Ambivalent and Vague

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My Lovely Place

その温もりの上で
White Dayはこちら


 
 甘い香りと部分的に殺気が広がる、不思議な時間。チョコによる狂想曲が繰り広げられる時期が、今年もやってきた。製菓用品店でもデパートでも、意中の人のために買い物をする瞬間は、実は幸せなのかもしれない。渡してしまえば、望むものであれ無いであれ、そこには結果が伴ってくる。実は仁義なき戦い、それが日本のバレンタインデーだ。


「なぁんで、今年はないんだよ!」
「あんたねぇ、あの忙しさで、そのどこで買いに行けと」
「だったらそんなん、前もって用意すればいいじゃねぇか」
「あのねぇ、渡しても文句を言うあんたが、なんで今年は渡さなくて文句言うのよ」
「うっせぇ!」
 冴羽アパートで繰り広げられているのは、ただいまのところ、こんな会話である。


 年明けから全くもって依頼が入らず、生活が苦しくなるわ、と香はぼやいていた。この年末年始で意外とお金は消えていたし、確かにそろそろ依頼が来ないと厳しい。だが、依頼が来るか来ないかは水物だ。キャバクラの子から頼まれた野暮用があったから、と自分が管理しているお金を渡そうと撩が決めたとき、それは起こった。
「りょお~、依頼があったのよぉぉぉ!」
 ここまで来れば、例えその依頼主が男性であろうが女性であろうが、関係ない。依頼があるということが重要なのであって、依頼主は自分を救い上げてくれる神様のような存在だ。
「それに~ぃ、依頼主は女性よぉ!」
 撩が断る要素など、全く見当たらない。いつの間にか、筆跡鑑定でも出来るのではないか、と言われるくらい読みが鋭くなった香は、依頼主は美女であることを見抜いていた。それに、男のもとに頼み事を持ってくる女性は、揃いも揃って美しいのだ。その依頼人に撩が下心を持つことぐらい何だ、依頼料が入ればいいのだ。鼻息荒く依頼告げた香に、さすがの撩も異論や反論は出来なかった。
「よかったぁ、依頼があって」
 香は満面の笑みでそう言った。もし自分が、当初やろうとしたことを告げていたら、果たして彼女はこんな風に笑ってくれていたのだろうか。それがわからないから、撩は複雑な心境になる。香が笑顔になる要素は世界中に散りばめられていて、それらに撩が文句を言ったところで何もならないのだ。それもわかっているから、撩は黙るしかなくなる。
「撩? どうしたの?」
 気遣うように見上げる彼女の視線が、今は痛かった。


 そうはいっても、ただでは転ばないのが冴羽撩である。ならば、毎年恒例のチョコレートを貰えればいいやと考え直したのは、ちょうど如月に入った頃だ。そこからみっちり、依頼は続いていた。香を笑顔にした美女の依頼は、単なるボディーガードかと思いきや、背後に隠れていた犯罪組織なども絡んできて、大元を潰さないことには解決が訪れないという結論に至ったのだ。
 バレンタインデーは女の子の決戦日。もちろん、香にとってもそれは同じだ。だが、今は依頼人の笑顔を取り戻すことが優先で、チョコレートは二の次にしていたのである。仕方ないかと割り切ったのは香の方で、そこに異議申し立てをしたのは撩だった。
「なによあんた、お金入ったんだから、今からでもお姉様方にもらえるでしょう?」
「あ、そう。香ちゃんは、それでいいんだ」
「いいわよ、もちろん。今からじゃ、残り物のチョコレートしか売ってないんだし。それなら、買わない方がマシなんじゃないの? それに、毎年文句言ってたんだし」
 あげる方の立場にでもなってみろ、と言った香は、撩を置いて夕食の買い物へと出掛けてしまった。
「なんだよ、あいつ」
 自分が子どもっぽいことをしている、という自覚はもちろんある。チョコレートをくれなくちゃ拗ねちゃうぞ、というわけでもない。ただ、今までやりとりされていた日常が、理由はどうであれ割愛されると、そこに入り込むのは空虚感だった。空虚感はすぐに人を飲み込もうとするから、たちが悪い。空虚感を不在という認識で誤魔化して、そこを何かで埋め合わせたくなる。
「なんでもいい、じゃ困るけどな」
 以前ならば、その空虚感を即物的に埋めていた自分を思い出し、撩は自分で自分を嗤った。


