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Ambivalent and Vague

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Skyscraper

Endless Game
昨日の話の続きみたいな感じ。思いついたから書いてみた。
淡々としたお話です。修正済み。


 
「最近、依頼がないわね…」
 そう溜息をつくのは、シティーハンターのパートナーである槇村香嬢である。春先は順調に書かれていたXYZも、ある時を境にパッタリと見えなくなった。一年を通して考えれば、書かれていない日の方が多いのだから、本当は珍しいことではない。しかし、お金が入ればそれだけ湯水の如く使おうとする、労働担当の金銭感覚には今も慣れないところがある。質実剛健、仕事一筋豊かな暮らし、をモットーとする香とは本来合わないタイプ、それが冴羽撩だ。そうは言っても、指一つで大金を動かせる力を持つ男と考えれば、稼いだものため込んでちまちまと使うのもいただけない。
「ま、撩は撩、ってことだもんねぇ」
 二回目の溜息をついた後、香はベッド下から箱を取り出した。そっと蓋を開ければ、そこには紺地に色鮮やかなぼかしが入った布が入っている。布は既にさまざまなサイズに切り取られ、縫い取られているものもある。
「えっと、今日はここからだから…」
 一緒に入っていたプリントを取り出し、自分が見るべき箇所を探すと、香はさっそく作業に入った。


 依頼が来なければ、自分たちにお金は入らない。生活は苦しくなり、工夫が必要になる。
 今回、しばらく依頼はないのだろう。香の勘はそう言っている。ならば、文句を言ってばかりいるのも生産性がない。悩んでも仕方のないことは一旦横に置き、自分が出来ることに移る。そんな気分転換が出来るようになったのは、ここ最近のことだ。撩が自分に黙って仕事を受けている、それが何を意味しているのかが理解できたとき、香はある意味吹っ切れたと感じている。パートナーとして信頼されていないから言わないのではない。撩の全てを知ったところで、自分が全てを光照らせるわけではない。それぐらい、冴羽撩の人生は闇深いとわかっている。
 自分が出来ることを、精一杯やる。
 香が出した結論はこれだ。せめて、撩が闇の仕事から戻ってきたときにも「おかえりなさい」と言って迎えたい。例えそれが自己満足だったとしても、撩に煙たがられたとしても、ここまで撩と過ごしてきた自分にしか出来ないことだ。香はそう思っている。


 そうは言っても、一日二十四時間、家事や睡眠時間はあるとしても、手持ち無沙汰な時間が生まれてくる。そこで思いついたのが、今取り組んでいる活動だ。一人で出来るし、作り上げたものは、世界に一つしかないオーダーメイドとなる。
「意外と簡単に作れるなんて、知らなかったわ。さすが絵梨子、何でも知ってるわね…」
 親友の名前を出して、香は笑いながら言った。つい先日会った親友は、「これ、香に合うはずだから」と言って袋を一つ、香に手渡した。中身を取り出して見ても、それが何かわからない。絵梨子がなぜそれを香に渡したのか、どう使うのか。そこからは、絵梨子の演説会および講義の数時間だった。
「そんなにあたしも器用じゃないけど…。さ、今日もやるかな」
 香はよしっと気合いを入れて、布を手に取った。





「お〜い、香ぃ」
 帰宅した撩が気配を探る。香はアパートにいないようだ。確認のため、香の部屋を確認するも、やはりいない。
 ふと、ベッドの下に置かれている箱に気がついた。取り出して蓋を開ける。
「これは…」
 撩は香が何を作っているのか、一瞬で理解した。これぐらい買えばいいのにと思いつつ、「うちの家計で何言ってるの?」と反論されそうだ。それに、香の身長にしっくりくるような商品を探すのは苦労するだろう。完成したものと香を思い浮かべると、撩はフッと笑みを浮かべた。
「ま、披露してもらう場を作りますかね」
 もしかしたらこれは、いい機会になるのかもしれない。
 今までと違うことをすることで、関係性に歪みを生み出す。歪みは調和することなく、どんどん大きくなる。そうすれば、自分たちの関係も変えられるのかもしれない。
 ここまで膠着した関係に変化をもたらすには、荒治療が必要だ。
 撩は箱をそっと戻して、香の部屋を立ち去った。





