Ambivalent and Vague

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the taste of your kiss

唇がフレーバーを残して

 
 初夏を身近に感じる頃、それはとあるバーカウンターでの光景。


 スーツを着こなした男二人が、並んでグラスを傾けていた。金髪の男は白いスーツに身を包み、楽しそうに相方へ話し掛けている。
「しっかし、リョウも変わったよなぁ」
「おまえ、いつまでもそれを言うのな」
「何度でも言ってやるさ。アメリカでのおまえを知っていれば、こりゃ奇跡だぞ」
「奇跡ねぇ」
「あぁ、カオリ。ボクの天使は、こんな罪深い男も赦しちゃったのね」
「何がボクの天使だ、このボケ!」
 撩は間髪入れずツッコミを入れる。漆黒のスーツを着崩しているさまはフェロモン垂れ流しなのだが、ミックの発言に対する反応はそれを相殺している。それぐらい、やりとりはコントである。
「だってさぁ、あの死神でしかなかった、女好きでも絶対に一線を引いていたおまえがだ、今はこうなるとはねぇ」
 そう言いながらミックは懐からタバコを出し、その一本を口にくわえた。何かに気付いた撩が、自らのジッポで素早く火を差し出す。撩の意外な行動に驚くも、ミックはその好意を受け取ることにした。すうっと吸い込んで、ふうっと煙を吐く。タバコからはメンソールの香りが漂っていた。
「おまえ、メンソールなんて吸ってたっけ?」
 撩が気付いたのは、ミックが吸っているタバコのことだった。今までと銘柄が違う、ただそれだけのことなのだが、なぜか気になってしまった。
「ノー。最近ね、メンソールにしたんだ」
「へぇ。こりゃまた、なんで」
「おや、珍しい。リョウがボクのことを気にするなんてさ」
「…別にいい」
「ノーノーノー! 理由を聞いたなら、ちゃんと最後まで聞けって。ま、カズエに対する思いやり、かな」
 煙を吐きながら、大切な恋人の名前を嬉しそうに語る堕天使に、「おまえだって変わっとろうが」と撩は言いたくなった。だが、メンソールにすることが思いやりとは、どういうことだろう。撩は、黙って話の続きを待つことにした。ミックも口にしたいことだったのか、そのまま話し続ける。
「タバコは止められないんだ。これはもう習慣だからね、気分転換にもなるし。だけど、一緒にいるカズエはどうなんだろう?と思ったんだ」
「かずえくんが何か言ったのか?」
「いや、何も言わないよ。だけど、一緒に長く過ごしたいじゃないか。だからさ、こういう気配りは大切だと思うけどね」
「まぁな」
「おまえにとっちゃ、一番苦手な分野だろ? カオリに迷惑かけて、怒らせることだけは天下一品なのに」
「うるせぇ」
 そんなやりとりをしていると、今度はミックがあることに気が付いた。自分がタバコを吸っているのに、そして火まで差し出してきたのに、その撩がタバコを吸っていない。タバコは一種のコミュニケーションツールで、会話での沈黙を許してくれる便利なものだ。そして、共にタバコを吸っているという状態が、相手との距離をいくばくかは近くする。そんなやりとりを、ミックも撩もしてきたはずだった。しかし、今は。
「おまえ、今日はタバコ吸わないのか? もしかして、禁煙通達?」
 やはり突っ込まれたかと、撩は口を尖らせる。そして、頬杖をつきながら、右手でグラスのふちをクルクルとなぞりだした。
「そんなこと、あいつは言わねぇよ」
「ま、おまえってヘビースモーカーではないもんな。だけど、喫煙歴は長いだろ? …あぁ、そうか!」
「なんだよ」
「カオリも、キスがいつもタバコ臭いなんてかわいそうに」
 胸元に入れていたハンカチーフを出して、おいおいと泣き出すミックは、やはりコントだ。大きなお世話だと思いながら、撩は半ば呆れて返事をする。
「いいんだよ、それしか知らねぇんだから」
 最近の撩は、素直に香とのことを認めるようになってきた。以前のように変な誤魔化しもない。天の邪鬼な態度は続いているものの、香を想っていないと嘘をつくことはなくなった。香を受け入れ、そしてこの先も大切にしていくこと。短い言葉の中にそんな撩の考えが見えたようで、「やっぱりおまえは変わったよ」とミックは思ってしまう。だからこそ、少しからかいたくもなるのだ。
「言ってくれるねぇ。でもさ、タバコの臭いがしないキスにカオリが興味を持ったら、おまえどうする?」
 撩の方へ向いたミックは、そのままグイッと身を乗り出して迫っていく。さらにバツが悪そうになった撩は、右手を懐へと差し入れた。目的のものは見つかったようだが、出てきた手には何もない。そのまま右手はグラスに伸び、再び指がグラスのふちをなぞった。
「…今」
「はい?」
「今、そうなんだよ。あいつはそこまで深く考えてないみたいだが、どんなのかと聞かれたんだ」
「へぇ、それでリョウはタバコを吸ってないってわけだ」
「あぁ、止めてるな」
「よく止められたなぁ。そこは凄いわ、おまえ」
「まぁ、その代わり」
 ミックはなぜだか嫌な予感がした。香のためにタバコを止めた撩は確かに凄いが、できるなら、続きの言葉など聞きたくはない。なぜなら、恐らく自分だって同じことをするだろう、とわかっていたからだ。
「タバコを吸う代わりに、キスしてる」
 そう言った撩の表情はどこか勝ち誇っていて、ミックとしては逆転を狙いたい。だが、今はどうやっても逆転要素が見つからない。
「結局は惚気かよ。あのサエバリョウくんから惚気が聞けるとはねぇ」
「惚気じゃなくて、事実だ」
「照れるな、照れるな。…ま、こんな話をリョウとするようになるとは、昔の俺に教えてやりたいね」
「あん?」
「あの冷気を纏って尖りまくってたリョウはさ、自分のことなんて話さなかったよ」
「……」
「今の方がイイ男だと思うぜ、リョウ。変われたのは、やっぱカオリのお陰かな」
 ミックはグラスを持つと、そのまま撩へと差し出した。ミックの意図がわかった撩は、自分のグラスを持ち上げて近づける。
「かなぁ」
 グラス同士が音を立ててぶつかり、中の氷がカランと酒の中に沈んだ。





