Ambivalent and Vague

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拈華微笑 2

祭りの最中 (R-18)
※好みの分かれる内容ですので、「何でもドンと来い!」という方はどうぞ。


 
 二人はじっと見つめ合い、そしてそこから動かない。


 先にじれて動いてしまったのは撩だった。身体に渦巻く昂ぶりを抑えられなくなった撩は、香の胸を掴んでいた手を離して、そのまま香の身体を突き飛ばした。屋上のコンクリートにぶつからないように受け身をとったものの、やはり香は後ろへと倒れ込む。コンクリートのザラザラとした感覚が、香の肌をチリチリと痛めつけた。そんなことは気にしないとばかりに、間も置かずに撩がその上へと覆い被さる。乱れたワンピースから伸びる白い肌に手を這わせ、そのままワンピースをめくり上げた。レースがふんだんに使われたグレーの下着以外は身につけておらず、視野に入った腹部にさっそく唇を落とす。貪るわけでもなく、むしゃぶりつくわけでもなく、ただ舌で舐めあげることを撩は繰り返していた。昂ぶるといっても、身体が臨戦態勢のままで、神経は緊急時に備えている、そんな感じだ。身体を絡ませる相手をどう想っているか、といった部分は欠落していた。だからこそ、ただ淡々と身体を動かし、身体さえ上りつめればよかったのだ。
 香はそんな撩の様子をじっと見つめている。何をするでもなく、自分の身体を使って何かをしようとしている撩の様子を見ていた。それはまるで、観察しているかのようだった。二人の間には一体どんな感情が横たわっているのか。いや、それぞれが感情をどこかへ置き忘れてきたように、行動にはどんな想いも込められていない。


 香はそのまま撩が脱がせていくことに身を任せ、やはり何も言わずに見つめていた。いつもなら少しの愛撫にも身体が色付き、微かな声を上げるはずの香から反応がないと気付いた撩は、視線だけを香に向けた。さきほど見た、自分を挑発するような強い光はもう見られない。代わりにあったのは、何の感情もないガラス玉のような目だった。その目を見ていると、なぜか撩の心はざわつき始めた。いつもなら身体の昂ぶりを収めるために女を誘い、ただ儀式や作業のように淡々とベッドの上で身体を動かせば、いつかは昂ぶりの大半がどこかへと流れていた。しかし今は、それが許されそうにはない。その心のざわつきが撩の行動に影響を及ぼし始める。
「おい、なんで何も反応しねぇんだよ」
 撩が問い掛けても、香は撩を見ているだけで何も言わない。ただじっと、その感情のないガラス玉で。
「おい、聞いてんだろうが!」
 今までにない展開に、身体の昂ぶりはそのままで撩は焦っていく。いつもなら自分の手や唇で鮮やかに変化していく香が、今はそれを拒否しているかのように動かない。撩は自分が拒絶されたように感じられ、淡々と作業していくこと自体が難しくなってきた。
「何か言えよ、香」
 それでもそこに置いてある人形のように何の反応も示さない香を見て、撩の昂ぶりは怒りの感情を伴ってきた。いつも自分がやってきたことを許してもらえない状況に、見当違いだとは頭でわかっていながらも香への怒りを止められない。いつしか撩は、香の身体を苛むように手荒く扱い始めた。
「何も言わねぇなら、こうしてやるよ」
 香がどこなら感じるのか、それを知り尽くしているはずなのに、この時の撩は何も引き出せない。自分の動きを激しくすれば、いくら今の香でも反応を示し、自分をもっと高みに連れて行くようなあの声や吐息を享受出来るに違いない。撩はそう思って香の身体を貪っていく。いつものように、そしてあの時の女のように、その中心で指を暴れさせれば、条件反射のように身体はとろけていく。


 そのはずだった。





 今このとき、香は撩に抱かれていながらも考えていたことがあった。それは、仕事を終えた撩が何を求めて女を抱いていたのか、だ。仕事で高まった衝動を女の身体にぶつけたいだけだと思っていたが、そんな単純なことではないらしい。それだけではない。そもそも、仕事の中で撩の精神を支配していったのは一体何なのか、ということも問題だった。本能的な何かが高まっているのはわかるが、その具体的なところは読みとれない。
 撩の唇や指がいくら自分の感じるポイントを辿っても、今日の香に快楽はもたらされない。ただひたすらに香は撩を見続け、その動きを感じていた。


 そしてある瞬間、香はふと気付いたことがある。
 これまでにも香は、撩に手首を掴まれてベッドへ縫い止められたことなどは数多くあった。手首を掴むその力の強さに香は、
「これじゃ、手首が折れちゃうじゃないの」
と言ったことがある。その時に撩は、
「そんなことない、ちゃんと加減してやってるだろ」
とニヤリとしながら言っていた。力任せに香の身体を捕まえようとしていても、やはりそこには配慮というものが存在していたし、あくまでも「捕まえる」ということに他ならなかったのだ。
 だが、今はどうだろう。香の身体から反応を引き出そうと必死な撩の手は、果たして香を「捕まえる」だけなのだろうか。今、撩が香の手首を掴んでいる感覚、それは本当に「掴んでいる」のだろうか。
 香の頭の中に、あるイメージが浮かび上がる。それは一本の枯れ枝だ。細くもない枯れ枝を撩は手にして、その両端を持った。そのまま力を加え続け、ついに枯れ枝はパキンと音を立てて折れていた。

