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Ambivalent and Vague

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Anemone 3

Anemone.png
翳りゆく夏

 
 歌舞伎町は、そろそろ二十三時を迎えようというところだ。飲みから帰る者、二軒目に行こうと探す者、そんな人間で溢れている。街の雰囲気に慣れず、挙動不審に歩いている方が目立つし、声もかかりやすい。街のしきたりなどわからなくても堂々としていれば、いつの間にか、街の風景に同化してしまえる。
 女が一人、街を歩いていた。肩までの黒髪はストレートで、目深に帽子を被っている。大きめのつばは、女の顔を隠していた。小さなハンドバッグが、肩から振り子のように揺れている。パンツスタイルで堂々と歩く姿は、街の景色へ確かに溶け込んでいた。
 ある路地裏に入る。狭く雑然としたそこは、普通なら人が入る場所ではない。女はそこを、迷いなく進む。やがて奥に一つ、入口がぽっかりと開いていた。廊下と階段を照らす蛍光灯はチカチカとしている。足元が見えなくなるのも構わず、女は階段を下りていった。地下の廊下には、店舗が営業している雰囲気はない。音もなく、ひっそりとしている。
 廊下には、いくつか扉が並んでいる。そのうちの一つを開けると、落とされた照明が女を出迎えた。ペイズリー柄が描かれた濃緑のカーテンで中が仕切られ、まだ奥が見えない。入って正面にあるカウンターには、店主らしき男が読書をしていた。チラリと女を見て、また本に視線を戻す。
「ここは、おまえさんのような人間が来るところじゃないよ。帰りな」
 店主がぽつりと呟いた。微かに微笑んだ女は、ハンドバッグから封筒を取り出し、カウンターに置く。
「ここ、暫く自由に使わせてもらえるかしら。これで足りるでしょう?」
 店主がチラリと見ると、封筒は厚みを持っている。こんな店に金を積んでくるなんて、どんな女なのだろうか、と顔を見上げた。
 そこまでだった。
 女はまるで支配者のような目をしていて、反論を許さない。見つめられた店主は、「はい」以外の答えを失った。
 カーテンに隠されていた奥は、さまざまな物が置いてあった。棚の一角にはウィッグ、その横にはメイク用品、違う場所には洋服まで並べられている。
 女は金髪ロングのウィッグを選んだ。部屋に置いてある鏡の前で帽子を取ると、次にその黒髪まで床に投げ捨てる。女はどんどん変身し、来たときとは違う印象の人物となった。ラップドレスにヒールを履いたその姿は、色気を醸し出している。
「やっぱり、これがしっくりいくわ」
 そう言った女は、鏡に向かって満足そうに微笑んだ。それまで身に着けていたものを袋に入れ、奥から出る。
「また来る。荷物は、私が来たら出すように」
 袋を渡しながら、女は言い放った。従者のように、店主は「はい」と頷いた。
 女はその姿のまま、建物を後にする。同じ道を戻り、狭い場所から出れば、そこは繁華街の中心地だ。鮮やかにもけばけばしい光が、女を照らしている。
「こんなに近くにいたってわからない。それを知ったら、どうなるのかしらね」
 挑戦的な微笑みを浮かべ、女は青いサングラスをそっとかけた。





