Ambivalent and Vague

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Bloom in profusion

櫻色の姫 (R-18)
Valentine's Dayはこちら


 
 ───なぜ自分がこの場所にいて、こんなことをしているのかが理解出来ない。


 香はそう思いながら、目の前に座る男と食事中だった。いつもならば縁が無さそうな高級フレンチレストランで、前菜からいきなりトリュフが登場だ。次にはキャビア、そしてフォアグラ。落ち着いた雰囲気の個室に運ばれてくる食事はどれも美味しそうで、しかし香の食欲を少しも刺激しない。ただ食材を口に運び、咀嚼して胃の中に入れるだけだ。胃袋だけは満たされるはずなのに、その満腹感さえわからない。
「香さん、美味しいでしょう? ここはボクのおすすめなんですよ」
 男は洗練された笑顔でそう言った。「えぇ、そうですね」と言えたら、それが一番だったのかもしれない。この時の香に出来たことは、ぎこちない笑顔で僅かに頷くことだけだった。そんな香の様子に男は顔をしかめるも、すぐに変わってくるだろうと思っていた。至れり尽くせりの状況で喜ばない女性はいない、それが男の恋愛ルールだったからだ。





 今回の依頼人は、とある会社の会長だった。とある会社を買収しようと画策し、その作業が軌道に乗り始めた頃から不穏なことが起こり始めた。会長自身に不幸が降りかかるのならば諦めもつくが、誰よりも大切にしている娘、優衣に危害が及ぶことだけは我慢ならない。そこで、シティーハンターに依頼しようと伝言板に書き込んだのだった。ただ、シティーハンターの腕がいくらよくても、別の噂は気になる。まだ大学生の娘にまとわりつく変な虫となっては困る。会長は兄である祐輔も一緒にボディーガード対象とすることで、優衣をさまざまな危険から守ろうとしたのだった。
 祐輔と優衣は仲の良い兄妹で、優衣に何かあれば、まず真っ先に祐輔がその身を守ろうとしていた。武術の心得がある祐輔は動きもよく、撩は自分を雇わなくてもよかったのではないかと思ってしまう。それでも銃で狙われる事態となってしまえば、やはり自分に依頼してきた会長の目測は正しいのだろうし、兄を一緒に付けてきた意図にも苦笑いする。
 香と一線を越えてからは、他の女性に対する態度などフェイクとしか言いようがなく、そこに他意はない。ただ、女性が好きだから追いかけているだけであって、そこから何かしようという想いはまるでなかった。それを香が理解してくれているかというと、頭ではわかっていても、気持ちでは追いつかないのだろうと思う。ただ彼女だけを見ていれば、香の不安は取り除けるのかもしれない。しかしそうすれば、撩は自分が香をどこまでも苛み、酷くすることが目に見えていた。大切だからこそ壊したい、香に対してはそこの気持ちがどうしても押さえきれず、ベッドでは貪り尽くそうとしてしまう。香にとっては夜の癒しを奪われることに他ならず、それでも自身を離れることがない香に救われ、そして追い詰めてしまうループに嵌ってしまっていた。そんな中での依頼だった。


 一方で香は、この仲の良い兄妹に自分を重ね、槇村を思い出すことが多かった。今の安らぎを与え、そして守ってくれているのが撩であるとわかっていても、香にとって、槇村は特別な存在だ。祐輔を素直に頼ろうとする優衣を見て、自分が出来なかったことを自然とやっている優衣が羨ましかった。もし今も槇村が生きていたら、自分は強がることなく槇村に甘えることが出来るのだろうか。それが出来なかったから、香は今も撩に甘えきることが出来ない。つまらない言い合いをして、そして距離を取ってしまう。


 無事に依頼が解決し、依頼人がお礼という名の食事に誘う。これは今までもよくあることだった。誘われるのはもちろん撩で、香はもっぱら見送る側だ。しかし今回は、話を持ちかけてきたのが祐輔だった。
「香さん、妹をいろいろとフォローしてくれたお礼をしたいんです」
 そう言われた香は、いつもと違う展開に「どうしよう」と思ってしまう。女性依頼人に誘われて付いていく撩を疎ましく思い、そして依頼人に嫉妬することには慣れていても、誘われる側には慣れていない。慣れていないから、香は撩に相談するというミスを犯すのだ。もちろん撩は不機嫌になるし、しかし「行くな」とも言わない撩に業を煮やした香は、「じゃ、行くって言うわよ!」とケンカ腰になってしまう。一刻も早く二人の生活に戻りたかった撩と香は、この時ばかりはすれ違ってしまっていた。


