Ambivalent and Vague

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Zero Gravity 25 (K)

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遠く近い真実

 
 水が身体にまとわりつきながら、私はゆっくりと湖の底に沈んでいく。遠くなる湖面と意識は、私の目の前を暗くしていた。
「もうだめだ…」
 そう思って目を閉じる直前、水以外の何かが私の身体に絡み付くのを感じた。それが何かわからないまま、あたりは真っ暗になった。





 次に私が目を開けると、どこか見慣れた天井が視界に広がっていた。ゆっくりと頭を動かせば、そこが教授の家の部屋であることに気が付いた。
「目が覚めたか」
 声がした方へと顔を向けると、そこには椅子に座っている撩の姿があった。なぜかはわからないけれど、安堵したかのように撩は息を吐き、
「気分はどうだ? どこか違和感とかはあるか?」
と声を掛けてきた。私が意識をなくす直前に何があったのか、それを急に思い出すと、自分の不用意さが哀しくなってくる。目の奥でじわりとくる何かを押さえるように、私は目を閉じた。
「ごめんなさい…」
「どうして謝る? おまえは巻き込まれたんだ、何も悪いことはない」
「でも、私がもっと気を付けていれば」
「香、おまえが今言うのはそれじゃない。まずは体調について教えてくれ」
 私が目を開けると、撩の顔には心配している想いが浮かんでいた。
「今はそれが大切なんだ。香、気分はどうなんだ? 気になるところはないか?」
「うん、ちょっと身体は重い感じがするけど、それ以外は大丈夫」
「そうか、それはよかった。無理するんじゃないぞ」
「うん…」
 撩の掌が私の頬を掠め、そして優しく撫で上げていく。親指が私の唇を辿ると、その動きに身を任せるように目を閉じた。その心地よさにふわふわとした感覚を味わっていると、私は唇にも温もりを感じていった。





