Ambivalent and Vague

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28/ラブレター

季節が移ろうままに

 
「あぁ、もう散っちゃったなぁ…」
 香の目の前では、桜が吹雪いている。先週までたわわに実る果実のように開いていた花も、今は風に任せて散りゆくだけだ。あちこちに花弁が吹きだまりを作っている。朽ちていく花弁を見るのは、香にとって寂しいことだった。
「でも、この散る感じも美しいんだけどね」
 枝から離れた花弁は、そのまま土に還ることしか出来ない。それでも、そのどこかに生命力の欠片を香は感じていた。どうしてそう思うのか、自分でも理由はわからない。
 ふと、桜の木の根元を見る。そこには背丈のある紫色の花が咲いていた。たくさん咲いているはずなのに、この花はどこかひっそりとした印象を受ける。あぁそうか、と香は思った。
「シャガの花だわ。ってことは、もう5月も近いってことね」
 あやめのような姿をしたシャガの花は、次の季節が近づいていることを示している。今日は気温が高いから、香は半袖のカットソーを選んだ。寒さではなく爽やかさを感じる日中、季節の移ろいを感じる瞬間だ。衣替えもそろそろかな、と香は思っていた。


「そらそうだろ」
 いつの間にか隣に立っていた男が、笑いながら言ってきた。
「あと半月で5月だぜ、なに寝ぼけたこと言ってんだよ」
「花を見て感じていただけじゃない。風流がないのはそっちよ」
 自分の感慨をぶち壊されたと感じ、香の心は少しお怒りモードになった。花を見た余韻など、既に吹き飛んでいる。そもそも、街中で目立つようにナンパを繰り返しているはずの男が、どうして今は気配を消して近づいてきたのだろうか。声が聞こえたなら、そんな男は無視して花に視線を注げたのに、と香は思う。しかし、その行動自体を撩が好ましく思っていない、ということを香が知るはずもない。彼の行動が結局は何を目的としているのか、わかりにくい男だからこそ、香は誤解をさせられる。
 どうやら、香の怒りは残ってしまいそうだ。このままでは雲行きが怪しくなると踏んだ撩は、香と会話が弾むだろう内容へ誘導することにした。
「5月っていやぁ、食いしん坊の香ちゃんは、柏餅か?」
「なにそれ、バカにされてる感じ」
「いやいや、バカにはしてないさ」


