Ambivalent and Vague

This page is the only Fan Fic.

50/ここに在る

Here and Now

 
 これまで数週間、香は教授の家で世話になっていた。撩自身の仕事も重なり、しばらくは会いたくても会いに行けない状況が続いていたが、それもやっと終わり、香を迎えに行くことが出来た。
「撩っ!」
 香は撩への想いを隠すことなく、その姿を認めた途端に駆け出した。
「おいっ、まだ走るな!」
「だって、撩!!」
「はいはいはい、わかったから、まずは歩け」
「はぁい、ありがと」
 香の目にあるのは、どこまでも撩を信じる光だ。その信頼に足るようなことを自分はしているのだろうか、と撩は思う。





 先日の依頼で、香は大怪我を負ってしまった。撩が香のもとへ辿り着いたとき、香の服が赤く染まっているのが目に入った。そんな光景はこれまでにいくらだって目にしているはずなのに、相手が香だというだけで心が黒く塗りつぶされていく。このまま、この血の流れが香を黄泉の国へ引き寄せたとしたらどうしたらいいのか、そんな考えが撩の頭を駆け巡った。それを頭から追い払うように、撩は出来る限り止血のための対応をしていた。
 今回は間に合った。今までも間に合ってきた。だが、これから先も間に合うという保証はどこにもない。撩がどんなに香を守りきると誓っても、この世に100%ということは存在しない。香が自分にとって必要な存在だからこそ、撩はその100%で保証されない状況がとてつもなく不安だった。もはや自分から手放すことなど出来ないのに、安心して香を隠せる場所などどこにもない。
「ごめんなさい、また迷惑かけちゃったね」
 目覚めた香が必ず言う台詞だ。だが、それは違うと撩は思う。香をそのような状況に追い込む自分が悪いのであって、香には何の落ち度もない。そもそも自分と関わらなければ、香が危険な目に遭うことなどなかったのだ。
 それでも、撩は香を手放すことが出来ない。
 自分が今の自分と違う存在になれば、何の心配もなく香を愛することが出来るのだろうか。今ですら不確かな自分の存在を消し、また違う存在へと移りゆく。そうすれば、香が危険な目に遭うこともなく、そして自分もずっと一緒にいられるのだろうか。教授に言って戸籍を偽装すれば? わからないように整形すれば? 誰も知らない国に行けば?
 どうしたら、どうしたら…。





「りょお?」
「あん?」
 香が撩の顔をじっとのぞき込んでいる。そして人差し指で、撩の眉間をグニグニと動かした。
「香ぃ、何するんだよぉ」
「まーた、いつものように考えてたんでしょ」
 どうやら、香は撩が何を思っていたのかをわかっているようだった。
「そんなん、おまえだって、毎回同じことを言うじゃねぇか」
「だって、そう思うんだもん」
「それは俺も同じだ、仕方ねぇだろ」
「ぷぷぷ、ふふっ、あはは」
「…なんだよ、人が真面目に…」
 突然笑い出した香に、撩は戸惑いを見せた。そんなに自分は気持ちを隠しきれないような表情をしていたのだろうか、この考えは笑われるようなものなのだろうか、と不安になってしまう。
「違うわよ。一緒にいたいって思うのに、なんで毎回性懲りもなく、離れるようなことを考えちゃうんだろうなぁ、って」
 普段はあまり聞くことのない気持ちの部分に、撩は無言で香に先を促した。香は柔らかく微笑みながら答える。
「でもね、本当に一緒にいたいから悩むんだろうなって。そこに幻想なんて抱いたら、あたしたちは終わるもの」
「幻想、か」
「そうよ、だからあたしは自分で何とか出来るようにしたいと思うし、撩もいろいろ考えてくれてる。それでいいじゃない、って思ったの」
「そんな、そうしたらおまえ」
「撩が100%抱える必要はないもん。撩が完璧主義なのはわかるけど、あたしが持てるものはあたしが持てばいいじゃない」
「香…」
「信頼してよ、あたしのことも。ね、撩」
「おまえのこと、信頼してないわけじゃ…」
「わかってる。でも、無謀なことはしないって、約束したじゃない。だから、ね」
目の前でニッコリと笑う香を見て、撩は自分の中に刺さっていた不安の欠片が少し抜けていくのを感じた。
「それでいいじゃない。ね、撩」
「そうだな…」
 ───そうだな、まずはおまえを抱きしめよう。
 そう思った撩は、香をそっと腕の中に閉じ込めた。そんな撩の行動に一瞬驚いた香だったが、自分も撩の背中に腕を回して抱きしめた。
「香、おかえり」
「うん、ただいま、撩」

Odai_picture2.png

 まずは二人がここにいること、その確認作業から撩と香は再開することにした。







Special Thanx to M.Hituji

スポンサーサイト
  1. [ edit ]
  2. せつないふたりに50のお題

プロフィール

うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

最新コメント

最新トラックバック

« 2017 09  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

検索フォーム

The antenna is here.

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム


pagetop