 アパート手前でミックと別れ、そのまま見上げる。すると、リビングには明かりが灯り、香がまだ起きていることを示していた。まだ日付変更線を越えたぐらいだ、香が起きていてもおかしくはない。だが、自分を待ってくれていたのかもしれない、という可能性を思うだけで嬉しくなる。呼び鈴を押してから玄関を開けると、パタパタとスリッパの音を立てながら香が出てきた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「あら、やっぱり飲んできたのね。ほらほら、上着を貸して」
「ミックと一緒だからな」
 脱いだ上着を撩が渡すと、香はしわにならないように抱えて、リビングに置いてあったハンガーに掛けた。既に着崩していたネクタイも取ると、香が「はい」と手を差し出してくる。その甲斐甲斐しい様子は、さしずめ新婚家庭の奥様だ。例え香の格好が色気のないパジャマであっても、撩にとっては「おかえりなさい、あなた」状態である。
「その割には、綺麗なお姉さんのいるお店じゃなかったみたいね」
 なぜ香がそう言い切れるのか、撩は不思議だった。そんな気持ちが顔に出ていたことに気付いた香は、撩に微笑む。
「だって、綺麗なお姉さんのお店なら、もっとタバコの臭いがつくし、香水もすごいわね。でも、今日はそんなでもないんだもん」
「よくおわかりで」
「えへへ。…ねぇ、撩」
「なんだ?」
「もしかして、この前言ったことが、撩にそうさせちゃってる?」
「なんのことだ」
「禁煙。あたしこの前、タバコの味がしないキスってどんなだろう?って言ったから」
 どこか愁いを帯びた瞳が撩を見つめる。
「…いいんだよ? 撩に禁煙させるつもりで言ったんじゃないから、吸ってくれても」
 その言葉を聞いて、撩はため息をつきたくなった。香は撩の想いを育み、大切にしてくれるが、時として「それはわざとかよ!」と思ってしまうほど明後日の思考になることがある。撩にとって、タバコが第一なのではない。理由があれば、タバコなどすぐに止めることができる。香に色々な自分を見せ、そして香の中を埋め尽くすことができるのならば、それに越したことはない。タバコの味がするキスも、しないキスも、もたらして記憶に残すのは自分だけだ。
「別に今までだって、必要とあれば吸ってなかったさ」
「じゃあ、なんで?」
「自分で強請っておいて、これだもんなぁ」
「そ、そんなことないもんっ! だ、だって、気になっちゃったからでっ」
「気になったんだったら、それを教えるのは俺だろ。それとも香ちゃん、他のヤツに教えて貰おうと思っていたとでも?」
 会話の風向きが変わってきたかもしれない、そう思った香が撩を見上げるとギョッとした。笑顔なのに、目が笑っていない。答えを一つ間違えれば、果てしない肉の檻しかもたらされないのだから、よく考えなければならないのだ。この場合、「撩だけ」と言った方がいいのだろう、香はそう判断した。
「ううん、撩がいい。撩じゃなきゃ、いやぁ」
 ───もしもし、香ちゃん。どうしてそこで、「撩じゃなきゃ、いやぁ」を付けたよ。しかも、「いや」じゃなくて「いやぁ」だよ。小さい「ぁ」は、ポイント高ぇな。
 檻に入れられる事態から回避しようとした香の努力は、見事なまでに反対方向へ作用していた。「撩じゃなきゃ、いやぁ」と言うのであれば、その願いを200%で叶えようとするのが恋人の役目というものだ。超天然娘の誘惑もきっちりキャッチ、それが冴羽撩のモットーである。
「そっか。俺がいいか」
「うん、撩がいいのぉ」
 ───だからなんで、「いいの」じゃなくて、「いいのぉ」なんだよっ! あ~、相変わらずコイツは怖ぇわ。
 超天然娘の無自覚な攻撃は突然で、百戦錬磨の種馬も咄嗟に盾を出して防御ができない。だからといって、撩には矛がある。しかも、守りより攻めの方が得意な男だ。