 私の体調は安定していたけれど、大事を取って数日間は教授の家で様子を見ることとなった。いろいろと気になることはあっても、今の私に出来ることはゆっくりと休むことだ。撩にそう言い聞かされた私は、普段にはない、ゆったりとした時間を過ごしていた。
 そういえば依頼はどうなったのだろう、と思っていたところへ、コンコンと扉を叩く音をした。その叩き方で撩ではないとわかった私は、「はぁい?」と探るような声を掛けてしまった。ガチャリと開いた扉から入ってきたのは、かずえさんだった。
「かずえさん」
「ふふふ、冴羽さんじゃなくてごめんなさい」
「ううん、そんなことは…」
「だって、声が『あなたは誰?』って感じだったもの」
 クスリと笑いながら、かずえさんは言った。そんなに気持ちが声に出ていたのかと恥ずかしくなってしまい、私は顔が火照るのを感じてしまった。恥ずかしくて、つい顔を伏せてしまう。
「香さん、私だって同じ反応をしたと思うわよ。だから、顔を上げて」
 私が顔を上げると、かずえさんは優しく微笑んでいた。
「香さんも冴羽さんも、二人の世界を築いているんですもの。ホント、身も心も、ね」
「いや、それは、そんな…」
 私たちが一線を越えたことは、自分たちから積極的には言っていない。もちろん気付かれているとは思っているけれど、真っ先に聞いてきそうな美樹さんもちょっかいを出してきそうなミックも、まだ私には何も言ってきていない。撩が何か先手を打ったのかなと思うも、言われたからといって何かうまく対応できるはずもないから、この状態はありがたかった。だから、かずえさんが言ってきたことにビックリしてしまったのだ。
「私だって、ずっと二人を見てきたんですもの。香さんたちの変化はわかっているつもりよ」
「かずえさん」
「数ヶ月前かしらね、私たちがゆっくり話をしたのって」
「そうね。ここにしばらくお世話になっていたときだから」
「今も悩みが全て消えてはいないんでしょうけど…。でも…」
「でも?」
 そこでかずえさんは言葉を止めた。続きがなかなか出てこないから、私も黙って待っているしかなかった。例えミックがもうスイーパーとして活動していなくても、完全に裏の世界から抜け出せたわけではない。美樹さんと同じく、かずえさんも裏の世界の男をパートナーにした女性だ。だから、かずえさんの発言は重みのある言葉となって私の胸に響くことが多い。それもあってか、私はかずえさんの次の言葉を待ちたかった。
「でも、冴羽さんは香さんをどこまでも溺れさせてくれるでしょう? それこそ、引きずり込むほどに」
「かずえさん?」
 かずえさんの次の言葉を、私はすぐに理解できなかった。溺れさせるという言葉にいろんな意味合いが含まれているようで、私は頭の中で仮説を並べるのに必死だ。
「あのときは女性の影について話したと思うんだけど…」
「そうだったわね」
 以前話したとき、かずえさんは自分の体験談を話してくれて、女性の影がちらつこうと、今のかずえさんとミックとの間にある事実をねじ曲げたくないというのが結論だった。かずえさんはそんなにもミックのことを信じているし、かずえさん自身が強い女性なんだなと感じながら話を聞いていたのを思い出した。
「ずるいわよね、身も心も溺れさせるほどに雁字搦めなんだもの。そこから逃れるなんて、無理よ」
「かずえさん…」
「冴羽さんはミックと同じぐらい、いえ、ミック以上にそういうところは容赦ないかもしれないわね」
「え?」
「だって、ミックは自分をわかっていて切り替えていた人だから。でも、冴羽さんは違うと思うの」
 確かにミックは、依頼があれば付き合っていた女性を撃てるようなタイプだと聞いている。付き合っていたときもミックは本気だっただろうし、プロのスイーパーとしての判断もそれに矛盾はしない。色んな要素を天秤にかけたとき、どちらに重きを置くかの判断が早いタイプなのだと思う。どちらもミックの想いと考えであり、判断に迷いが出るような矛盾はそこにはない。
 そんなミックと撩は違うとかずえさんは言う。どういうことなんだろうか。
「違うのかなぁ…」
「そうよ。自分の気持ちや考えをかなりわかってコントロールしているのは同じだと思うけど。…どう言ったらいいのかしら、なんか、奥底に秘めているものがありそうなのよね、冴羽さんって」
「奥底に秘めているもの?」
「そう、普段は冴羽さんですら触れていない何かというか」
 かずえさんが何を言おうとしているのか、だんだんとわかってきたような気がする。つまり、それは撩が持つ闇なんだと思う。裏の世界の人間だから持っている闇というよりも、もともと撩が持ち合わせていた闇だ。私が何度も夢に見て、その中で撩が身に纏わせていたもの。
「普段の冴羽さんって、自然体に見えるでしょ。でも今回会って、それは違っていたのかなって」
「違う? 撩が?」
「そうよ、香さんは近くにいるからむしろわからないのかもしれないし、そこをわからなくてもいいんだと思うけれど」
「かずえさんから見て、違ってる…」
「ここだ、とは説明できないんだけどね。同じ自然体でも、どこか以前と違う」
「以前と違う撩、か…」
 そう私が呟くと、かずえさんはハッとして口に手を当てた。かずえさんは、自分が話した内容が失言だと思ったのだろうか。そんなことはない、私が撩と生きていく上で、違う人が見た私たちというのはめったに聞けるものではない。それに、撩は自分を装うことに長けている人間だから、かずえさんのような立ち位置から言ってくれるのは本当に貴重だった。
「ご、ごめんなさいね。私が見た冴羽さんなんて、香さんにとっては必要ない話よね」
「ううん、そんなことない。かずえさんが気付いたことを教えてくれて嬉しい。ありがとう」
「香さん。…そう言える香さんだから、冴羽さんは手放せないのね、きっと」
「そうなの、かなぁ」
「そうよ。だから、手放したくないから、さらに引きずり込んで溺れさせるの。それが幸せだと感じさせるぐらいに」
「幸せ…」
「程度は違うけど、ミックも同じようなものだもの。何故かしらね、愛を囁かれるときもあれば、容赦なく苛まれるときもあるわ」
 かずえさんは、どこか遠くを見ながら言葉を続ける。彼女の見る先には窓からの景色が広がっているのではなく、きっとかずえさんとミックのやりとりが浮かんでいるのだと思うほど、かずえさんは切なそうにそこを見ていた。
「どうしてなのかしらね、もう私はどこにも行かないのに。そう何度も言うのに、やっぱり不安なのかしら」
 かずえさんのこの言葉は、私の耳にしばらく残っていた。