 七夕の日、今年は珍しく夜空が見えている。
 七夕の食事は、そうめんと決めていた。しかし、それで撩が足りるはずもない。だからどうしようか、と香は悩んでいた。部屋にある料理本を数冊広げて考えても、いい案は浮かばない。
 突然カチャリと扉が開いた。
「香、今日の夕メシは用意しなくていいぞ〜」
「へ?」
 やはり今日も飲みに行くというのだろうか。いや、撩だけが食べないのならば、「俺の夕飯はいらね〜」と言うはずだ。一体どういうことなのだろう。
 そう思っていると、撩が答えを出した。
「ちょっくら用意したから、食いに行こうぜ」
「あ、あぁ。うん、わかった」
「それで、だ」
「なぁに?」
 撩はしばらく黙っている。何か言いたいのはわかるのだが、何を言いたいのかが想像出来ない。香が困っていると、撩も困った表情をしだした。そのまま、ベッド下を指差す。
「それ」
「え?」
「それ着てこい。ほれ、これ使え」
 そう言って投げて寄越したのは、撩が懐に隠していた黄色い帯だ。
「文庫結びぐらいは出来るんだろ? それでいいから、着てこいよ」
 香の返事を待たないまま、撩は立ち去った。
 撩からいきなり言われ、香はびっくりしてしまった。隠れてやっていたはずなのに、いつの間に撩は知ったのだろう。
 考えているうちに、ふと香は笑みを浮かべた。
 せっかく完成させても、着る機会は実のところなかった。もし香が撩を誘っても、いつものように躱されてしまっていただろう。
 それが今回、撩は香を誘い、しかも浴衣を着ろと言う。
「何を考えているのか、よくわかんないけど…。よしっ、早く着替えようかな」
 香は着替えるべく、洋服の裾に手を掛けた。


 自分らしくもない、撩はそう思う。今までなら香から誘われ、それを茶化すのがパターンだったはずだ。
 しかし、今回はそれが出来なかった。撩自身、香の浴衣姿を見たくなったからだ。自分のいないところで誰かがその姿を目撃する、さしずめ目聡いミックあたりが目にするなど、許し難い。それならば先手必勝、自分がその機会を設ければよい。そんな簡単なことに気がついたのは、つい先日のことだ。
 少しずつ、獠は自分の態度を変えてきた。そして、ゆっくりと二人の関係が変わってきている。
 撩は悪い気はしていない。焦ってもいないし、二人のペースでやっていけばいいと思っていた。


