Ambivalent and Vague

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Transmigration of Souls 1

MAGIC

 
 一筋の光と蠢く闇。
 引き離されたが故に引き合うもの。
 すれ違う二人が出逢い、そしてやっと一緒に過ごせるのは、いつのこと?










 ───それは遙か昔、まだ魔法というものが存在している時代のお話。


 この世界は、魔力を主な手段としている。敵との戦いはもちろん、日々の生活ですら、魔力が使われない場面がない。当然、魔力の強弱は評価に繋がり、自然と人間関係にも影響を及ぼしていた。
 そんな中、特に魔力が強い者はギルドに集められ、魔法使いや魔術師として、世界の安定に貢献すべく各地を飛び回っている。民を守り癒す白魔法を司る魔法使い、民を外敵から守るために黒魔術を操る魔術師。そんな魔法使いや魔術師たちは、多くの人にとって畏怖の対象となっていた。そして同時に、多くの住民が着用しているケープとは違ったローブ姿は、少年少女の憧れでもあった。





 目の前の空には、魔力が込められた杖に跨がって宙を移動する人々の姿があった。光溢れる空の下、人々の活気溢れる姿は、その光景を見ている誰をも胸躍らせる。多くの人が行き交う街並みは、石造りの建物でありながら、計算された美しさと装飾された美しさが続いていた。ここはどこもかしこも、鮮やかに彩られた世界だった。


「ねぇ、これを見て!」
 かおりはそう言いながら、上に羽織っていたローブを外した。そして、側に立っていた男に石が付いたネックレスを見せる。彼女の柔らかな白のローブ姿を好ましく思っていた男は、当人に言われて仕方なく石に視線を向けた。深い赤を見せる石は、時折刺すような光を放っている。黒いローブを纏った男、りょうがかおりに話し掛けた。
「お~、色が濃くなったなぁ。おまえも力を付けてきたってことか」
「うん、魔力が日々強くなっている、ってアニキも言っていたよ」
「まきむらは、おまえには甘いからなぁ」
「なによぉ!」
 自分の妹、そして、ギルドの同期として切磋琢磨してきた親友。そんな二人のやりとりを見ながら、兄であるまきむらは考え事をしていた。
 妹であるかおりは、もともと魔力が弱かった。「別にいいもん、出来ることをするんだもん」と言って、魔力を使わなくても出来そうなことに率先して取り組んでいた。それが最近、かおりは突然覚醒を見せた。短期間で力を強めた魔力は、今では誰もが無視できないほどになっている。その証拠に、持ち主の魔力を示す石は、どこまでも深く濃い色をしていた。
「やはり、まきむら家の血筋はすごいねぇ」
と誰かが言っていたが、まきむらはその言葉に微妙な笑顔で応えるしか出来ない。なぜならば、かおりは引き取られた子どもだったからだ。まきむらの父が森へと入ったとき、そこに捨てられていたのがかおりだった。だから、かおりにはまきむら家の血は流れていない。それでも、まきむら家にとっては、かおりは家族の一員だった。今でもそれは変わらないが、かおりが強めつつある魔力がどこまでのものなのか、それを見きわめられない不安がまきむらの中にはあった。


「何考えているんだぁ?」
 ボーッと考えていたまきむらに声をかけたのはりょうだった。ふざけた言い方をしているが、今は少しだけ離れたところにいるかおりを見つめる視線には、深い何かが込められている。そのかおりは、ペンダントの石をじっと見ながら、嬉しそうに表情を綻ばせていた。
「いや、ちょっとな…」
 どうして急にかおりの魔力が上がったのか、まきむらはそれも気になるところだった。どうにも何か裏がありそうな気がして、いくら考えても納得できる答えに辿り着けない。特にまきむらが引っかかっているのは、半年前の出来事だ。


 森へと出掛けて姿を消したかおりを、まきむらとりょうは必死になって探していた。強い魔力に導かれて足を運んだその場所では、溢れんばかりの光が生み出されていた。そして、その光が弾けたと思えば、その場にはかおりが横たわっていたのだ。他の魔法使いや魔術師と同様に、自らの魔力を示すペンダントがその手に握りしめられていた。だが、魔法使いの石は淡い青であるはずが、かおりの石は深い赤だった。どこか血を思わせるようなその色に、二人は何かがひっかかる。それでも、かおりの身の安全が確かめられたことに安堵して、りょうがかおりを抱き上げて立ち去った。奇しくもその場所は、かつてかおりが捨てられていた場所だったことを、二人は知らない。