 ───いや、「責め」とも言うけどな。
 いよいよ火が点いてしまった撩は、今後のプランを高速で練り上げる。
 そろそろ、タバコの味がしないキスの集大成をかましてもいいのかもしれない。ちょっとした気分転換にはタバコがちょうどいいし、裏の仕事で香に会えないときなどはタバコが役に立つ。可愛い姫のお願いも、ここまでだ。
「わかったよ」
 いきなり腰を引き寄せられた香は、驚いて目を見開いた。うなじをなぞった撩の手が後れ毛を掴んで、香は仰向けになる。曝された白い喉元に撩の唇が這い上がれば、震える唇が熱を待ち焦がれていた。ぽってりと赤いそこを、撩は舌で潤し、そして歯を立てないように気を付けながら啄む。優しいその行為は、しかし執拗に続けられ、香はそれだけで頭に霞がかかってきた。知らずと吐息も熱くなる。
 恥ずかしさで強ばっていた香の身体から、緊張感が取れていく。きゅっと結んでいた口元が綻ぶと、そこにスッと撩の舌が入りこんだ。香を慈しむように、舌は口内を撫でていく。少しでも違う反応が見られれば、そこを重点的に探られ、より心地よさを引きずり出される。ふわふわとした感覚、それに包まれた香は撩の手の中だった。そして、捕獲されるときを容赦なく迎える。
 突然、優しかった動きが獰猛になった。ねじ込まれる何かを受け止める以外、香に選択肢はない。自分が飲み込まされる液体は、もはやどちらの唾液なのかもわからない。そうして頭が白くなっていく中で、香は一つ気付いたことがあった。
 撩が唇をゆっくりと離していく。二人で顔を見合うと、香がはにかみながら言った。
「やっぱり、違うんだね」
「なにがだ?」
「タバコの味がしないキスのこと」
 香が何を言いたいのかがわかり、撩はほくそ笑んだ。香の記憶を自分で埋めることができた、そのことだけで撩は満たされる。
「だけど…」
「ん?」
 続く言葉を言いにくそうにしている香を、撩は続けるように促す。言ってもいいのかどうか、香は考えあぐねたが、想いは伝えなければわからない。目の前の男がそれを苦手とし、自分も同じように苦手としていたとしても、言いたいと思ったときには言葉にするべきなのだ。
「やっぱりね、撩のキスに…」
「俺のキスに?」
「タバコの味が無いのは寂しいなぁ、って。タバコだって、撩を作り上げてきた一部でしょ? やっぱり、それも感じたいの」
 今日はどうやっても、撩が勝てる隙間すら見当たらない。こういう時は、姫にかしづくのが一番なのだろう。
「承知致しました。ただ…」
 撩の口調に冗談の色が付く。片眉を上げた表情は、何かを企んでいる証拠だ。しかも、撩にとって楽しいことで、果たして自分はどうなってしまうのか、と香は思ってしまう。
「今宵はこのままで如何ですか?」
 続けて撩は香の掌を取り、その甲に口づけを落とした。普段の撩には似合わぬ紳士的な行為に、香が少々面食らうのも仕方がないだろう。しかし、そんな実感を伝えてしまえば、瞬時に意地悪な本性を隠さなくなるのも撩である。彼は彼女を囲い込み、翻弄するのが楽しいのだから。
 こういうときは、流れに乗ってしまうのが最善策だ。例え作り出された濁流に呑み込まれたとしても、撩は必ず最後には優しく抱きしめてくれる。それもわかっているから、香はその身を投げ出すことができるのだ。
「えぇ、お願いするわ」
 これから何をするのかを香はわかっているはずなのに、その瞳から撩への信頼は消えない。撩はそんな香を優しく抱き上げて、ゆっくりとリビングを後にした。

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うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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