 オフホワイトのスーツは、親友である絵梨子からのプレゼントだ。中には淡いピンクのカットソーを着て、これから訪れる桜の季節を思わせる装いだった。
 「行く」と言ってしまった以上、約束を反故にすることは出来ない。ただ、心惹かれる食事でもなく、むしろ気が重い。それでも、ドタキャンをするという選択は、香には取れなかった。装いを明るくして気持ちを持ち上げようとしても、そこには限界がある。時計の針は刻一刻と進むのに、香の気持ちは上がる気配がない。
「仕方ないな…」
 香は鏡台からあるものを取り出して、そして蓋を開けた。





「香さん、次は何を飲まれますか?」
 祐輔は笑顔でワインリストを見せるが、香はもうソフトドリンクにしたかった。同じページの端に何とか見つけたペリエを口にすると、祐輔は少しだけ眉をひそめる。まだこれからメインディッシュだというのに、一緒にワインを飲まないなんて楽しみを知らなさすぎる。その表情は香にそう思わせた。それでもスマートな男は、すぐに優しい笑みを被った。
 一回見えてしまった本心を無かったことに出来るほど、香は器用ではない。祐輔に問えば、もちろんはぐらされるのだろう。それでも、この居心地の悪さは、もう御免だ。「早く終われ」と念じて、香はメインディッシュに手を伸ばした。
 コース料理が終わってからも、祐輔は話を止めようとはしなかった。しかも、「またお連れしたい場所があるんです」とにこやかに言っている。祐輔が何を考えているのか、香にはわからない。香にとっては撩が全てで、祐輔が入り込む隙間などないはずなのに、無理矢理にでも入ろうとしてくる。撩は確かに強引なところはあっても、きちんと香のことを考えて振る舞ってくれていた。しかし祐輔は、どうやら自分のことしか考えていない。当然、香は付いてくると思っているのだろう。そんな人間とこれ以上付き合うのは、本当に御免だ。


 店を出ると、入口には黒い車が待っている。祐輔は後部座席のドアを開けて、「さあ、どうぞ」と香を促した。その香は、なかなか車に乗り込もうとしない。何かを堪えるように俯き、固まってしまったように動かなかった。
「香さん、どうしたんです?」
 祐輔が声を掛けると、香は意を決して顔を上げた。そして、こう言い放つ。
「今日はありがとうございました。もう家で待っている人がいるので、これで失礼します」
「いや、まだご一緒してもらわなければ。まだまだお連れする場所が…」
「そういう言い方は好きじゃありません。義務ではないはずです。…失礼します」
 ピシャリと言い切った香は、そのままこの場を立ち去った。断られるとは思っていなかった祐輔は、車のドアに手を乗せたままで動けなかった。そんな祐輔の様子を見ていた店員や運転手は、それぞれが何かを言いたそうな表情をしていた。





 その後、香は新宿の街をとぼとぼと歩いていた。
 やはり、あんな誘いに乗らなければ良かったと思う。撩に「行くな」と言ってもらえれば、それで済んだ話なのに、と責任転嫁もしたくなる。それでも、誘いに乗ると選んだのは自分だ。香はそのことを撩のせいには出来なかった。
 疲れた身体を引きずって、やっとアパートに辿り着いたのは夜だった。自分はお腹が空いていないし、アパートは住人の不在を示すように真っ暗だ。香はパンプスを脱いで、そのまま自分の部屋へと入った。カバンを放り投げ、ベッドに身を投げる。この疲れを受け止めてくれる布団の感触が心地良くて、香はいつの間にか眠ってしまっていた。


 ───なぁに? どうして身体が揺れているの?


 自分が何かに横たえられ、その拍子にギシリと音がする。耳慣れた音にハッとした香は、すぐさま瞼を開けた。
「よぉ」
「撩っ!」
 帰ってきたときは気配がなかったはずの存在が、今は香に覆い被さって動きを封じている。ルームランプに照らされた表情はニヤニヤとしていて、きっと悪巧みをしているに違いないと思わせるには十分だった。
「香ちゃん、あいつとのデートはどうだった?」
 ヘラヘラとした口調で撩が尋ねてくる。ここで少しでも元気が残っていれば言い返したのかもしれないが、今はその気力もない。
「疲れちゃった」
「え?」
「疲れちゃったよ、撩。どうしてだろうね…」
 言い返されると思っていた撩は、その様子に戸惑いを覚える。疲れて弱っている香を思い切り甘やかしたい。そして…。
「慣れないことをしたからじゃねーか?」
「そうだね、慣れないことをするもんじゃないわね」
 弱々しい笑顔を浮かべる香に耐えられなくて、撩はその唇を自らで塞いだ。