 そんなまきむらの悩みを既に打ち明けられていたりょうは、まきむらの肩にポンと手を置いた。
「どうにかなるさ。そして、どうにかするさ」
「おまえ、所属が違う黒魔術だろ。かおりは白魔法だ。何かあっても、ギルドのしがらみが」
「そんなのは関係ない。かおりは守る。俺の命に換えても、な」
「りょう…」
「俺にとっても、あいつは…」
「わかったよ」
 りょうの中でかおりがいかに大きな存在となっているのか、まきむらはそれを知っている。強力な黒魔術の使い手として名を馳せるりょうは、それこそ色々な仕事が舞い込んでいた。この世界のため、りょうがその手を汚さなければならないことも多い。禁じられた古代魔法すら操る力を持ったりょうは、畏怖されながらも疎まれる存在だった。周囲の評価に反発するように孤独を深め、自分の力だけを信じ、自らの決断だけで岐路を切り開く。そんな生き方をしていたりょうにかおりは、ずっと分け隔てなく接し続けていたのだ。かおりという存在に救われ、そして惹かれていくりょうを止める権利など、まきむらにはなかった。
「このままでいられれば、俺はそれでいい」
「りょう、それでいいのか?」
「あぁ。まぶしいんだよ、俺には」
 二人の男が見やった先は、今も光輝いていた。その光景も存在も、りょうにとっては眩しかった。
 だが、遙か遠いところで、厚い雲がその青さを隠そうとしていた。





 魔力は無限ではない。当然、使いすぎれば枯渇してゆく。人々は自分たちの世界を豊かにすべく、実は有限な魔力を使い果たそうとしていた。魔力の喪失は世界の崩壊に繋がる。崩壊を阻止するため、枯渇させる存在を消し去り、世界を無に戻す。そう、世界は見えないバランスによって保たれていることを、今人々は知ることとなった。


 遙か遠い空が示していた通り、今の平穏も長くは続かなかった。あの時に見た雲はどんどん厚くなり、空をどこまでも覆ってしまったのだ。あんなに鮮やかだった世界はその色を無くして、今では灰色ばかりだ。
 ───冥い雲、それがその正体だ。
 千年に一度現れるといわれる、世界を無に帰するためだけの存在。人々にとって、この雲は脅威でしかなかった。


 何が起こっているのかを調べるため、ギルドは何人もの魔術師を送った。しかし、誰一人として戻ってくる者はなかった。そうなると、必然的にりょうへと仕事が任されることになる。
「りょう、行くのか」
「あぁ、この暗闇の中心で何が起こっているのか、それを調べないことには何もできん」
「そうだな。こういうとき、白魔法は無力だよ」
「白魔法って言っても、守護魔法ではピカイチのまきちゃんが何を言ってる」
「わかった。そう言われたら、やるしかないな」
「そういうこと。じゃ、頼んだぞ」
 そう言って、りょうは旅立とうとしていた。「頼んだぞ」という言葉が「何を」「どうする」ことを表しているのか。それがまきむらにはすぐにわかってしまうから、その依頼に異論はない。それほど、りょうにとってかおりは大きい存在だ。


 と、その時、辺りに雷鳴が轟いた。そして女性が一人、まきむらの家に走り込んできた。ギルドの後輩である彼女は息を切らせ、何かを言いたくても、すぐ言葉には出来ないようだった。
「さえこ、どうした?」
「大変よっ、あの雲がどんどん押し寄せて、その中心が目の前に迫っているの!」
 その必死で、しかし絶望的な表情を見て、りょうとまきむらは外に出た。高台にあるまきむらの家からは、周辺が見渡せるようになっている。冥い雲は、さえこの言葉通りにこちらへ迫ってきていた。そして、まきむらはあることに気付いてしまう。
「りょうっ!」
「あぁ、わかってるよ。…俺にはどうすることもできないかもしれんな。だが、不可能なことから可能性を見つけるのが好きでね」
「りょう、おまえ。…死ぬぞ」
「こんなことで死ねるなら本望だ。ま、あいつを哀しませないか、それだけが心残りだけどな。やれるヤツがやってみないことには、どうにもならないだろ。それが無駄だとわかっていても」
「わかった。ならば、これを持って行け」
 まきむらからりょうに、銀色の何かが手渡された。りょうはそれを受け取り、手首へ巻き付けていく。


