Ambivalent and Vague

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拈華微笑 3

祭りのあと (R-18)
※好みの分かれる内容ですので、「何でもドンと来い!」という方はどうぞ。


 
 撩は自分の手が何をしているのか、それが信じられなかった。そして、それを導いたのが香本人だということも信じられなかった。


「愛しているわ、撩」


 このまま撩が手に力を加えれば、香の細い首は支える力を失うのだろう。自らの破壊衝動を鎮める代わりに引き受けなければならないのは、香という存在の喪失だ。その代償を支払ってまでも、撩は自身の破壊衝動をどうにかしたいのだろうか。今まではただ女の身体を貪って衝動を鎮圧すればよかったものが、これでは何も生み出さない。残るのは、喪失の悲哀だけだ。目の前に力無く横たわる愛する女を見た自分がどうするというのか、そんなわかりたくもない未来が一気にイメージとなって撩に押し寄せてきた。
 破壊衝動を抑えられるのも一瞬のことだろう。今度は別の意味で、衝動はコントロールを失う。そもそも香という存在が撩にとってコントロールの一部であったのに、それを自分が壊してしまうのだ。何もかもを破壊したい衝動を香にぶつけたあと、今度その衝動は自らへと向かってくる。それは撩が死を願う死神だったころから秘めていた死の欲動につながり、撩の手は懐の愛銃に伸びるのだろう。そして…。
 今も甘美なる誘惑をもって脳内で映像化されるその場面を、撩は激しく頭を振って追い払った。確かに二人で生きると誓ってからも、撩はどこかで迷いを隠し持っていた。仕事で自分の身体活動も精神活動も賦活されれば、どうしても本能に近い衝動が激しく動いてコントロールが利かなくなる。刺激されるのはいつも破壊衝動であって、何かを生み出す行為に邁進することはなかった。何もかもを壊したいという衝動は、その根っこに自分を壊したいという死の欲動が眠っている。それでも、そのために香を道連れにするなど、今の撩には出来ない。


「だから、ほら…」
「…できるわけ…」
「え?」
「できるわけ、ないだろう!」
「どうして?」
「そうしたら、俺は」
「俺は?」
「お前を喪うんだぞ、永遠に」
 撩はどうして香がこんなことをしたのか、理解できなかった。死んでしまったら何もならないのに、香は今、それを撩に差し出そうとしている。撩の破壊衝動を無難な形で収めるのではなく、直接的な形で対処するように香は求めていたのだ。
「自分がやっていることの意味を、おまえはわかっているのか?」
 この出来事が香の衝動的な行為だと理由付けするには不可解な点が多すぎると思うも、自分の首を差し出した香の行為に意味付けなどしたくはなかった撩は、いつものように「わかっていない香」を強調しようとした。だが、
「わかっているわ、そんなこと」
と即答され、撩は愕然とした。そんな撩を見ながら、香は話を続けた。
「ねぇ、撩。あたしはあんたの全てを見てはいけないの?」
「俺の全て?」
「あたしに見せない部分があるのはわかる。だからって、あんたがやっていることを納得しなきゃいけないの?」
「香…」
「他の女が見られて、あたしだけが見られないの、撩の奥底を」
「おまえだけが見ている俺の方がいっぱいあるんだぞ」
「じゃあ、どうして奥底をあたしには見せてくれないの?」
 自分の想いをぶつけてくる香に、撩は何も言えない。香のためを思って隠していたことが、実はその正反対の意味を持っていたという事実に、撩はコルトローマンの照準を狂わせていたときのことを思い出した。香の手を血で染めたくないばかりに、撩はガラクタ同然の銃を香に渡していた。撩の側にいたい、力になりたい香はそのことを知らされないまま時が過ぎ、自分がどうやっても撩の足手まといにしかならないという想いを積み重ねてしまったのだ。これはミックとの決闘時に自分の想いを告げて解決したと思っていたが、同じような問題は二人の間にまだまだ残されていた。
「あたしだって、撩の全てが欲しい。それが例え自分を苛むものであっても、全てを見たいの!」
「そうしたらおまえ、俺はおまえを…」
「壊すってこと? そんなの、今でも十分やってるじゃない」
「香?」
「女の存在を見せつけて、あんたはあたしを切り刻んでいるじゃない!」
「それとこれとは違うだろ?」
「違わないわよ、あたしにとっては。それだけのことをしているっていう自覚、あんたにはないの?」
 その香の言葉を聞いて、撩はハッとした。そして、「またか」と思ってしまう。


