Ambivalent and Vague

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43/おきざり

あなたはきっと、わからない

 
「それじゃ、おやすみ、冴子」
 そう言葉を残して、槇村は冴子の部屋を立ち去った。バタンと音を立てて閉まった扉が、冴子にとってはいつもより重い。外の世界と自分を隔てる壁、愛する男はその世界に戻っただけだ。そこで本当は何をしているのかなど、冴子は知らない。そして、本当は何を思っているのかなど、知りたくても聞けない。





 今夜は何となく、自分で自分をコントロール出来なかった。冴子はそう振り返る。
 いつものように槇村を部屋へ迎え入れ、同じ時を一緒に過ごしていく。その時間にもっと浸りたいと思った女が男に懇願するのは、正直な心のはずだ。
 ───もっと、一緒にいて欲しい。
 ───もっと、私を見て欲しい。
 素直にそう告げれば、槇村はこの部屋に残ってくれたのだろうか。冴子に出来たことは、強がる女の駆け引きだった。背中に縋り、言葉を放つ。しかし、そこに槇村が乗ってくることはない。


「冴子」
 槇村が呼ぶ名前は優しい。その優しさがかえって二人の距離を示すようで、冴子は咄嗟にシャツを掴む指を緩めた。変化に気付いた槇村が静かに振り向き、冴子を抱き寄せる。背中をさする手、頭を撫でる動作。一つ一つが染み入るように優しい。だから、冴子は余計に哀しくなる。そして、自分を激しく求めてくれない男を恨みたくもなる。
「すまん、冴子。今日はそうもいかない」
「あなたって、いつもそう。妹さんだって、わかってくれるはずなのに」
「そうはいかないんだ。まだ年もいってないし、一人にしておくわけには」
 槇村が妹を優先するのが嫌なわけではない。冴子にだって、家族がいる。家族との繋がりがどんなに大切なものか、わかっているつもりだ。
「冴子なら大丈夫さ。今日は少し疲れているんだよ、こんな日だからこそ、ゆっくり休んだ方がいい」
 自分のどこが大丈夫だというのか。例え素直に言えていなくても、男に縋り付いていたのだ。それなのに、槇村は「大丈夫」だと言う。
 冴子をただ安心させるための言葉なのかもしれない。
 もしそうだとしたら、槇村の中にある「冴子」とは、一体どんな人物なのだろう。


 二人が一緒に過ごした時間は長い。捜査でうまくいかなくて、冴子が落ち込んだときもある。そんなとき、槇村は何も言わず側にいてくれたものだった。にも関わらず、今は「大丈夫」と言う槇村に、冴子は狡さを感じる。
 いつまでもわかってくれない、どうしたらわかってくれる。
 槇村は、そうやって無自覚に冴子の心を掻き乱すのだった。
 そんな冴子に、槇村は着るはずだったコートを掛けた。まるで心に蓋をするように、コートは冴子の体をすっぽりと覆った。
「また絶対に来るから。今夜はこれを置いておくよ」





 閉まった扉が今夜、再び開くことはないのだろう。コートを肩に掛けたまま、冴子はリビングに戻った。動いてスルリと落ちたコートを、今度は正面から抱きしめる。そして目を閉じて、槇村のコートにそっと顔を寄せた。引き留められなかった彼を想うように、左手はギュッと袖口を掴む。

冴子_遠景

 ───もっと激しく、求めて欲しいのに。
 槇村の抜け殻は男の匂いを残すだけで、そこに熱はない。自分を狂わせるほどの熱をぶつけて欲しいのに、槇村は穏やかな空気しかくれない。
「私の強がりを、あなたは暴いてはくれないのね…」
 冷たくなったコートから、冴子の望む熱が得られるはずもない。目を開けても、抱きしめているのはコートだけだ。今夜もぶつけられなかった熱がほんの少し、透明な雫となって落ちる。

冴子_近景

 コートが受け止めた雫はそのまま布地に染み込み、そして消えていった。







Special Thanx to M.Hituji

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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