「ねぇ、着たわよ…」
 いつの間にか、考えに没頭していたようだ。着替えた香がリビングに既に入ってきていた。
 紺地に蝶や花の柄が白抜きされ、上から色とりどりのぼかしが入っている。古典的な柄ではあるが、だからこそ香の良さを引き立てている。
 香は恥ずかしいのか、顔を伏せた。それでも撩の反応が気になるようで、上目遣いで撩をチラチラと見る。美しく恥じらう姿に、撩は今すぐにでも喰らいついてしまいたくなる。その白い首筋に赤い印を刻み込めたら、どんなに淫らなことだろう。
「ど、どうかな…」
「いいんじゃねぇの? おまえの背丈に合う浴衣なんて、そうそうないからな」
 女性の平均身長より高い香にとって、心地良く着こなせる浴衣を見つけることは難しい。絵梨子からはその点について強調され、だから作った方がいいと説得されたのだ。絵梨子は最初、オフィスで作ると言い出した。さすがにそれでは気が引けるし、借りを作るのも本意ではない。自分で作ることにして、この点も絵梨子に話を聞いていた。
 さすが自分用に測って布を用意しただけあり、着るのに苦労はしなかった。文庫結びも先日、絵梨子に習ってマスターしたばかりだった。
「じゃ、ここに座れよ」
 撩の言う通りソファに座ると、どこから用意したのか、黄色い鼻緒の下駄が置かれた。
「ちょっと履いてみ」
「うん。…よいしょっと」
 大きさは丁度いい。下駄を履き慣れていない香でも、気をつければ大丈夫そうだった。
「ちょっとこの中を歩いてみてもいい?」
 確認してから、香はそのまま歩いてみた。少し甲に痛みを感じる。
「うーん、両足とも、甲に痛みがあるかな」
「じゃ、ちょっと寄越せ」
 下駄が撩の手に戻る。鼻緒がグッグッと引き上げられ、描くアーチを大きくなった。
 「ほれ」と差し出された下駄は、もう痛みをもたらさなかった。
「大丈夫みたい」
「そうか。じゃ、それ履いていくぞ。…っと、その前に」
 再び座るよう目配せされ、香は再びソファに座る。次に撩が懐から出したのは、黒い蓋が印象深い、ぽってりとした瓶の赤いネイルだった。テーブルに蓋を緩めたネイルを置き、香の足から下駄を外す。
「そのままでもいいんだけど、ちょいと足りないんだなぁ」
「ちょ、ちょっと!」
 香の抗議など耳に入らないとばかりに、撩の作業に淀みはない。片膝をついてしゃがみこんだ撩は、持ち上げた白い足を太腿に置いた。整えられた爪に、適量を含ませたネイルブラシで色を落とす。鮮やかな赤がサッと広がり、香の身体もまた赤く染まっていった。時折チラリと見上げる撩の視線は、香をそこから動けなくする。いつものように茶化してくれればいいのに、こういうときに限って目で物を言う。香は何も言えないまま、気付けば十本の指が丁寧に赤く塗られていた。
「さぁて、行きますか」
 何事もなかったかのように、撩は香に話し掛けた。「う、うん」と香は返事するも、さっきまでの時間が効き過ぎて、すぐに立てそうにない。すぐに反応する香の姿は可愛いが、素直に口に出来ればここまで苦労はしない。
「おい…」
「うるさいっ、ちょっとぐらい待ってよ」
「時間厳守よ、香ちゃん。だからさ、ほれっ」
 自分が撩に抱きかかえられていると理解するのに、香は数十秒を要した。香はまたしても言葉を失ったのだった。





 なんで、どうしてと聞いたところで、運転している男は何も答えないだろう。車内は珍しく沈黙が続いていた。
 なじみの景色が流れていく中で香は、らしくない撩の言動に思いを馳せる。いや、今こうやっていることが、夢に思えて仕方がない。この夢はいつしか醒めるのではないかと、これまでの再演に恐れを抱く。
 車はあっという間に目的地へ到着した。連れてこられた先は、高層ビル群にあるビルの一つだ。車から降りた香に、撩は「ほれ」と腕を差し出した。意図を図りかねていると、
「下駄に慣れてねぇんだから、掴まっとけ。新宿だが、ここならいいだろ」
と何食わぬ顔だ。「一体誰なの? さっきも今も」と香は思いたくなる。だが、もしこれが夢ならば、次に目を開いたときには醒めてしまうのならば、今を思うままに過ごしてみたい。撩に全てを任せて、この時間を楽しみたい。
 ぎこちなくも、香は撩に腕を絡めた。
 カランコロンと音を響かせて、高層階専用のエレベーターに乗り込む。エレベーターが速度を上げ、香は掴んでいる手に力を込めた。そんな香を可愛く思いながら、撩はその全身を見下ろす。
 かぶりつきたくなるうなじ、裾からちらりと白く覗かせる足首。そして赤いペディキュアが清楚な印象に妖艶なアクセントを落とす。
 チンと軽快な音で到着を知らされた撩が舌打ちをすると、香が不思議そうな顔をして撩を見ている。説明を求められても言えない撩は、そのまま香を引っ張って行った。
 到着した場所は、ビルの高層階にありながら、そう思わせない佇まいだ。広がる畳廊下に唖然としていると、「こちらです」と部屋に案内された。十畳ほどの部屋には床の間があり、掛け軸の前には花が活けられている。中央の机は、二人が食べるには十分すぎるほどの大きさだった。
「うわぁ!」
 部屋の窓から広がるのは、新宿の夜景だ。アパートよりも高いそれは、いつもより遠くまで見渡せる。不夜城に相応しく、新宿の街は明るすぎる。綺麗というよりも生命力を感じさせるその光景に、香は目を奪われた。いつもはこの中に自分もいる、そのことが不思議に思えるほどだ。
「香、飲み物を決めようぜ」
 撩の声に香は振り返り、にこやかに近付いた。