 撩が香の幸せを願うのは、いつだって変わらない。この世の中で一番、香には幸せになってほしい。だがそのためには、裏の世界に住んでいる自分が香と愛をやりとりしてはいけないし、表の世界にこそ香の幸せがあるのだとずっと思っていた。その未来に香の幸せがあるのなら、今目の前にある痛みなどこらえればよかったし、香にもそれを強いてしまっていた。
 それが間違っていたと気付いたのは、いつのことだったかと撩は思う。香の幸せは香自身が決めることであって、いくら撩が考えたところで、香の願いとずれてしまえば幸せから遠くなる。香は既に決めていたのだ、裏の世界で撩と一緒に歩いていくということを。そして、それこそが香自身の幸せであるということを。


「今までだって同じよ、あたしは散々壊されて…」
 言葉はそこで途切れ、香はそれ以上何も言えなくなってしまった。なぜなら、撩が香の唇を自分のそれで塞いだからだ。
「ん…」
 香が吐息を咲かせれば、撩の腕が香の身体を抱き寄せた。その力はどんどん強くなり、お互いを探る唇も激しくなる。二人が唇を離したとき、香の唇を彩っていた赤は乱されていた。撩に吸われてぽってりと膨らんだ唇は、その先の行為を強請っている。香から放たれた誘惑に堕ちてしまいたい、そう思った撩が再び唇を重ねようとしたその時、遠くから近づく何者かの気配を感じた。今までの空気がなかったかのようにスッと身体を離した撩を哀しい目で見た香を落ち着かせるべく、撩は瞼に口づけを落とした。
「どうやら、今日のターゲットだった連中がこっちに来てるみたいだ。まずはこっからズラかるぞ」
 香の返事を聞く間もなく、ライフルのケースを担いだ撩は、香を抱き上げて走りだした。近くに止めてあったクーパーを発進させたとき、多くの兵士があの廃ビルへと入っていくところだった。





 帰宅した二人は、そのまま撩の寝室になだれ込む。ベッドへと押し倒された香に撩はのし掛かり、香の身体を味わい始めた。力の加減などしないまま、ただひたすらに撩は香を身体全体で感じようとしていく。いつもなら優しく包まれる香の胸は力任せに握りつぶされ、痛みの中、赤い実を舌で転がされた。そして、胸をそっと撫でられたかと思えば、赤い実を潰すように噛まれた。痛みと快楽の交錯が香の全身に広がり、撩から注ぎ込まれている何かが香の身体の中で暴れていく。それは身体の中心から零れていく何かで外界に現れた。


 そこには言葉もなく、アイコンタクトすらもない。


 撩は香に、こんな自分をも受け止めて欲しいとは、やはり思えなかった。それで香が哀しんだとしても、理由もなく全てを破壊し尽くしたくなる衝動に、その向こうにある自らの死への親近感に、香を巻き込みたくはなかった。これが撩の抱える闇と言われればその通りで、誰もその中に入ることは許されない。もちろん、香ですら同様だ。
 ただ、そこからたまに湧きだしてくる闇の一部なら香にぶつけてもいいのかもしれない、と撩は思い始めた。今までは身体だけが震えるように淡々とこなしていた行為も、香となら精神の昂ぶりを許してもいいのかもしれない。闇の一部が暴走した先にはきっと、香の喪失が待ち受けている。それはいくらなんでも、撩にとっては御免被りたい出来事だ。その限界ラインが撩の中である限り、決して香の喪失にまでは至らない。


