言ったのを思いだした。あの時の麗香は、確かに撩とパートナーだったと香は思う。それならば…。
「じゃあ、これ。麗香さんに渡すわ。このことは、麗香さんが撩に言ってね」
「ちょ、ちょっとこれ。ねぇ、ちょっと!」
 半ば押しつけられたかのごとく麗香の手に置かれたものは、シティーハンターのパートナーである証、コルトローマンだった。香は何とも言えない笑みを浮かべ、そのままキャッツを去っていった。
 麗香は香が何を考えているのかがわからなかった。ただ、自分が撩のパートナーである証を持てたことが嬉しくてたまらない。その気持ちを見抜いたのだろう、カウンター内にいた美樹が「麗香さんっ!」と声を掛けた。そこには確実に、非難の意味合いが込められていた。麗香はコルトローマンを抱きしめながら、キッと美樹を睨みつける。
「私だって。私だって、撩のことが好きなんだからっ!」
 麗香はコルトローマンをバッグにしまい、資料と共にキャッツを飛び出して行った。


 そのまま麗香が向かったのは、撩のアパートだった。撩はリビングで煙草をふかしながら、ソファに横たわって何かを考えている。自分がパートナーの証を手にしたことを、一刻も早く撩には知ってもらいたい。そして、自分がパートナーであると、麗香は撩に認めてもらいたかった。
「撩っ!」
「おぉ、麗香か。何か用か?」
「何か用か、じゃないわよ。私たち、もうパートナーなんだからっ」
「なぁに、麗香ちゃん。やっと撩ちゃんともっこりする気になったのぉ?」
「それでもいいわよ。でもね、私はこれを持っているから」
 そう言った麗香がバッグから出したのは、先程のコルトローマンだった。ヘラヘラとしていた撩は、その銃を見た途端に険しい表情となる。
「それはどうした?」
「撩のパートナーである証でしょ? 今日から、私が持つことになったの。だからね…」
 麗香が言い終わらないうちに、撩は麗香の手からコルトローマンを奪い取った。
「何するのよっ。香さんがせっかく渡してくれたのに」
 撩の手から奪い返そうとしても、それは無理な話だった。普段は麗香に、女性に向けないような冷たい目をして、撩は言い放つ。
「これに触れてもいいのは、香だけだ」
 反論しようにも、こんな撩を麗香は見たことが無かった。無言の圧力を感じた麗香は、「出て行け」というメッセージに逆らうことなくリビングを去るしかない。千載一遇のチャンスだと思っていた瞬間は、ただ撩を怒らせ、撩のパートナーは香以外にはあり得ないということを思い知らされただけだった。


 どうして香がコルトローマンを麗香に渡したのか。それを聞こうと夜、夕食を準備している香のもとへと足を運んだ。だが、もしそこで決定的な一言を投げかけられたら、自分はどうすればいいのか。その可能性を乗り越えることが出来ず、撩はやはり何も言えなかった。そして自分勝手にも、撩は香にイライラしていた。
「どうしたの?」
「何が?」
「だって、険しい顔をしているから…」
「いんや、お前のメシは相変わらずだな、と思っただけだ」
 これもいつものやり取りだ。美味しいと言うことが出来ず、悪態をつく自分。それを許してくれていたのは、今までの香だ。今の香は違うということを、イライラは撩から忘れさせていた。
「そうよね、好きな物を食べたいもんね。…わかった、もう作りに来ないから」
「え?」
「美味しくない食事を無理に食べなくてもいいと思うし。撩なら、美味しいものをたくさん知っているでしょう?」
 だからもう作らないね、という言葉を聞いて、撩は絶句してしまった。部屋も離れてしまった、コルトローマンも手放された。そして、自分に対して想いが籠もっていたはずの食事も終わりを告げる。香との関係をどこで繫げればいいのか、それを撩は見失ってしまった。
 今、目の前にある分も片付けて捨てようとする香を「待て」と止めて、撩は急いで料理を口にした。
「味わえないんだから、そんな、食べてくれなくても…」
 二人の会話は、その後も重なり合うことはなかった。





 あの日から、撩と香はほとんど顔を合わせていない。一緒にいたからこその生活だったのだと、撩は今更ながらに気がついた。全く別の部屋にいては、香が何をしているかがわからない。何を考えているのかも読み取れなくなってしまった。
 撩は確かに、美味しいと言われるものを知っているし、それを手に入れることは簡単だった。しかし、問題はそこではなかった。何かを口にする唯一の機会が食事なら、撩を狙う何者かが食事によからぬ物を混ぜたとしても珍しくはない。実際、撩はその手で何回も命を狙われたし、自分も同様の手を使って依頼を遂行したことがあった。だからこそ、香の食事は何ものにも代え難かったのだ。何の心配をすることなく口に出来る食事が毎日続く、それは撩にとって奇跡に近かった。
 いくら香に「美味しいものをたくさん知っているでしょう?」と言われても、それを手にする気分にはなれない。いつしか撩は、食事をする気も失せていた。ちょうど海坊主から大量に送られたバーボンがあったため、それで命を繋いでいるようなものだった。