 撩が予約していた特別懐石は、七月らしく、鱧を基調としたものだった。骨切りされた鱧が湯がかれ、氷の上に美しく盛られている。見た目涼やかな鱧は、喉を通りすぎるとひんやりとしていた。添えられた酢味噌も爽やかで、箸がどんどん進んだ。賀茂茄子田楽は油で蒸し焼きにされているので、茄子自体はふっくらながらも油っぽさはない。秘伝らしい炊き味噌がコクを与え、付け合わせの伏見唐辛子がピリッと味を引き締めていた。
 その後に続く炊きたてのご飯と赤出汁の味噌汁を口にすると、もう香は満足だった。
「まだデザートがあるんだぞ」
「あ、そっか」
 季節の果物と一緒に出されたのは、この店特製のくずきりだと言う。太く切られた葛を黒蜜に絡めて口へ運べば、弾力の後にスッと葛が消えていく。
「おいしいっ」
 そうやって笑顔で食べる香を、撩は優しく見つめていた。


 料理が終わり、茶をつぎ足した仲居にしばらく席を外すよう撩は言った。
「どうしたの? というより、今日は一体、どうしたの?」
「うん? たまにはこんなのもいいだろ」
「そうだけど…」
「浴衣姿を見てみたいな〜と。そう思ったんだ」
「それなら、家でも良かったじゃない。着るのなら、どこでも…」
 嬉しいはずなのに、その嬉しさが頂点に辿り着く直前、不安や罪悪感とすり替わってしまう。嬉しさに委ねられなくなり、強がってしまう。それがこれまでの香だった。夢みたいに幸せだと感じていても、この感情に陥りがちだ。
「嫌だったか?」
「だって、こんなことなかったし…」
「まぁな」
 香のそのような性格を助長したのは自分だ、と撩もわかっている。香が素直に感じ取っていることを揶揄し続ければ、次に何がもたらさせるのか、学習してしまうだろう。
 その連鎖を断ち切る必要があるのだ、彼女の身も心も自分のものとするためには。
「なんつーか、この前の礼っていうか」
「この前?」
 この前と言われても、香にはさっぱり思い浮かばない。考えられるとすれば、裏の仕事から帰ってきたらしい撩を出迎えたことはあったが、それは特別なことではなかった。
「ま、こんな俺に手を伸ばしてくれるのは、おまえぐらいだってことで」
「はぁ? よくわかんないの〜」
 ケタケタと香が笑うと、撩も微笑んだ。茶を一口飲んだ撩が立ち上がり、香の背中へと回る。
「撩?」
 撩の手は優しく香の髪を撫でる。その温もりが、リズムが本当に心地良い。撩に身体を預けるようにもたれかかると、その逞しい胸で香を受け止めた。
「なぁ、香」
「なぁに、撩」
「ゲーム、始めちゃってもいい?」
「ゲーム?」
 この場でなんのゲームをして遊ぼうというのか、香にはわからない。巷で流行っているゲームでもカードゲームでも、撩とやるなら楽しいだろうとわかっているが、突拍子なく思える発言にどう返していいのか。撩の顔を見つめても、そこから答えは引き出せなかった。
「何のゲームかわかんないよ、撩」
「そうだな、わからないよな」
「もうっ、バカにしてる!」
 香は頬をぷうっと膨らませる。少し機嫌を損ねてしまったようだ。
「また、浴衣着ろよ。今度はどんなゲームか教えてやる」
「なんだかわからないけど…。また浴衣を着られるのなら、いいよ」
 機嫌が戻ってにこやかな香に対して、身八つ口から不埒な手が滑り込むことなど、今は言わない。だが、次は逃がすつもりはない。


 やっとゲームのスタートだ。その合図ぐらいは必要なのではないか、と撩は思う。
「おまえがそんな風に俺を甘やかすから、始めちまうんだよ」
 そう言った唇が向かった先は、香の唇。
 すぐに味わい貪るのが勿体なくて、今は甘さと熱さだけを掠めとった。
 
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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

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