 何事もなく夕食時間が過ぎ、食後のコーヒーにも何かが付け合わされることはなかった。それぞれが入浴し、テレビでやっていた「となりのトトロ」を見終われば、もう就寝時間だ。
 撩がベッドの上でゆっくりしていると、コンコンと控えめにドアがノックされた。何だと返事をする前に、ドアは静かに開いていく。
「撩、ちょっといいかな」
「ああ…」
 いつもはパタパタと音を鳴らす香のスリッパも、香の緊張感を表すかのように静かだった。どうして緊張感なんか、と撩が思っていると、ベッドの横まで来た香は、じっと撩を見つめている。そして意を決してくるりと背を向けたかと思うと、隠し持っていた袋に手を入れて、何やら口元に持っていった。再び撩に向き合った香の口には、曲線で象られた薄いチョコレートが咥えられていた。
「ん!」
「ん!って…。なんか香ちゃん、恥ずかしそうに舌を出しているみたいだぞ」
「んんんーん。ん!」
「うるさーいって? じゃあ、どうしろって言うんだよ、ったく」
 言葉では面倒臭い自分を伝えているが、その口調は明るい。いつの間にかチョコレートを調達してきて、このシチュエーションで撩に食べろと香は言っているのだ。これに反応しなくてどうするというのか。
 ギシッと音を立てながら、撩はベッドから立ち上がった。その瞬間、香の身体がビクリとする。近付いた撩は香の肩に手を置き、顔を近付けていく。
「このままじゃ溶けるな」
 薄いチョコレートのもう片端に唇を寄せ、自分から誘惑しておいて固まっている香のそれにゆっくりと近付いていった。
 撩の空虚感はいつの間にか、何かで埋められていた。


 火照った身体を落ち着けるように、香は撩に抱きしめられながら横たわっていた。そして、撩の胸をじっと見たと思ったら、香は何も言わずにその身体の上で横になった。何かを感じるように、香はその胸に頬を寄せている。
「どうした?」
「え? ううん、ちょっとね」
「気になるだろ。言わなきゃ転がして落とすぞ」
「やだやだっ、今は止めてよ」
「じゃあ、なんだ?」
「…笑わない?」
「努力する」
 香は時々、その天然要素を大いに発揮するから、撩としても気が抜けない。だが、自分の胸に何を思い、何を感じて頬を寄せていたのか、気になるところでもあった。素直にそう思うから、撩としても笑うところではないとわかっている。そんな撩に香は、
「メイちゃんって、こんな感じだったのかなぁって」
と言った。メイちゃんって誰だよ、あぁ映画のか、と思い当たるも、何の脈絡もないので、撩には全くわからない。
「ほら、となりのトトロでさ、メイちゃんがトトロを探して、それで落ちるところがあるじゃない」
「あったな」
「ぽいーん、って弾んで、気持ちよさそうで。あの感じかなぁって」
 どうやら今、香はあの少女メイと自分を重ねているらしい。そして、メイが弾んだ対象といえば、毛むくじゃらのあいつだ。
「香ちゃん、つかぬことを伺いますが」
「なぁに?」
「じゃあ俺は、大トトロってことか?」
 狂おしい時間の先で聞かされた台詞がそれというのは、何とも色気も何もない。そうは言っても、そんな天然っぷりを炸裂させてくれるのが香だ。
「そう! わかってくれる~?」
 何がわかる?だ、このやろう。誰がトトロだと言われて嬉しいんだアホタレ!と思うも、嬉しそうにしている香の気持ちをこの場で害すのは、撩とて本意ではない。
「トトロねぇ…」
「そう、なんかさ、安心できるっていうのかな」
「え?」
「ここにいたら、あたたかいなぁって。いいなぁ、って思うの」
 そう言いながら、香は撩の胸の傷を指で辿った。来日していたときには付いていたもの、そして、海原との戦いで付いたもの。傷をまるで癒やすかのように香が優しく指でなぞると、撩の尾てい骨あたりが熱を持って疼く。じわりと生まれたはずの熱も、ひっそりと隠れていた疼きも、一瞬の後には撩の身体を駆け巡っていった。
「だからね、ここにいるのがあたし、って、きゃあ!」
 香が呆気にとられる時間もなく、二人の上下が逆転した。香にのしかかった撩は、舌先で耳を弄りながら言葉を掛けていく。
「俺は、あたたかいよりも熱い方がいいな」
 唇も指先も、その撩の何もかもが香にも熱を伝え、もっともっとと強請ってくる。こうなれば、鎮める方法は一つだ。
「もう…」
 香の腕が撩の背中に回されたのを合図として、二人は再び狂おしい時間にその身を浸していった。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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