 夜になって、またしてもコンコンと扉がノックされた。今度は撩の音だ。
「はぁい。いいよ、撩」
 開いた扉から入ってきた撩は、
「声も掛けてないのに、よく俺だとわかったな」
と微笑んでいた。
「だって、撩って、ノックの仕方がわかるもん」
「そうか?」
「そうよ。昼間はそれで、かずえさんに気を遣わせちゃったわ」
「かずえくんに?」
「そう、『冴羽さんじゃなくてごめんなさい』って」
 私が苦笑いしながら言うと、撩も同じく苦笑いしていた。
「撩、まわりに何か言ってるんでしょ」
「何のことだ?」
「あの、私たちのこと…」
「どうしてそう思う?」
「だって、ミックがからかってこないし、美樹さんも言ってこないし…」
 自分のことでいっぱいだったけれど、周りが私たちのことを知れば、絶対に何かを言ってくると思うのだ。それが、逆に静かなほど何も言ってこない。今の状態が不自然なんだと、今更ながらに私は気が付いた。それが良いとか悪いとかではなく、そういう状況に撩がしているのかなと思っただけなのだ。「余計な真似はしたくない」と言った撩が、話が広がることを良しとしないことは理解している。
「まぁな。おまえだって、今すぐ聞かれても、どう反応していいかわかんねぇだろ」
「うん、そうだね…」
「おまえが話したいのなら、それはいい。ただ、不用意なことはしたくないんでな」
 そう言った撩はベッドへと腰を下ろし、私に「起きて」と言ってきた。身体を起こした私は撩の横へと移動して、同じように座る。すると、撩がヒョイッと移動して、私はいつの間にか後ろから抱え込まれる形となった。最近の撩は、こうやって私を後ろから抱きしめてくることが多い。私も撩と触れ合いながら、しかし顔を合わせずに話が出来るから、どこか話しやすい体勢でもあった。
 私の頭に思い浮かんだのは、依頼がどうなったのか、だ。依頼人であった西口さんが私を湖に突き落とした。これが何を意味するのかがよくわからない。
「ねぇ、撩。…依頼、どうなったの? 終わらせてきたんでしょう?」
 その瞬間、撩が私を抱きしめる力が少し強くなった気がした。私を抱きしめながらも、撩は何も言わなかった。
 以前ならば、どうして言ってくれないのかと撩を責めてしまったような気がする。言ってくれないことが私を信用してくれていないことに繋がるようで、私の怒りという感情の向こうには哀しみが広がっていた。今は私が撩を理解してきたのか、物わかりがよくなったのか、はたまた諦めて妥協したのか。それはよくわからないけれど、「話してくれないのなら、それが答え」と思えるようになってきた。
 きっと、撩は答えに迷っている。それが私の質問に対する答えに違いない。だから、私が沈黙を破ることにした。
「…ううん、いいや。撩が選んだことなら、私はそれでいい」
「香、聞かないのか?」
「うん、聞かない。だって、撩が選んだことだもの」
「そうか」
 撩はどこか安心したのか私に身体を預けるようにもっと身を寄せてきた。撩の体重が私にかかり、それがどこか心地良い。
「ねぇ、撩」
「なんだ?」
 私は自分の右手を目の前に持ってきた。私の意図がわかったのだろうか、撩は左手を近づけて、下から手を組み合わせた。撩の長い指の間から見えるコバルトブルーのそれは、今も静かな青を見せている。
「この指輪、お守りになったかな。撩からもらった、この指輪…」
「あぁ。そのお陰でおまえの様子もわかったしな。さすが教授だ」
「この指輪が戻ってきたとき、びっくりちゃった」
 西口さんにも聞かれたこの指輪は、数ヶ月前の表参道で購入されたあの指輪だった。撩に頼まれて指輪を預けたけれどなかなか返ってこなくて心配していたら、1ヶ月後ぐらいに戻ってきて安心したのを覚えている。だって、撩が私に買ってくれた初めてのプレゼントなんだもの、どうしても無くしたくはない。ソニアさんのときに「一緒にいられれば、それでいい」と思ったけれど、やっぱり好きな人からもらえるプレゼントは嬉しいし、それが自分の欲しいと思っていたものだったら尚更だ。でも、実は撩が教授に依頼して、入れられる限りの機能を仕込んでもらっていたなんて思わなかった。
「撩が助けてくれたんだね、ありがとう」
「いや、おまえを危険に曝すのを承知でことだったから。こっちこそ、すまなかった」
「…いろいろ、撩はわかっていたんだね。それなのに、私は…」
 自分の不甲斐なさが、つい口に出てしまう。すると撩は、痛いほどに私を抱きしめてきた。抱きしめるどころではない、締め付けられているくらいだ。
「ちょ、ちょっと撩、痛いよ…」
「おまえが悪く思うところはどこにもない。むしろ、香だから任せることが出来たんだ」
「撩?」
「だから、そんなことを言うな」
「うん…」
 撩の力がフッと抜けたのを感じると、同じように緊張していた私の身体も一気に解放されたからだろうか、フワッと浮かび上がっていく感覚があった。その感覚を邪魔しない程度に撩が私を再び抱きしめ、そして耳元で囁いてきた。
「ここにいればいいんだ、おまえは」
 その言葉は熱を持っていたようで、私の身体が何故か反応してしまう。そしてその言葉を私の中へ押し込むように、撩は濡れた舌で私の耳を弄び始めた。ここまで何度抱かれたのか、高みに持ち上げられたのか、もはやわからない私の身体は、今も撩の言動に揺さぶられ始めている。いまだに慣れない私の身体に証を残すように、この日の撩は私を追いつめ、苛んでいった。





