Ambivalent and Vague

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その健やかなるときも、病めるときも

Till death do us part.

 
 ───敵を欺くための一芝居、それがこの結婚式の意味。


 そうだとわかっているはずなのに、密やかに揺れ動く自分の想いを香は止められなかった。全てが終わった今も、その波は静かになってくれない。敵との戦闘でティアラもベールも無くし、グローブすらも投げ捨てていた香はドレス姿のまま、あの場面を思い出していた。

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 ───その健やかなるときも、病めるときも…。


 結婚式でよく聞かれる文言が耳に入る。話しているのは、目の前にいる神父だ。そして香の横には、シルバーグレイのフロックコートを着た男が立っている。胸には白いカラーが差し込まれ、それは香が手にしているブーケと同じ花だ。
「誓います」
 深く静かな撩の声が空間に響き渡る。そして、次は香の番だ。
「誓います」
 香も同じように答えた。
 撩がどのような想いを込めて「誓います」と言ったのかどうか、それは香にはわからない。そして、自分の言葉を撩がどのように受け取るのか、それもわからない。単に台本に書かれていたから発した言葉であって、それ以上の意味を決して持ち得ないのかもしれない。だが香は、「誓います」という言葉に想いを込めたつもりだ。


 ───その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
 ───これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか。


 香はいつだって、撩の背中を追ってきた。兄である槇村がこの世を去り、香は一人ぼっちになってしまった。そんな香に居場所を作ったのが撩だった。以来、撩にどんな扱いをされようと、香はひたすら撩に付いていった。それが正解かどうか、香にはわからない。初恋の相手だった撩とずっと一緒にいたい、そんなセンチメンタルな気持ちだけで一緒にいたわけではない。冴羽獠という人間がこれまでに何を経験し、何を背負い、どんなことを思いながら世界を見ていたのか。二人が共に過ごした時間は、お互い相手のことを理解していく時間でもあった。しかし、撩と同じように世界を見られるわけはないから、せめて横に立って一緒に世界を見たい、と香は思ったのだ。
「誓います」
 どんなときも、何があっても、この世界で生き延びる。香にとっては、その決意表明でもあった。





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 森の中で敵と戦闘してきた撩は、香に遅れて教会へ戻ってきた。見ると香は、教会の片隅で何かを考えているようだった。そんな香の立ち姿から、撩は目が離せない。彼女のために誂えたようなホワイトパールのドレス、それに身を包んだ香を見ながら、撩もまた数時間前を思い出していた。


 ユニオン・テオーペの追っ手が落ち着くまでと思って引き取った槇村の妹は、少しずつパートナーの仕事を覚え、撩の私生活にスッと入り込み、その心の中にまでも棲みつくようになった。香を守るために手放そうとしたこともある。香から離れようとすることを喜ぶべきだと言い聞かせながらも、胸の奥が苦しくなったときもあった。
 二人の関係は今でも続き、撩のパートナー歴は香が更新している最中だ。今の状況が正解かどうか、撩にはわからない。しかし、心から欲しいと思った存在を、もう逃がすつもりはない。


 香がどのような想いを込めて「誓います」と言ったのかどうか、それは撩にはわからない。そして、自分の言葉を香がどのように受け取るのか、それもわからない。ただ必要だから口にした言葉であって、それ以上の意味はないのかもしれない。だが撩は、「誓います」という言葉に覚悟を乗せたつもりだ。


 こんな自分と一緒にいるため、自ら裏の世界にその身を置いてくれた彼女のために。
 誓いの口づけをする前に終わってしまった芝居、それを二人で超えていくために。

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 ───芝居という意味を超えて、二人はこれからを静かに誓い合っていた。







Special Thanx to M.Hituji

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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