Ambivalent and Vague

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25/白い猫

守りたい、君を

 
 昼間なのに太陽もなく、外は灰色の空間が広がっている。しとしと雨が降っていて、このままでは香の気分が滅入りそうだった。気分を上げようと身に着けた白いシャツも、どうもしっくりいかない。
「こういうときには、ちょっとしたことが気分転換になるのよね」
 クローゼットから大きなシーツを取り出し、向かう先は撩の部屋だ。ここ数日、部屋の主は帰宅していない。今の二人に依頼など来てはいないから、撩自身の都合によって家を空けている、ということになる。その理由が何なのか、もう香は詮索することを止めた。答えの見つからない問いを繰り返しても、自分が疲れるだけだ。
 使われていないシーツを取り替えることなど、そもそも必要はない。だが、ルーティンワークを維持するという意味では必要だ。撩がいてもいなくても、香の営みは続いていく。その証は、自分自身で築き上げていくしかない。
 数ある中から、香は水色のシーツを選んだ。今ベッドを覆っているシーツは白だ。同じ色だと取り替えた気がしないし、かといって奥深くにある黒いシーツなど使う気にもなれない。これなら爽やかな空間が保てる、それだけの理由だ。
 取り替えるのは、ものの数分で終わった。このアパートに来た当初、自宅にはなかった大きなベッドに苦戦し、シーツをなかなかセット出来なかったことを香は覚えている。今ではホテルのベッドメイキング並みに素早く出来るようになった。それだけの年数が経っていることを示しており、同時に何をも意味してはいない。
 ───二人の間には、何もない。
 作業が終わると、香はベッドにぽすんと腰を下ろし、そのまま横たわった。シーツから漂う洗剤の香り、その向こうにある男の残り香。それは香を振り回し、そして安心させる。一緒にいるだけであんなに安心できるのに、今はその温もりが感じられない。
 ───二人の間には、何もない。
 そのはずなのに、数日会わないだけで、香の心は寂しさに溢れる。その隙間に残り香は滑り込み、そのまま香に安心をもたらしていった。





 数日ぶりに撩は、アパートへと戻ってきた。情報屋からのちょっとした頼まれごとがいつのまにか絡まり、大事になってしまった。香に伝えようにも、彼女の性格を考えると言葉を選んでしまう。そして結局、いつものように言わずに来てしまった。
 まずは疲れた身体を横たえようと、撩は寝室へと直行した。カチャリと扉を開けた撩は、その光景に目を疑う。なぜ、自分のベッドに香が横たわっているのか、その理由がわからない。
 ───二人の間には、何もない。
 そのはずなのだ。ベッドを共にする関係でもなければ、ただのビジネスパートナーとも言い切れない。そんな複雑な要素を持つ彼女を見て、
「何やっているんだ」
と撩は一人呟いた。すぐに起きない香の目の前では、その瞳は優しい。
 そっとベッドに腰掛ける。ギシリと鳴っても、香はやはり目を覚ましそうにはない。その柔らかな髪の毛を撫でれば、撩はそれだけで心地よかった。
 ───二人の間には、何もない。
 触れても起きない香を確認して、撩は体重を掛けないよう、静かに覆い被さった。白いシャツの彼女は、何かを守るように体を丸めている。その様子はさながら、猫だ。大切な何かを温めている、白い猫。撩を優しく包み込んでくれる、香という存在。
「守ってやるよ、どんなヤツからも」
 もう香を手放すという選択肢は持っていない。だが、何が二人にとってよりよいのか、そこはまだ見当が付かない。このままバディとして生きるのか、それとも男女の関係に踏み込むのか。それでも、香を危険に曝すのは誰でもない、撩自身だ。
 ───二人の間には、何もない。
 例え香が男女の関係を望んでいたとしても、今はまだスタートラインにも立っていない。スタートしなければ、まだ「何か」には間に合うかもしれない。手放せないのに、いまだに悪あがきをしようとする自分を撩は嘲笑った。
「そして、俺からも」
 想いは強くとも、一線を越える勇気がまだ撩にはない。奥底では身も心も香を求めるのに、どこかでブレーキを掛ける自分がいるのだ。このままでは、アンバランスな自分が彼女を酷くしてしまいそうだ。
 ならしばらくは、今のままで。その誓いを立てるように、撩は香の髪の毛に優しく口づけを落とした。
「じゃ、起きる前に行きますかね」
 このまま二人が顔を合わせれば、どちらも気まずくなるだろう。動ける者が立ち去ればよい、それだけだ。
 行為とは正反対の欲望を凍らせて、撩は寝室を出て行った。静かに扉が閉まり、香の静かな寝息が空間に広がる。


 そこには再び、平穏な時間が流れ始めていた。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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