 舌が絡み付く音、香の身体を這い回る撩の手、そのどちらもが激しくなる。ボーッとしてくる自分を現実に引き留めようと、香は撩の背中に腕を回した。それが合図となり、撩は有無を言わさず香の服をはぎ取る。桜咲く季節の下に潜んでいたのは、まだ雪が残る季節の凍えた裸体だった。
 耳をねぶって、そのまま身体に舌を這わせても、香からその寒さが無くなることはない。自身の熱を移せたらいいのに、と身体のあちこちで擦り付けても、香は心ここに在らずといったところだ。どうしたらいいのかと思っていると、香の身体に残った桜色が撩の目に入った。手の爪には、さり気なくマニキュアが塗られている。チャラチャラするなと告げた自分のことなど棚に上げて、自分がほとんど見たことのない姿をあの男が見続けた、ということに不快感を覚えた。自分が知らない姿など、あっては困るのだ。
 このまま香を仰向けにさせていれば、この爪は絶頂の証を撩の背中に刻み込むのだろう。しかし、今はその姿を見ながら追い詰めたいという気持ちが強い。撩は香を構わず俯せにして、両手で掴んだ腰を引き上げた。快を強請るような体勢にさせられたと、困惑の表情が香に浮かぶ。
「撩?」
 香が何を言っても返事せず、撩は香の掌を押しつけるように自分の掌を重ねた。見えない血に濡れた撩の手が、少しずつ咲き誇ろうとしている香の手に絡みつく。そして、香の全てを自分に閉じ込めようと、撩は後ろから一気に自身で貫いた。予告もなく襲われ、いつもより強く感じる熱量に、香は言葉を失った。
 中を味わうように抉られ、追い詰められるように潜り込まれる。これ以上は狂いそうだからどうにかして欲しい、そう伝えたくて香が振り返ると、そこには観察するように自分を見る撩がいた。男を楽しませるような嬌声しか出せない香をどこも逃すまいと、撩はその全てを把握しようとする。その視線にすら絡め取られた香は、もはや何を言うこともすることも出来ず、ただ撩の思うままに身体を預けるしか出来なかった。粘着質を帯びた水音とお互いの息遣いが香の聴覚を支配し、体中が撩で埋め尽くされていく。撩で占められていけば、香は何も考えられない。
「もうやあっ、いっぱい、いっぱいなのぉ…」
 そう縋ると、さらに強く腰を打ち付けられ、香はどこまでも追い詰められていく。撩の動きは迷いがなく、そして容赦もない。
「まったく、かわいいことを言ってくれる」
 熱く厚い舌が背筋を辿れば快感が突き抜け、もはや上半身を支えられなかった。「わかっているんだろうな」という声が遠くに聞こえ、香は撩に揺さぶられ続ける。何回目かの絶頂と共に、香の視界は暗くなった。





「う、ん…」
と言いながら、香は意識を戻していく。すると、自分に絡み付く熱のどこかから、冷たい何かが注ぎ込まれた。
「大丈夫か?」
 気付けば、撩が少し心配そうな表情で香をのぞき込んでいた。香の頬を撫でながら「すまん、やりすぎた」と言う表情は、情事の最中に見た目とは全く違う。あの時の自分は、撩にとって獲物以外の何物でもなかった、と香は思っている。そして再び感じる冷たさは、撩が口移しで水を飲ませてくれているからだとわかった。ようやく潤った口が次に感じたのは、しゅわっとした爽やかな甘さだった。その中に入っていただろう粉が口の中で泡となり、しゅわしゅわと音を立てているように聞こえる。口に飴を入れられたのはわかったが、どうしてそんなことをするのか、香には見当がつかない。
「ほれ、今日は何日だ?」
「あ、ホワイトデー?」
「まったく、そんな日に他の男とデートだもんな」
「だって」
「こんなところも色付いて」
 撩が指差したのは、香の爪だ。その撩の声に非難の色を感じ取った香は、
「どうせ似合わないわよ」
としか言いようがない。自分だって、慣れないことをしたとわかっている。春らしい格好をしても気分が乗らず、最後の手段とばかりに爪を桜色にしてみたのだ。それに撩が物申すのは、想定内だった。
「そうは言ってないだろ。…その桜、今咲かせればいいのさ」
 ニヤリとした撩から想定外の言葉を掛けられて、香は呆気にとられてしまう。理解出来ないからと動けない香の手を、撩は優しく持ち上げた。そっと指を一本ずつ口に含み、舐め上げては甘噛みしていく。そして指先を離れた唇は、香の白い二の腕を強く吸い上げた。そこに残るのは、一つの赤い花。
「おまえが望まなくても、な」
「撩…」
 身体のあちこちに落ちてくる唇は、香に快楽を許し、苦痛へと突き落とす。不規則な二つの波は香を飲み込み、むしろ溺れたいと思わせていた。撩は再び狩りをする者の目となり、どう乱して咲かせてやろうか、と舌なめずりをしていた。

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うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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