 もうすぐ日付が変わるという頃、麗香は隣家の地下に足を踏み入れていた。
「勝手に持ち出したとわかったら、香さんに何を言われるかわからないわ」
 ここのところ抱えていた案件がやっと終わった。最後は銃を持っていた方が依頼も終わらせやすいだろうと思っていたら、銃弾の在庫が残り少ないことに気がついた。今から補充してもいいが、依頼の最後に間に合うかどうかがわからない。最終手段として、冴羽アパートから同じ銃弾を拝借したのだった。
「ちゃんと返すから、バレないようにしなくちゃ」
 麗香は懐中電灯を持ったまま、足音を立てないように移動する。帰宅途中の聞き込みで、撩は繁華街に出ていると聞いている。アパートの明かりはなく、香は寝ているものだと判断した。撩がいれば気配に気付かれるかもしれないが、香だったら大丈夫だろう。そのぐらいの自信は、まだ麗香の中に潜んでいた。
「もうちょっと」
 目的の棚までもう少しというところで、麗香は何かにぶつかった。「キャッ」と言って尻もちをつき、懐中電灯が床に転がる。電灯は違う方向を照らし、目の前がよく見えなかった。
「なんなのよ、もうっ。こんなところに荷物?」
 そう言って、麗香が立ち上がる。荷物と思われた黒い物体に手を伸ばすと、それは突然動き出した。
「えっ、なに?」
 麗香は瞬時に身体を強ばらせた。誰かがここにいる。暗闇に目が慣れてくれば、その黒い人影は長い髪であることがわかった。アパートの住人とは違うシルエットに、麗香は荷物を置いて身構えた。
「あなた、誰?」
 尋ねるが、長髪の影は何も言わない。麗香の勘は危険だと告げるも、このままには出来ないという正義感が、逃亡を許さない。
「なぜ、ここにいるの?」
 そう言うと、影は鼻で笑ったようだった。
「その言葉、そっくりそのまま返そうかしら」
 低く威圧的な声は、やはり香のものではない。「それでは一体…」と考えていると、その隙をついて影が襲いかかってきた。ピュッという音で、麗香は影がナイフを持っていることを知る。その動きは鋭く、さすがの麗香も防戦一方だった。どう考えても不利な中、麗香は感覚を研ぎ澄ませた。
 「ここだ!」というタイミングで手を伸ばす。麗香が掴んだのは、ナイフを振り下ろす女の腕だ。そのまま横へ振り払えば、手から離れたナイフが音を立てて床を滑っていった。武器さえなければ、麗香にだって体術の心得はある。改めて構えを取ろうとすると、それよりも前に女が麗香の背後へ回った。スピードが速く、さすがの麗香も対処できない。
 「しまった!」と思ったときには、腕を首に回されていた。力が込められ、どんどん締め上げられていく。手足をバタバタ動かしてみるも、何も効果はない。意識が落ちていく感覚を味わいながら、麗香は悔しくて唇を噛んだ。


「麗香。しっかりしろ、麗香!」
 ゆっくりと目を開けると、視界は明るい。誰かが自分の名前を呼んでいる。周囲がはっきりしてくれば、その声の主は撩だということに麗香は気が付いた。麗香は床に寝かされ、心配そうな目をした撩が顔をのぞき込んでいる。
「撩…」
「おまえ、人んちで何やってんだよ。こんなとこで寝ても、いいことねぇぞ」
 言葉はふざけているが、撩の表情はどこか真剣だ。と、麗香は肝心なことを思い出す。どうして自分がこんなことになってしまったのか、その原因となった存在についてだ。
「あれ、彼女、は…」
「彼女?」
 撩が帰宅したとき、地下の射撃場に二つの気配を感じた。一つは麗香だとすぐわかったが、もう一つがわからない。激しく動く気配にただならぬ事態を感じた撩は、そのまま地下に向かった。射撃場の扉を開けようとした瞬間、不明だった気配が消えていく。電気を付けた撩が見つけたのは、棚の間に倒れ込んだ麗香の姿だった。
「そう、借りたものを返そうと思ってね。そっと来てみたら、先客がいたのよ」
「まぁた勝手に。で、どんなヤツか覚えてるか?」
 麗香はゆっくりと頭を横に振った。
「暗闇の中だったから、長髪の女っていうことしか」
「長髪の女?」
「そう。シルエットで何とかわかったし、声が女だったから」
 麗香ほどの腕を持つ人間が、こうもたやすくやられている。しかも、遠くから近づく撩の気配を感じ取って逃走するとは、見事だとしか言えない。
「その女、どこら辺にいたんだ?」
「そこよ。その戸棚の前でうずくまっていたわ。…あら、その下の扉、少し開いているわね」
 麗香が指さした扉は、確かに扉が指一本分開いていた。
 麗香がゆっくりと起きあがる。頭を振って、自分の調子を確かめた。見上げると、撩が険しい表情をしている。
「撩?」
 麗香の呼びかけは耳に入らなかったらしく、撩は麗香に背を向けてしゃがみこんだ。麗香が示した扉を開けると、銃を入れたケース類が崩れていた。
 撩は、商売道具を雑に扱わない。しっかり手入れされ、いつでもすぐ使えるように、撩のルールに沿って並べられている。雑然としたその場所は、女がそこで何かを探していた可能性を示している。
 撩はある確信を持って、黒く四角いケースを取り出した。立ち上がって開けると、撩は目を見開いた。なぜなら、そこに入っているはずのものが無かったからだ。
「何が起こっているんだ…」
 撩は誰に言うでもなく呟いた。そんな撩を麗香が複雑な表情で見つめていたが、やはり撩は気が付かなかった。