 そんな男同士の会話を、やっと息が落ち着いてきたさえこは固唾を呑んで見守っていた。そしてもう一人、同じく会話を聞いていた人間がいた。
「りょお、いっちゃうの?」
「かおり…」
 そこには、哀しそうな瞳で涙を堪えているかおりがいた。かおりがりょうに近付いたとき、ついにその瞳からポロリと一筋の涙が流れ落ちていく。
「ダメ、りょうはダメ。だって、りょうは黒魔術だもん」
「かおり、おまえ」
「ダメ、りょうは行っちゃダメ」
「だがな、誰かがやらなければならないんだ」
 後からどんどん溢れてくる涙を止めようともしないかおりを、りょうはなだめようと自分の胸元へと引き寄せた。頭を撫でる指に絡むかおりの髪は、とても柔らかい。その感触だけで、りょうは癒されていくような感じがしていた。りょうがかおりの背中をさすり上げ、そしてあやすように掌でリズムを取っても、かおりが泣き止むことはなかった。
「大丈夫だ、おまえはここで待ってろ」
 もう時間がないと悟ったりょうは、ゆっくりとかおりの身体を離した。ふと、その胸元に光る赤い石が目に入る。それは、これまでになく深い赤をたたえていた。どこか不吉なものを感じたりょうは、そのネックレスを手に取る。石を覗き込めば、内側から常に強い輝きを放っていた。どういうことなのだろうかと確かめたかったが、りょうはすぐにここから立ち去らなければならない。その不吉な予感が外れるようにと、りょうはその赤い石へと口づけを落とした。それを見たかおりは、驚いて固まってしまった。
「かおり、おまえは絶対に生きろ。それが…、俺の望みだ」
 かおりはなおも引き止めようと手を伸ばすが、それよりもりょうの動きが早かった。かおりの動きはスッと躱され、そして、りょうはまきむらの家を立ち去った。


「なんで…、りょうだってわかっているのに」
「それでもあいつは、自分がやらないといけないとわかっているんだ」
 いつの間にか側に来ていたまきむらが、言い聞かせるようにかおりに言った。それを聞いたかおりは、キッときつい表情をしてまきむらを睨む。その視線の強さに、まきむらは思わずたじろいでしまった。
「どうして、りょうが犠牲にならないといけないの? 無理だってわかっているのに」
「かおり、おまえ!」
「あの冥い雲は黒魔術じゃ消せない。白魔法でしか消せないの」
「だが、白魔法に相手を攻撃する魔法など…」
「そうじゃないよ、そうではないの」
 途端に穏やかになったかおりの声に、ハッとしたまきむらは、かおりの顔をしっかりと見つめた。その瞳は、何かを悟ったように落ち着いている。
「方法はあるの。あたしはそれを知ってる」
「かおり?」
「バランスを保つ天秤。世界には、そこに乗せる錘が用意されている」
「何を言っているんだ、どういうことだ?」
「アニキ、りょうをよろしくね。りょうは、本当は寂しがりやだから」
 まきむらとかおりは、血は繋がっていないとはいえども兄妹だ。ずっと一緒に暮らし、喜怒哀楽を共にしてきた。だが、今目の前にいるかおりは、家族であるかおりと同一人物なのだろうか。りょうのことなら何でも知っているとばかりに、かおりはりょうのことを守ろうとしている。その絆の強さに、まきむらは嫉妬を覚えるくらいだった。それぐらい、二人の魂は重なり合っている。
 バタン!という音にハッとしたまきむらは、かおりが外に出たことに気がついた。追いかけようと玄関を開くも、その姿はどこにも見当たらなかった。そして、かおりの言葉が頭に浮かぶ。かおりはあの時、何と言ったのか。
 ───白魔法でしか消せないの。
 ───方法はあるの。あたしはそれを知ってる。
 その言葉が、ある結論を導く。
「まてっ、かおり。早まるな!」
 導かれた結論が間違いであって欲しいと願いながら、しかしそれこそが妹の宿命なのかもしれないと思ってしまう。かおりを止めることは出来るのだろうか、そしてそうなった時、りょうはどうなるのだろうか。居ても立っても居られず、まきむらはさえこに声を掛け、家を後にした。





