Ambivalent and Vague

This page is the only Fan Fic.

  • 2017_10
  • <<
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • >>
  • 2017_12

17/こぼれるもの

そんなあなたをあたためて

 
 ここのところ、新宿も寒い日が続いている。伝言板に依頼を告げる書き込みはしばらくなく、香も節約モードの日々だ。そんな涙ぐましい努力の一方で、撩は「自分は関係ない」とばかりに過ごしていた。ナンパや飲みを止めない男に慣れっこの香は、溜息をつくだけで、何も言わなかった。「言うだけ無駄、その労力こそが惜しい」、香が導き出した結論はこれだ。
 こんな状況だから、二人は夜を共にしていない。撩がどんなに誘おうが、香の心を今動かせるのは「撩の努力」のみだ。それを見せない男に、なぜ褒美を与えるようなことをしなければならないのか、とムキになっている自分を香も自覚している。しかしここまで一週間、今になって後戻りは出来ない。そんな香の気持ちを察しているのか、撩も無理には行為に連れ込もうとはしなかった。


 今夜、撩は「夕飯はいらない」と言って出掛けていった。家にいても香はろくに相手をしないのだから、外の世界で羽を伸ばそうとするのだろう。ツケを増やされるのは痛手であっても、今の二人の関係なら仕方がないのかと思ってしまう。その一方で、もし自分には知らされることのない仕事に行っているとしたら、とも考える。いずれにしても、香にとっては頭を悩ます事態だ。
「あ〜、もうっ! こんなときは、お風呂に入って温まろうっと」
 脱衣所で脱ぎ捨てた香は、一緒に持ってきたものを手に取った。小さなガラス瓶、そこには褐色のドロリとした液体がたっぷり入っている。香はそれを持って、浴室に入った。コルクの蓋を開ければポンッと軽快な音が響き、浴室には甘い香りが広がった。小瓶を浴槽に向けて傾けると、液体は真っ直ぐ湯の中へ落ちていく。褐色は湯の中で薄められて、その存在が感じられない。その代わり、蜂蜜の甘い香りが浴室を占めていた。甘さと共に漂うのは、どこかエキゾチックな空気だ。いつもの浴室なのに、どこか雰囲気が違う。そんな不思議な感覚を持ちながら、香は湯に身体を沈めた。
「はぁ、気持ちいいわぁ」
 湯を手ですくい、そして手放す。湯はパシャンと音を立て、不思議な香りを微かに残して戻っていく。
「これが、イランイランっていう香りなんだ…」





 今日の昼間、香はいつものようにキャッツへ立ち寄っていた。カウンターにいたのは、大学の試験期間が終わったかすみだ。最近のかすみはアロマオイルに凝っており、得た知識を惜しげもなく美樹や香に披露している。そんなかすみが最近はまっているのが、入浴剤としてアロマオイルを使うことだった。
「そのままじゃなくて、キャリアオイルで希釈したりするんですけど、私は蜂蜜に混ぜて溶かすのが好きで」
と言ったかすみは、いつの間にか奥から持ってきたガラスの小瓶を美樹と香に渡した。
「えっと、ちょっと不思議な香りなんです。それがよくて。お二人とも、よかったら使ってみてくださいね」
 渡された香は、近いうちに使えればいいなと思いながら、かすみから小瓶を受け取った。