 その数時間前、撩は繁華街を抜け出して、小さな公園のベンチに座っていた。夜空を見ながら紫煙をくゆらせていると、足音が近づいてくる。
「おっせぇよ」
「何よ、それが人に物を頼んだ人間の態度なの?」
「おまえこそ、そこはどうなんだよっ」
 茶封筒を持った冴子は、即座に言い返した。二人とも、そこはお互い様だとわかっているが、今日の撩に落ち着きはない。撩は携帯灰皿に吸い殻を入れ、
「で、どうなんだよ」
と言った。その声色には、どこか焦りを含んでいた。
「電話で言われたことは、出来る限り調べてみたわ。あの組織が復活しているという話はないわね。頭がいなくなった組織はそのまま崩壊、その後何回か、復活を試みた人間はいたけれど」
 冴子は封筒を撩へ手渡した。中から取りだしたレポートに、撩は急いで目を通す。
「幹部レベルで出所した人間は?」
「それも調べたんだけど、あれほどの組織よ。どんなに模範囚をやっても、一生出てくることはないわね」
「捕まってない幹部は?」
 矢継ぎ早に質問してくる撩に、さすがの冴子も違和感を持った。理由を告げられないままの依頼に、冴子もいい気はしない。
「世界各地にどれだけいたというの。全員の逮捕は難しいわよ。…それが撩、あなたとどんな関係があるのかしら」
 冴子に逆に質問され、撩は言葉に詰まった。軽く俯き、冴子から視線を逸らす。
 もたらされる情報で全てが解決するとは思っていなかったが、それでも糸口は掴めるのではないかと期待していた。どうやら警察経由の情報では、考えていた線はないと判断していい。このことをどこまで冴子に言うべきか、撩は迷っていた。出来ることなら、隠密裏に済ませたいところだったからだ。
 黙り込んだ撩を見て、「何かが起こっている」と冴子の勘が働く。撩がここまで用意周到になるのは、他の誰でもない、香が関係するときだ。
「香さん、かしら?」
 ベンチから投げ出された足がピクリと動く。このやりとりで香に辿りつくのはさすがだ、と撩は思った。
「あぁ、そうだ」
「あの組織と香さん…。この情報の限りでは、その線はないわね」
 自分と同じ判断をした冴子を、撩は再び見た。
「教授の情報網を頼るしかない、ってとこかしら」
「そうだな。そっちは既に頼んである」
 撩は両腕をベンチの背にだらりと掛け、夜空を見上げて息を吐いた。
「何があったの?」
 冴子は単刀直入に斬り込んだ。撩はその体勢のまま、しばらく動けなかった。