 撩にとって、それは本心だった。人生の大半は、自分に季節など関係なかった。服装は動きやすさが優先され、仕事内容で変化する。気候によって衣替えするなど、そういう配慮はなかった。中米のジャングルにいた頃など、身の回りにあるもので間に合わせなければいけなかったのだから、なおさらだ。食事にしても、季節を感じるように食べるようになったのは、ここ数年のことだ。知識として旬は理解していても、そこに味覚という実感は無かった。食べられれば構わない、撩の基本はそうだったからだ。
 この点、香は違う。毎日の食事に、少しでも季節を感じられるようなメニューを入れてくる。
「やっぱり旬のものは美味しいと思うし、美味しい食べ方もあると思うのよ」
と言う彼女は、撩の舌を本当の意味で肥えさせてくれた存在だ。その彼女が5月に頬張る和菓子、それが柏餅だ。こどもの日によく食べるものだとは聞いていたが、餅に包まれたあんこなど、撩には狂気の沙汰としか思えなかった。
「これ、食べてみて。ね?」
 差し出しても毎回素っ気なく断る男を見て、香は何かしらを感じたらしい。いつもとは違う包み紙から出てきたのは、やはり柏餅だった。
「撩にも食べられると思うから。緑茶入れてくるね」
 リビングに残された、撩と柏餅。どんな敵も一瞬で制圧するシティーハンターが、その柏餅と対峙したままで動かない。じっと見つめても柏餅は消えないし、中からあんこも無くならない。それはわかっていても、手を伸ばす気にはなれなかった。
 戻ってきた香は、「やっぱりねぇ」という表情で撩を見ていた。お盆に乗せた緑茶を一つ、撩に差し出す。
「そんなにもダメなの?」
「食い慣れてねぇから、舌が受け付けないんだよ」
「じゃあ、これから慣れればいいんじゃないの? 和菓子って、季節を感じられるのよ」
「季節なんて、俺には関係ないだろ」
 そう言った後で、撩はハッとした。毎日の食卓で、香がしてきてくれたことは何なのか。それを思えば、これは失言に近い。
 恐る恐る香の顔を見ると、少し哀しそうな目をしていた。唇を噛みしめ、手は震えないように握りしめられている。
 撩の過去を知っているからこそ、香は日常の大切さを生活に取り入れたかった。もちろん、香は撩に押しつけたくはない。それでも、彼の生まれ故郷であるはずの日本で、はっきりとした季節の移ろいを撩に感じて欲しかった。自己満足だったとしても、撩に横たわる空虚感を彼女なりに埋めていきたい、香の想いはそこだったのだ。
 それを否定するかのような言動に、撩は柄にもなく焦ってしまった。このまま何もしなければ、彼女の大きな目から、透明な滴が零れ落ちてしまうのだろう。一番見たくない光景を引き起こしてしまう、そんな自分に嫌気が差す。
「わかった、わかった!」
 頼むから泣かないでくれと思いつつ、撩は白い柏餅を口へと突っ込んだ。餅から現れるはずのあんこにビクつきながら、ゆっくりと噛んでいく。
「あ、れ?」
 それは、撩にとって違和感を与えるものではなかった。スッと馴染み、いつの間にか何回も噛みしめている。現れたあんこだって、もう怖くない。餅とあんこのハーモニーは、撩の口の中で渦巻いていた。
「いける、かも…」
「えっ! 本当に!?」
「あぁ、うまいって思った」
「よかったぁ」
 あまりに香が喜ぶから、テーブルに置いてある包み紙を撩はもう一度見てみた。新宿からは距離のある住所がそこには書かれている。
「わざわざ、買いに行ったのか?」
「うーん、美味しいって聞いて、買いに行ってみただけよ」
 撩のために買いに行った、とは香も言わない。だから、撩もそれ以上は突っ込んで聞かない。香の気遣いは、撩の生活に根を張っている。さり気ないからこそ、撩は改めて感謝を伝えることが難しかった。
「自然な甘さだけ、っていうところが気になってね。よかった、撩が食べられて」
 泣き顔が、いつの間にか笑顔になっている。この顔をずっと見ていたい、撩は心からそう思っていた。


「じゃあ、何だっていうのよ」
「思い出すだけさ。前に買ってきてくれただろう?」
「え? あぁ、そうだったわね」
 撩が何を思い浮かべているのか、香にも理解できたようだ。あれ以来、その店の柏餅ならば、撩は口にしていた。
「じゃ、行くか」
「どこへ?」
「だから、買いにだよ」
「あたし、そこまで食いしん坊じゃないもんっ」
 頬を膨らませながら香が見上げると、撩は穏やかな表情をしていた。

ryo_0410 のコピー

「食べたいのは、俺」
「へ?」
「せっかく香ちゃんが見つけてきてくれたんだ。今年も食べたい、って思ったんだよ」
「まだ、こどもの日じゃないんだけど」
「いいんだよ。今日はドライブ日和だぜ、どうする?」
 せっかくのお誘いを断る理由は、香にはない。
「うん、行くっ!」
「よっしゃ香、アパートに戻るぞ」
「ラジャー!」
 今年も繰り返す。香が教えてくれた季節を、忘れないようにと自分に教え込む。そうやって馴染んでいけば、時には香と同じ目線で世界を見られるのかもしれない。過去の違う二人がせっかく合流し、この先もこのままで歩んでいきたいと思うのだ。自分の領域を守ることも大切だが、世界を開くことも必要なのだから。
 香の笑顔を守るのは、自分の戦闘スキルだけではない。撩はそれを香から学んだ。


 ふとした日常を大切にすること、今日はこうやって過ごそう。そう思った撩以上に、香の足取りは軽やかだった。







Special Thanx to M.Hituji

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

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