 蜂蜜に混ぜられたイランイランは、どこか懐かしさを思わせるような、しかし身近にはない香りでもあった。微かであっても浴室に広がる香りは、ふとした瞬間にその存在を主張する。頭も身体も洗ってボーッとしていた香は、その様々な要素が混在した雰囲気の中にその身を浸していた。
 だからだろうか、「その存在」に香はちっとも気付かなかった。
「かおりちゃ~ぁん」
 そう言われて耳元に息を吹きかけられると、香は驚いて浴槽の湯を大きく波立たせてしまった。目の前には、いつの間にか浴室に入ってきた撩の姿。もちろん浴室にいるのだから、撩は裸だった。
「ななな、なんで、こここここ、ここにいるのよっ」
 驚きがそのまま声色にも出た香は、ちっとも口が回らない。こここここって、おまえはニワトリか?と思っても、撩はそれを口にせず返事した。
「だってさぁ、ちっとも呼んでもいないし、風呂場の外から声を掛けても出てこないし〜ぃ」
「だからって、入ってくることないじゃない!」
「ん〜、香ちゃんがのぼせてたら大変じゃん? だから確かめに来たのだ」
「じゃあ、なんで裸なのよっ」
「洋服が濡れたら、ボクちん風邪引いちゃうし。何事もなければ、そのままお風呂もいいじゃな〜い?」
 確実にからかわれていると思った香は、自分の身体を見られてもいいから浴室から出ようと立ち上がろうとした。しかし、すぐさま伸びてきた撩の手が肩を上から押さえつけて、香が立ち上がるのを阻止した。
「ちょっと!」
「いいじゃん、いいじゃん。最近ゆーっくり話せなかったからさ、一緒に入ろうよ〜」
「お断りします」
「そんなこと言わないの〜ぉ」
 まだ言うのか、と言い返そうとした香は、撩の様子が変わっていることに気がついた。口調はふざけているのに、眼は笑っていない。こんなときの撩は、香を絶対に逃がしてくれないし、容赦がない。それは言葉で身体で、今までに何回も教えられてきたことだった。
「なに、逃げようって?」
 ふざけた口調すら変わってしまうと、香は撩に抗う術を失っていた。


 急いで身体を洗った撩は、香を浴槽の端に立たせ、自分が湯の中に入った。足を出来るだけ開いて空間を作ると、意味を込めた視線を香に向ける。恥ずかしがり屋の香が、例えその視線の意味に気付いたとしてもすぐには従わない、と撩は思っていた。その予想に反し、くるりと背中を向けた香は、おずおずとその空間に腰を下ろす。そこで体育座りでもするかのように身体を小さくした香を見て、撩は苦笑いをしてしまった。こんなに近くにいるのに、彼女は撩から距離を置こうとする。
 ここのところ手を煩わされていた仕事をやっと終えた今夜、香との時間を過ごそうと、撩は早めに帰ってきた。そのせいか、今はその隙間が許せなくて、撩は香の腰に腕を回し、一気に自分へと引き寄せた。
「撩っ!」
「そんなんじゃ、ゆっくりできないだろうが。こっちこい」
 観念した香は、その背中を撩の胸へとゆっくりと預ける。やっと自分のところへ来てくれたか、と撩は口元に笑みを浮かべた。


「なあ、香。こりゃなんだ?」
 撩は、浴槽の縁に置かれた小瓶を指差しながら尋ねた。まだ瓶の半分ほど残っているその液体が何なのか、香の口から聞きたかったし、浴室内に広がる香りも気になる。香がキャッツでのやりとりを伝えると、
「へぇ…」
と何かを思いついたように撩が呟いた。どこか楽しそうな表情の撩を見て、香はいい予感がしない。撩がこういう表情をするときは、いつも何かを企んでいる。そして、撩がもたらす行為に溺れ、意識が鮮明になるまでに時間がかかることもしばしばだ。今も何かされるのだろうと思って香が身構えていると、撩は、
「まずは、身体を温めないとな」
と言う。そして、撩はゆっくりと目を閉じていった。自分の予想と違った反応に、香は少し戸惑いを覚える。それでも、撩と同じようにそっと目を閉じた。
 その後、二人は何かをやりとりすることなく、ゆっくりと湯に浸かっていた。天井から落ちる水滴が、ぴちゃんと音を立てる。その余韻すらも味わうように、二人は何も話さなかった。
 撩の逞しい身体を背中に感じながら、こんな風に身体を寄せたのは一週間ぶりだな、と香は思う。家計のことはあるけれど、やはり撩と過ごせない時間は寂しいのだ。安心感で満たされる今を改めて思うと、意固地になっていた自分がすっと消えていくようだった。背中だけでその温もりを感じているのが寂しくなった香は、
「撩、ちょっと腕を緩めてくれる?」
と言った。香が何をしたいのかがわからない撩は、少し怪訝な顔を向ける。
「どうした」
「そっちに向きたいの…」
 その希望に、撩も異論はない。撩が腕の力を緩めると、香はゆっくりと撩へと身体を向けて、自分の身体を預けていく。再び撩は、香の腰に腕を回した。
 香がボーッとしながらも撩の身体を見ると、あちこちに傷跡が残っている。いつもは見えなくても、この熱さで浮き上がってきた過去の傷もあった。海原との戦いでついたものではない、その胸元の傷に指で触れると、撩の身体がピクッとした。
「傷、いっぱいだね」
「ここまで生きてりゃな」
「でも…」
「今となっては、別に構いやしないさ」
 撩の発言の意図を掴めず、香は首を傾けた。
「傷ついたって、こんなことは出来るだろう?」
 香の腰に回していた腕を、撩はそっと動かしていく。片手は香の身体を撫で上げ、湯の中でも綺麗な形を保つ胸を覆った。ゆっくりと揉めば、その柔らかな胸は思いのままに形を変えていく。香は久し振りの感覚に戸惑うも、その動きが心地良い。ただそこに、いつまでも浸っていたくなる。