 ───今、撩のこの手は何をしたいのだろうか。
 ───撩の手がこの後、自分の首に掛けられたとして。
 ───その手は自分から反応を引き出したいだけなのだろうか。
 ───それとも。
 ───一切の反応を終わらせたいだけなのだろうか。

 撩の手が香の首へと移動し、さすっていく。何かを探しているようで、何かを躊躇っているその動きは一瞬、掌を押しつける動きを見せた。
 そして、香は確信した。
 恐らく、これは自分には決して向けられることのない衝動であり、誰に対しても果たされることのない望みなのだろう。撩はそもそも精神活動が活発な人間だと香は思っている。だからこそ思考も早く、スイーパーのように瞬時の判断が生死を分けるような仕事が出来ているのだ。だがそれは、有り余るエネルギーに振り回される可能性をも示している。撩の性的関心はそんなエネルギーの性的衝動への変形であり、そして変形は一種類ではないはずだ。

 ───さっき、撩はあたしの手首を折ろうとする動きをした。そして、あたしの首も。

 撩自身を含めた人の生死に関わることは、いくらそれが仕事だとはいっても、撩の衝動を高める。そして、いつもは奥底に隠された何かがスッと表面に出てくる機会を与える。意識されていた性的衝動を突き抜けて「それ」が撩を支配すれば、撩の目の前にいる存在は何でも枯れ枝のようになってしまうのだろう。
 自分が決して見ることを許されなかった撩の姿を、今まで何人の女が見てきたのだろうか。「それ」の願いを叶えることなく、しかしどこかへと逃がしてやるために必要だった行為。

 ───ただひたすらに淡々と動いて、身体だけを何度も上りつめさせるしか術はない。
 ───感情まで上りつめさせれば、すぐ「それ」に撩は支配されてしまうのだろう。

 そんな撩の奥底を見させてもらえなかった自分は、撩にとって一体何者なのだろうか。ぞんざいな扱われ方をしたであろう、しかし奥底を垣間見ることが出来た女たちに香は嫉妬するし、その奥底に隠された撩すらも自分だけが見ていたい。そんな独占欲を香が抱くことは、果たして間違っていることなのだろうか。

 ───破壊衝動。
 ───それすらも、自分だけが見られるものであるならば。

 香はとある行動を思いつく。それが最善の策だとは思わない。むしろ、最悪だと香は思う。それでも、今の香にはその行動しか思いつかないし、その行動を通してでしか、自分の想いなど撩には通じないのではないかと感じていた。一種の賭けであることを知りながら、香もその独占欲に突き動かされ始めていたのだった。





 首に押し当てられていた掌は再び動き出し、荒々しい性行為の動きへと戻る。現実へと引き戻された香は、撩の両手首を掴んだ。今日これまでには見られなかった香の動きに、撩の動きが止まる。そして訝しげに香の顔を見ると、そこにはさきほどと同じ、撩を挑発するような強い光を放つ目があった。
「それしか出来ないの?」
「なに?」
 いきなり香が何を言い出したのか、撩はすぐに理解することが出来なかった。
「そんなことじゃ、あたしを屈服させることなんて出来ないわよ」
「なんだと?」
「モノとして扱われても仕方ないわ。けれど、それであんたの気は済むのかしら?」
「……」
「本当はもっとやりたいこと、あるんじゃないの?」
 行為に淡々と身を任せていればいつしか通り過ぎていった「それ」が今、撩の中に現れようとしている。しかも、香を目の前にして、だ。仕事としてならば、「それ」に枠を与えて制御することが可能になる。だからこそ自分の中で不問にしていた「それ」を、今この場で表面化させるわけにはいかない。だが、一回出てきてしまった「それ」を制御する術を撩は知らない。

 ───破壊衝動。

 こんな自分が身を任せるにはとても危険な衝動を、香によって引き出され、そして直面化させられると撩は思ってもみなかった。
 手首を掴んでいた香の手が撩を導いていく。どこへ向かうのか、何をしようとしているのか。それがわかると、撩は香の動きを止めようとした。だが、まるで金縛りにかかってしまったかのように自分の身体を動かすことが出来ない撩は、香を止められない。

 ───わかっている。

 これだけではない。破壊衝動の向こうにある「何か」すらも本当はわかっているから、今ここで止めなければならないのだ。破壊衝動と「何か」がもたらすものが、撩自身にとって実は今でも甘美であり続けていると知りながらも、それを実現させてはならない。そう思うにも関わらず、「何か」の対極にいるはずの香が実現へと誘っている。


「ほら」
「何をしてるんだ、おまえは」
「見せてよ、あんたを」
「や、めろ…」
「あんただったら、構わない」
「やめて、くれ…」





「好きよ、撩」





 赤い唇から言葉を放つと、香は撩の両手を自分の首へと掛けていった。

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