Ambivalent and Vague

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11/紅茶

貴方にかかる霧
一人語り:香Ver.


 
 「ふぅ」とため息をつきながら、あたしはリビングのソファに身体を投げ出した。全然疲れていないはずなのに、自分の身体がどこか重い。重いのは身体の奥、胸の中。ごちゃごちゃとした感情がスノードームのように降り注いで、あたしの心に積もっていく。重みを持たないはずのそれは、確実にあたしの心を重くしていた。


 ナンパに行ってくると言った撩が、実はそうではないことぐらい知ってるわよ。そして何をしているのか、多分そうだろうなと考えることもできる。でも、そんなことには意味がない。あたしがどんなに考えたって、例え仕事の最中にいる撩の無事を祈ったって、彼は何も変わらない。

 そう、何も変わらない。
 あたしがそこにいなくても、撩は撩であり続ける。

 人は自分の意識だけで、自分の立ち位置を定め続けるのは難しい。もし自分の立ち位置を知りたいのならば、誰かに評価してもらう方が早い。あたしの場合、それは誰になるのかしら。海坊主さんは、あたしのトラップ技術が向上していると言ってくれた。美樹さんは、あたしの気付かない部分を指摘してくれる。ミックは、ほとんど冗談だとは思うけれど褒めてくれる。…ただそれが、誰かさんの一言で簡単に覆るのも事実だ。自分の立ち位置はここだと安心していると、そんなことは幻だとばかりに足下を平気で崩される。

 どうして。
 どうして、あいつの言葉が一番重いのだろう。
 軽くできれば、もっと楽なのに。

 撩はときどき、やさしい言葉を掛けてくる。その言葉一つで、あたしは撩の側に立つことを許された気持ちになる。でも、その直後に撩の姿は霧に包まれて、やさしい言葉が散ってゆく。隣に感じていた撩の熱も、もはやそこにはない。そうやってあたしは、何回も撩に突き落とされてきた。

 それでも、どうしてあたしは彼の側にいたいと思うのだろう…。
 その側じゃないとダメなんだろう…。
 他の人を好きになれればと思うのに、それが出来ないあたしは一体、なに?


 考えていたら、すっかり冬の空気で身体が冷たくなってしまった。内側からあたためようと、台所でコーヒーを淹れる準備をする。コーヒー豆が入った缶を開ければ、辺りにはコーヒーの薫りがふわっと漂い始める。その薫りから思い出される姿は、今はここにはいない男のもの。今これを飲んでも落ちこむだけだと思ったあたしは、かずえさんからお土産にともらったウバの茶葉を取り出した。牛乳と水を一対一、そこに茶葉を落としてゆっくりと煮立たせる。ミルクパンの中では、色付いたロイヤルミルクティーがまろやかな薫りを漂わせていた。うん、これでいい。

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 大きめのカップに注いで、リビングに戻る。ソファに深く身を任せて、あたしは手に温もりを感じながら、宙を見つめていた。
 いつもと違う薫り、いつもと違う味。そうやって自分をリセットしようと思うのに。


 ───それなのに。





「なんだぁ? おまえ、いたのか」
 どうして、こんなタイミングで帰ってくるの? せっかく頑張ってリセットしようと思ったのに、このロイヤルミルクティーにすら、あんたの影がちらついてしまうじゃない。
「う~、さびぃ。…おっ、いいのがあるじゃん、ちょっとくれよ」
 だから止めて、お願いだから。
「何も言わねぇんなら、もらうぞ。…おい、これ紅茶なのかよ。珍しいな」
 ほらそうやって、あたしの境界線を崩していく。
「けど、たまにはいいな。ごっそっさん。……って、香っ!?」


 ───もう撤退、今は耐えられそうにない。





 あたしはカップを撩に押しつけて、自分の部屋へと逃げ込んだ。
 いとも簡単にあたしを掻き乱す撩に、そして、いとも簡単に撩に掻き乱されるあたしに。その二人に腹が立った。
 そして、こういうときには一人にさせてくれない撩に、こういうときでも報われない願いを抱くあたしに。
 この先が見えるから、哀しかった。


 ───だってほら、あいつの足音が、すぐそこに……。







Special Thanx to M.Hituji

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好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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