 そう、きっと。


「痛いよぉ、でもいぃん…。もっと、もっときてよぉ、りょお」
「わかってるよ、香…」
 撩をもっと自分へと引き寄せるかのように、香は撩の頭を掻き抱いた。撩から押しつけられた震える感覚に、香の細く白い指が撩の黒髪を乱した。身体の中心から零れていく透明な何かを遡り、撩の指はその源泉の入口へと辿り着く。何の抵抗もなく入り込んだそこは温かく、そして最奥へと撩の指を引きずり込もうとしている。
「いぁ…あぁ…そこ、ん、いいの、そこ…」
「ん、ここか?」
「いったぁああ…。いた、い、ひぁん、あぁああぁ、あぁん、そこぉ」
 強請る場所を強引に指で責めれば、次第に香の身体はしなって悦びを見せた。それを見た撩が指をスッと抜き去ると香は、
「いやだぁ、やめちゃいやだぁ」
と今にも泣きそうな顔をして、その身体は貪欲に撩を求めている。
「そうだな、止めるのはよくないな」
 そう言った撩は、熱くそそり立つ凶器を香の中へと一気にねじ込んだ。香は声なき悲鳴を上げ、微かな震えを見せながら軽く達していた。それにも構わず、撩は思うままに腰を振り続ける。痛みから転じた快楽はまだ終わりを見せず、香は啼きながらひたすら撩の名前を呼び続けていた。そして香の声が、いつしか遠くに聞こえていた。


 次に目覚めた撩が窓越しに見た青空は、どこまでも澄んでいた。





 横を見ると、香はまるで犯されたような痕を残しながら横たわっていた。撩が指で香の身体を辿っていると、「うぅん」と言いながら香が目を開いた。
「うん? あ、おはよう、撩」
「あぁ、おはよう。…おまえ、身体は大丈夫か?」
「え? あぁ、あたしなら大丈夫」
「そっか…」
 撩が安堵した表情を見せると、香は撩へとすり寄り、そして撩の顔を見つめた。
「ねぇ、撩」
「ん? なんだ、香」
「昨日、あたしが言ったことだけど…」
「あぁ。おまえの言いたいことはわかったよ。結局、俺の勝手な想いだったな」
「うぅん、違うの。あたしがああ言ったからって、撩に変えてほしいとは言わないよ。だって、それが撩だもん」
「香…」
「わかってくれればいいの、あたしがそういう気持ちだって、わかってくれれば」
 撩が「わかったから、もう言うな」と言おうとしたとき、香から続いて出た言葉は撩を動けなくさせた。
「わかった上で、他の女を抱くなら抱けばいいわ」
「おまえ、何を…」
「自分がしていることはそういうことだって、わかってやるなら、それでいいの」
「だからって、それは」
「あたしは撩が好き、だから我慢するしかない。だけど、あたしを壊すぐらいのことをしていると、あんたにも知ってもらいたかった」
「香、もういいから」
「例え他の女の身体を壊しても、同時にあんたはあたしの心を壊しているの」
「わかったから、もう言うな…」
 撩はたまらず香を抱きしめた。撩の独りよがりな想いで、またしても香を傷つけてしまっていた。そのことへの謝罪を込めて、撩は香を抱きしめ続けた。香はそんな撩の動きに、何も言わずに身を任せていた。


 どれぐらい経ったのだろうか、二人の空気が落ち着いたように思えた撩は、
「よし、じゃあ今から俺が何かメシを作るか」
と香に言った。香を自分の事情に付き合わせてしまった、そして付き合ってくれたことに対する礼のつもりだった。
「珍しいわね、撩がそんなことを言うなんて。…埋め合わせのつもり?」
「そんなんじゃねぇよ、そうしたい気分なんだ」
「そう、じゃあ、お願いしようかな」
 新しく出した服を身に纏い、撩は「ちょっと待ってろよ」と香に言い残して部屋を出て行こうとした。しかし、香が何か言ったような気がして、
「何か言ったか?」
と振り返った。
「ううん、何でもない。じゃ、お願いね」
 ニッコリと微笑んだ香に笑顔を返し、今度こそ撩は台所に向かった。


 部屋に残された香は、何かを堪えるように唇を噛んでいた。










「だから、あんたはわかってないのよ」


 香のあの呟きは、撩には届いていなかった。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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