 不思議な空気が漂う浴室。その香りは、確実に二人を刺激している。この空気を作り出した液体を残り全部、この空間に解き放ってしまえば、自分たちはどうなるのだろう。興味と変化への期待が、撩が取る次の行動を決めた。
「香、悪ぃ」
 撩が少しだけ香の身体を離すと、そのまま手を伸ばして小瓶を取り上げた。蛇口をひねって湯を出し、蓋を開けた小瓶の中に少しだけ注ぎ入れる。小瓶をくるくると回すと、湯の熱さで蜂蜜がゆっくりと溶けて、今までよりも小瓶の中で動きを見せるようになった。その様子を香に見せるも、心地よさに溺れつつある香には、それが何を意味するのかがわからない。
 小瓶を少しずつ香に近づけ、そして傾ける。小瓶から零れた液体は直線を描き、香の鎖骨へと落ちた。ゆるくも粘着質が残る蜂蜜は、香の身体にじわりと広がってゆく。小瓶に残った蜂蜜をこそげ落とすように撩の人差し指が動き、トロリとした指を香の口に寄せた。その甘い香りに引き寄せられたように、香はつい唇を緩めてしまう。撩はその隙間へ人差し指をねじ込み、香の舌を優しく撫で始めた。自然と撩の指をしゃぶる形となり、湯とは違う水音を立てながら、香はその行為に没頭していた。撩は香の鎖骨に垂らした蜂蜜がもったいないとばかりに、舌を大きく出して舐め上げる。そして、香の口からスッと指を抜き出した。
「甘いな」
「だって…、蜂蜜、だもん…」
「それだけ?」
 撩の片眉が意地悪く上がる。目の前の男が今味わっているものが何なのか、それを考えれば答えは導き出せる。そして、そんな言葉を平然と口に出来る男だ。
「もうっ、バカ…」
 そうやって誤魔化すことが、香の精一杯だ。ただ、撩の満足からは遠かったのだろう。首筋にも伸ばされた蜂蜜を、撩は改めて舌先で掬い取った。何かを首筋から抉り取るように動く舌先は、快楽を生み出す場所を的確に刺激している。その責めに耐えきれず、香が声を出そうとした瞬間、撩の人差し指が香の口に戻った。太い人差し指は繊細に、口の中の宝物を探るように蠢いている。
 口の中でも首筋でも愛撫されている香は、声を出したくてたまらなかった。今は不規則な吐息しか許されていないが、それを声に変えて、この快楽に没頭したい。しかし、愛撫する指そのものがそれを邪魔している。身体のあちこちで生まれた熱は、香の中に籠もる一方だった。
 もう限界だと香が口を開けようとしたその時、撩は指を退けて、香の口を解放した。その指で固く立ち上がった胸先を人差し指で弾く。声にすることを許され、さらに直接的な快感を与えられた香の口から、「あぁ…」と熱い息が零れていった。

スポンサーサイト
  1. [ edit ]
  2. せつないふたりに50のお題

プロフィール

うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

最新コメント

最新トラックバック

« 2017 11  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

検索フォーム

The antenna is here.

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム


pagetop