 そんな撩を見かねて、キャッツへと足を運んだ撩に美樹は食材を差し出した。
「これで香さんに作ってもらいなさい。それぐらいはしないと、ね」
 どこまでも香の味方である美樹は、撩に腹をくくれと迫っている。そもそも、今の状態は撩が招いたことだ。大切だと言いながらいたぶり続けた結末は、心が凍った香だったのだ。あんな心の籠もっていない、表面的な香の喜怒哀楽など見たくはない。だが、それを溶かせるのは撩だけだということも、美樹はわかっていた。いつまでも煮え切らない男の背中を押し続けるのは、美樹の役目だった。
「冴羽さん、本当に貴方はどうしたいの? 香さんにばかり求めてちゃダメよ」
 教授と夢の槇村は「香の望みを叶えてやれ」と言い、美樹は撩がどうしたいのかを考えろと言う。
「やれやれ。俺が決断しなきゃいけない、そういうこったな」
 今まで逃げてきた撩は、もう逃げる場所はないことを悟った。


 美樹からの食材を持って、香が過ごしている401号室のチャイムを鳴らした。「はーい」という声と共に玄関の扉が開く。
「撩? 私に用事なんかないはずなのに」
「いんや、あるよ。…まずは部屋に入ってもいいか?」
「うん、どうぞ」
 拒絶されず部屋に通された撩は、まずは第一関門を突破したと安堵した。持っていた荷物を香に差し出す。
「これ、美樹ちゃんから」
「美樹さん? どうしたのかしら」
「これで食事を作って貰えって」
「作って貰え? 誰が、誰に?」
「俺が、お前に。…作ってくれよ、食事」
 撩にとって、この言葉を伝えたことは頑張りだ。自分のために料理を作って欲しいなど、撩は香に言ったことがなかった。そんな言葉を告げたのだ、香も考えてくれるだろう。撩はそう思っていた。
「美味しいもの、たくさん食べてるんでしょ?」
 だからこの食材が勿体なくなることをしちゃダメだよ、と願いを否定されたことを耳にして、撩は動けなくなった。香の心を溶かすにはどうしたらいいのか。願いを伝えても動かない心を動かす術を、撩は思いつかない。何を言っても、今の香には響かない。
 撩が室内で立ちつくしていると、いつの間にか香は出掛ける準備をしていた。
「どこへ?」
「アルバイトよ。だって、生活費を稼がなきゃいけないもの」
「んなっ。危ないだろ、それは」
「何言ってるの? 危ないって何?」
「香…」
 今まで何度も撩のせいで攫われてきた事実すらも無かったことにするような言い方に、撩は心が折れ始める。実際、香はまだその身を狙われる存在だ。アルバイトなど、その内容が何であれ、させたくはなかった。
「なら、給料を出すから」
「出してくれるんだ」
 香が自分の話に乗ってくれた、これならアルバイトを辞めさせられそうだ。撩がそう思うも、今の香は噛み合う答えを出してくれない。
「それは家賃で相殺して。それ以外は自分で稼ぐから」
 香は撩の横をすり抜け、玄関横にたてつけてある鏡を覗き込んだ。肩から提げていたバッグを開け、中から口紅を取り出す。ひねり出せば、中からは瑞々しいオレンジの色味が現れた。それを唇に当て、香は自分を彩っていく。洋服は今までと同じなのに、今まで選ばなかったような化粧をされると、それだけで香が自分の手が届かない場所に行くような気がしてしまった。
 玄関がガチャリと音を立てて開く。
「ほら、撩も部屋から出てよ。出掛けられないじゃない」
 美樹の好意と応援は、心を凍らせた香には通じなかった。





 そろそろ夜になろうかという空には、いくつかの星が輝いていた。不夜城と呼ばれる街で目にする星は、一際明るい星だ。そんな星に香は願わずにはいられない。
「誰かまた、私を必要としてくれる人はいるのかな…」
 その先には無が待っていたとしても、香はまた差し出された手を取るつもりだった。
「それがきっと、一番いい方法だもん」
 そう、香はまだ撩のことを想っていた。想いはそのままで熱量だけが失われた状況では、撩の邪魔をしない、ということしか香には出来ない。
「撩…」
 想いのベクトルはどこかを彷徨い、どんな形となっても果たされることだけを待っている。


 そう、お互いに。

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うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

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