「あれが冥い雲の中心か…。もの凄い引力だな」
 共に来ていたはずの魔術師は、もうその姿を見せることはない。冥い雲に近付くたび、一人また一人と黒い炎に包まれ、その身体を蒸発させていった。
「あの雲が全て吸い取っちまってる、ってことか」
 魔術師が消えていく度に冥い雲の力が増しているのは、気のせいではないだろう。
 まきむらの懸念、そしてかおりの言葉。それは、最初からわかっていることだった。冥い雲の本質は負の力の塊だ。負の力と親和性を持つ黒魔術では役に立たないばかりか、逆に吸収されて冥い雲の勢いを増すだけなのだ。消滅を狙うのならば、白魔法でなければならなかった。しかし、白魔法の攻撃魔法では心許ない。黒魔術とはいえ、強い攻撃魔術を持つりょうがどうにかするしか方法がなかったのだった。
「しかし、まきむらのヤツがなかったら、俺もヤバいところだったな」
 そう言ったりょうは、ふと手首を見つめる。そこには銀色のブレスレットがあった。まきむらも思うところがあったのだろう、あの時、白魔法が込められたブレスレットを手渡してくれたのだ。そして、白魔法に護られたりょうだけが、無事にここまで辿り着くことが出来た。
「さっすがまきちゃん、守護魔法はお得意だもんなぁ」
 親友であるまきむらの想いを感じ、そのブレスレットをそっと撫でた。そして、改めて蠢く雲の中心を見やる。まだそこに佇んでいるだけの雲は、どこかバランスの悪さを感じさせた。表面張力ギリギリのコップから水が溢れ出すように、中から何かが一気に飛び出す時は近い、とりょうは知っていた。
「暴走する前に、さて。どうしますかね…」
 上手くいく方法など、りょうですら全く思いつかない。
「それでも、俺がやらないといけないんだよ」
 一歩ずつ中心に足を進めると、その度に自分の身体が雲に取り込まれそうになる。まきむらのブレスレットが護ってくれているが、それも限界を迎えそうだった。
 ───冥い雲の勢いを弱めるだけでも、どうにかならないだろうか。
 再び、まきむらのブレスレットに目を移す。守護魔法の使い手であるまきむらのブレスレットだ、少しは強い白魔法が込められているのだろう。そう思ったりょうは、自分の攻撃魔術にブレスレットの魔力を乗せ、白魔法を強めた形で攻撃をすることにした。
「それしかないだろうな」
 自分の姿形を留めておける限界まで進み、そこで術の準備をする。普段なら詠唱しても何ともならない最強魔術でも、今このときばかりは、りょうも無事ではいられないだろう。今まで出会った人々とは、もう会うこともない。そして、かおりとも…。


 りょうは前を向く。そして詠唱を始めようとすると、何かの力に阻まれてしまった。
「なにっ!?」
 冥い雲に術を阻まれたのかと思いきや、雲は変わらずに目の前で静かに蠢いている。気付けば、りょうは金縛りにあっていた。
「りょう。りょうはここで待っていて」
 ここで聞くことは絶対にないはずの声がする。しかし、金縛りにあっているりょうは、身体を動かして確認することが出来ない。そんなりょうの視界にゆっくりと、白いローブを羽織った何者かが入ってくる。それは、りょうが一番愛しく想っている人の姿だった。
 ───かおりっ。
 心で念じれば、かおりはりょうの方へと振り向いた。
「わかっているはずよ。りょうの黒魔術では、火に油を注ぐだけ」
 ───だが、それでもやらなければならないんだ。
「ううん。これは私の仕事、私の宿命。全ては避けられない」
 ───白魔法で攻撃しようってのか。いくらおまえの力が強くても、それは無理だぞ。魔法自体が弱すぎる。
「大丈夫よ。方法なら一つだけあるの。あたしはそれを知ってる。だって、あたしは錘だから」
 ───なに? どういうことだ。かおり、俺に説明をしろ。
「さようなら、りょう。どうか生きていて。あたしの大切な人…」
 ───おまえ、何をする気だ? …まさか。やめろっ、俺はそれを望まない!!
 優しく微笑んだかおりは、再びりょうに背を向けた。そして、冥い雲に少しずつ近付いていく。


