Ambivalent and Vague

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Paeonia suffruticosa

天香国色の君に

 
 昨夜からの雨はいつの間にか雪へと変わり、朝には街を白く染め上げていた。今年に入って何度目かの雪は、相変わらず都市の動きを麻痺させている。
 撩と香の二人にとっては、やっと依頼を完了させた翌朝だった。雨降る寒さは知っていても、身体に差し込むような雪の冷たさは知らない。先に起きた香が「見てっ、また雪よ」と相も変わらずに騒ぐから、撩もそれに付き合って起きることにした。しんしんと積もる雪は空間から音を奪い、そして二人を静寂の空間に閉じ込めていく。そんな空間を打ち破ったのは、テレビから聞こえてきた音だった。
「へぇ、こんなところがあるのね」
「有名だろ、ここは」
「あ、そっか。…今日だからこそ、の光景よね」
「だろうな」
「じゃ、そうと決まったら」
「あん?」
「見に行くのよ!」


 そんなやりとりを経て、二人は今、新宿から少しだけ離れたところにいる。公園の一角で丁寧に手を掛けられている冬牡丹は、まるでうずくまる雪ん子があちこちにいるように点在していた。雪の中ではその鮮やかな赤がさらに映え、白と赤のコントラストが眩しい。
 ───白? 赤?
 そして撩の脳裏に浮かんだものは、白い雪にばらまかれた赤だった。その光景を何回見てきたことだろう。雪など、自分を包み込んでくれるものではない。むしろ、自分の行いを暴き、そして隠すものだった。手にした銃が火を噴いて誰かの身体を貫いたとき、赤は勢いよく散らされていく。そして相手の身体が倒れていく瞬間を、撩はまるでスローモーションがかかった映像のように見つめていた。気付けば、赤い花びらに包まれた、かつては温かだったものが横たわっている。雪は降り積もり、罪の痕を白く誤魔化していく。
 ───花すら、ありのままを見ることは出来ない、か。
 何の記憶も呼び起こさないものなど、どこにもないのかもしれない。撩にだって嬉しかったことや楽しかったこと、そんな記憶だってあるはずなのに、瞬時に突きつけられるのはこんな過去だ。何を見ても、生と死がちらつく。


「ねえねえ、りょお!」
 呼び掛けられてハッとした撩は、その声の主を見た。そこにいたのは、
「ほら見て、おんなじでしょ〜」
と言いながらしゃがんでいる香だった。どこから調達したのか、大きめのパンフレットを頭の上に乗せている。香が着ているコートは、ファストファッションでセールをしていたダウンジャケットだ。その鮮やかな桃色は、やはりこの雪の中で鮮やかだった。彼女は今、冬牡丹だった。
 「えへへ」とまるで子どものように香が笑うから、撩もつられて笑ってしまう。きっと香は思い付きでこんなことをやったのだろうし、撩が見てしまった自身の過去のことも知らないのだろう。彼女は撩の過去を赦すことも、洗い流すこともしない。香がいくら包み込もうとしても、それは無理な話だ。しかし、ただ目の前の存在を愛おしく思える瞬間、それだけはもたらしてくれていた。今の彼女には、少なくとも死はまとわりついていない。
「おっまえ、ガキみたいなことをすんのな」
「なによぅ、見たらやりたくなったんだもん」
「まだまだお子ちゃま、だしな」
「悪かったわね!」
 香は立ち上がりながら、その頬を膨らませた。すると撩は、そっとそこに掌を当てた。突然もたらされた温もりは、香の顔を赤く染め上げていく。
「花だな、本当に」
 赤い顔の中で、そこだけが別の花片のように唇が震えている。その花片が風で飛ばされないように、撩はゆっくりと親指で唇を撫でていった。
 ───この赤は、一体俺に何を見せるというのか…。
 撩の指は頬を辿り、首筋をなぞってから、香の肩に置かれる。この濃密な空気から香を解き放つかのごとく、撩はぽんぽんと香の肩を叩いた。
「やっぱ寒いからさ、どっか店入って、何か飲むか」
 ボーッとして返事が出来なかった香だったが、撩が香の顔を覗き込むようにすると、
「そ、そ、そうだね。どこかあるかなっ」
と慌てた様子で返事をした。そんな香に撩はクスリと笑いながら、「行くぞ」とも言わないで歩き出す。香も「待ってよ」と言わず、小走りで撩を追いかけていった。


 冬牡丹は変わらず、そこで静かに二人を見送っていた。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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