 ふと目を開けると、部屋は真っ暗になっていて、今は夜中のようだ。私を翻弄していたはずの男の姿は既になく、部屋に一人で寝かされていたことに気が付いた。抱きしめられていた温もりがないのは寂しく思うも、今日の撩はどこかいつもと違っていたように感じられた。「おまえはここにいたいんだろ、な?」などと言われて、いつもより私に言葉を求めてきたような気がする。どうしてなんだろうと考えていたら、かずえさんの昼間の言葉がふと頭に浮かんだ。


───ずるいわよね、身も心も溺れさせるほどに雁字搦めなんだもの。そこから逃れるなんて、無理よ。
───そうよ。だから、手放したくないから、さらに引きずり込んで溺れさせるの。それが幸せだと感じさせるぐらいに。
───どうしてなのかしらね、もう私はどこにも行かないのに。そう何度も言うのに、やっぱり不安なのかしら。


 そう、私だって撩から離れることはない。私の中からそんな選択肢は消滅している。それでも、撩は私が離れると思っているのだろうか。私の方こそ、いつパートナーの解消を告げられるのか、という不安をまだ残しているというのに。
「まだまだ不安だらけ、ってことかなぁ…」
 かずえさんの言ったことが合っているとすると、私たちはお互いに想い合っていると同時に不安も抱えている。相手を信頼しているはずなのに、その人に捨てられてしまうのではないかという不安。撩はそういう経験を既にしているし、私も覚えていないだけだ。
 私の不安は、撩から手放されることだ。それがいやなのだったら、どうすればいいのかを考えなければならない。撩に必要とされるには、私はどうしたらいいのだろうか。何回も捕らわれて足手まといにしかならない私は、海坊主さんからトラップ技術を学んだとはいえ、実際には撩の方が上手いし判断も早い。照準を直されたローマンを渡されたけれど、撩と関係してからは美樹さんから色々聞かれてしまうのが恥ずかしくて、射撃練習から遠のいていたように思う。この世界で生きていくためには、撩に守られるだけではダメだ。自分で判断して、可能ならば対処できなければならない。敵に銃を向けられた私は、その時何ができるのか。
「練習、再開しようかなぁ」
 撩と私が一線を越えたのは紛れもない事実で、決して変わることはない。今まで私たちを心配してくれていた美樹さんだからこそ、聞きたいことや言いたいこともあるのだろう。根ほり葉ほり聞かれることは覚悟の上で、また美樹さんに教えてもらいながら射撃の練習をしていこうかしら。あまり私に撃たせたくないと思っている撩に「教えて」と言うのは、かなりハードルが高い。
 ほぅ、とため息をついたところで、扉が静かに開くのがわかった。
「香、起きてたのか」
 撩はそう言いながら、私の横へと布団に滑り込んできた。そして抱きしめられた私は、撩の温もりを嬉しく思いながら目を閉じていった。

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うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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