 恐らく現在、白魔法の使い手としてはまきむらの方が上だろうが、魔力自体はかおりの方が上だった。いや、白魔法を扱う者の中では、最も強い魔力を持つ存在となっていた。その持ちうる魔力を全て解放し、暴走した形でぶつければ、対消滅が起こるだろう。ここ最近でかおりの魔力が著しく強まっていたのは、この宿命が待っていたからなのだろうか。
 ここまで見て見ぬ振りをしていた雲も、さすがにかおりへの攻撃を始めた。しかし、その攻撃全てが無効化され、かおりの歩みは止まらない。そして、かおりは雲を見上げると高く舞い上がり、りょうが聞いたことのない詠唱を始めた。その姿はだんだんと光に包まれ、姿形を失っていく。
「やめろぉ! やめてくれええええぇええぇ!!!!!」
 金縛りを強引に解いたりょうは、かおりへと近付こうとした。しかし、いつの間にか張り巡らされた魔法陣によって、その動きは阻まれてしまう。
 ふと、空から何かが降ってきた。それは、かおりのペンダントだった。姿形をついに失ったかおりから、このペンダントは落ちてきたのだった。
 その瞬間、辺りは強い光に包まれた。冥い雲と光はぶつかり合い、お互いを中和しながら、そのお互いが姿を消していく。
 雲の消滅は、かおりの消滅でもあった。それを目の前にして何も出来なかったりょうは、もはや心が耐えきれなかった。消滅の沈黙を突き破るように、りょうの絶叫が谺した。
「ああぁあぁぁあああぁあぁあぁああぁぁあ!!!!!」
 かおりを救うことも出来なかった自分、目の前で腕からすり抜けていったかおり。このままでは、りょうはこの世界に残される。その身が朽ちた後は、ただ使われるだけの魔力と化して、世界に存在するだけだ。
 ───俺の宿命は、俺自身が決める…。
 いくらりょうとて、今のままではこの理から逃れられない。そこから離れるためには、純粋な闇に近い「人ならざる者」となって、いつまでも時空を彷徨えるようにするしか考えつかなかった。この力のまま、どこまでもかおりを追いかけられるよう、自分を闇へと縛るその方法しかなかったのだ。この世界のどこにもいなくなってしまったかおりを追い求めるため、りょうは迷いなくある言葉を唱え始めた。


 そこへ、やっと追いついたまきむらが姿を現した。りょうの様子から何が起こったのかを察し、そしてりょうが何をしようとしているのかもわかった。
「やめろ、りょう! かおりはそれを望んでいない。古代魔法に…、禁術に手を出すな!」
 しかし、まきむらの声がりょうに届くことはなく、ほぼ禁術は完了されていた。りょうの身体は闇の炎に包まれ、溶け込んでいく。
「か、お、り………」
 闇の中からりょうの言葉だけが響き渡る。その闇が弾け飛んだ後、その場からはりょうの姿だけでなく、かおりのペンダントまでもが姿を消していた。





 冥い雲は消滅し、最後に生まれた闇もその姿を消した。青空が戻り、久し振りの太陽が街に降り注ぐ。石の街並みに、鮮やかな色が戻っていた。
 街に戻ったまきむらは、一体何が起こっていたのか、とギルドから説明を求められた。しかし、二人が消滅した事実を頭では認めながらも心では拒絶している状態では、うまい説明が思いつくはずもない。覚えていないのだと嘘をついて、まきむらは自宅へと走り戻っていった。
 自宅へ入ると、あの二人の幻がそこかしこに現れる。だが、その二人はもう、この世界のどこにも存在しない。
「俺に、何が出来たっていうんだ…」
 たくさんの魔術師の、そしてあの二人の犠牲の上に今の世界は成り立っている。その事実は、まきむらに無力さを突きつけた。だが、
「残った者にしか出来ないこともあるんだ」
と気持ちを切りかえられることこそが、まきむらの強さだ。
 二人が命を賭けて守ったこの世界を、これからは自分が守ろう。
 まきむらは改めてそう決意したのだった。
 だが、まきむらは知らない。
 世界はその魔力の大半を既に失ってしまっていることを。そしてここからは、魔力以外の方法を模索する、人々の長い旅路が待っているということを。










 どこかにある世界の狭間。そこで声なき声が響いている。


 ───ねぇ、りょう。いつかまた、出逢えるのかな。


 ───かおり。俺はおまえを追い続ける、絶対に…。


 そして光と闇は、またどこかへと弾かれていった。







 ここから5回の更新は、今年のX'mas Storyになります。
 いきなりのパラレルモードからスタート。ツッコミどころ満載ですが、ラストは「いつもの二人」に着地する予定です。どうぞ最後までお付き合い下さい。

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プロフィール

うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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