 同じ夜。既に日付は変わり、午前様となっている。
 夕方、急にクライエントから呼び出されたミックは、ぼやきながら帰宅の途についていた。あまりに長時間拘束されすぎて、繁華街に行く気力もない。一分でも早く帰宅して横になりたいこともあり、つい早足になっていた。
「いや〜、お仕事で稼ぐって、大変だね」
 スイーパーの仕事は、一回で大金が動く。ミックはそれを手に入れていた側だ。それでも、今のライターとしての自分を嫌いではない。
 気分転換の一服をしようと、ミックは懐に手を差し入れる。ミックの手は、いまだ取れない手袋のままだ。その手でタバコを挟んでいると、ふと前方から誰かが走ってくるのがわかった。
「あの走り方は、カオリかな」
 元気よく弾けるように走ると思えば、鹿のようにしなやかな動きも垣間見える。香はそのような走り方をしていた。
 しかし、どうも姿形が違う。見間違いかと目を擦るも、やはり動きのシルエットは香だった。果たして、こんな時間に香が街中を走るのだろうか。シティーハンターが依頼を請けていると、ミックは聞いていない。
 黒い影が近付き、やはりその姿が香ではないと気がついた。走ってきた女は長髪で、顔を大きく覆うようにサングラスをしている。
 女はミックに目もくれず、駆け足で向かってくる。金髪が軽やかに宙を舞っていた。
 すれ違うとき、ミックは視線だけをチラリと横にやった。耳についたゴールドの丸いイヤリングが振り子のように動き、鈍く輝く。
 ヒールの音が遠くなる。ミックが振り返ると、女の姿は小さくなり、やがて夜に消えていった。走っていった方角は歌舞伎町だ。
「お気に入りのホストに入れあげて急いでる、ってわけでもなさそうだしな」
 指に挟んだタバコを銜え、ライターを近づけた。カチンと金属音が鳴り、ミックの顔がライターの火で照らされる。タバコに火が移ると、滑らかな動きでライターの蓋を閉め、そのままズボンのポケットに入れた。手はそのまま、ポケットから動かない。
 タバコがじりじりと燃え、尖端が灰と化す。タバコを吸い込むことも口から離すこともしないまま、ミックはそのままの姿勢で考え込んでいた。
 今の出来事をどのように意味づければいいのか、それがうまくまとまらないでいる。どうやら、ある事実だけは避けようがないらしい。ただ、その事実が発生していることを耳にしていないし、兆しを目にしてもいない。ミックが考えをまとめるためには、大事なピースがない。そのことだけはわかった。
「こりゃあ、朝一でリョウのところだな」
 ミックの目は、スイーパーのそれを思わせるように鋭かった。





 翌朝、ミックは冴羽アパートを訪れた。玄関で出迎えたのは香だ。
「グッモーニン、カオリ。今日もキュートだね」
「もうっ、ミックったら」
 香は怒るでもなく、苦笑いをしながら答えた。
 最初のうちは、ミックに言われて顔を赤らめていた香も、何回か言われれば慣れが生じてくる。今では、そう言ってくれるミックに対して嬉しさはありながら、なるべく言葉を軽く受け取るようにしていた。
「今日はどんな用事かしら、ミック」
 住んでいるのが向かいのビルだけあって、ミックがこのアパートに姿を見せることは、珍しいことではない。撩に用事があるとき、地方取材でのお土産を渡しに来るときなど、さまざまだ。今日のミックは手ぶらだった。
「リョウは、まだ寝てるかな」
「まだ起こしに行ってないから、わからないな〜。用事があるならミック、起こしてくれない?」
 すると、ミックは困った表情になった。階上の男が何を求めているのか、わかるからこそ気が重くなる。
「ボクが起こしに行くのか。やるのはいいけど、機嫌悪くなりそうだな」
「そんなことないわよ。私が起こしに行ったって同じだもの。じゃ、お願いね」
 そこまで言われてしまったら、断ることはできない。むしろ、話したい内容からすれば、好都合なのかもしれない。
 ミックは撩に聞く内容を整理しながら、寝室への階段を上がっていった。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

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