Ambivalent and Vague

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Anemone 4

Anemone.png
その空白を支配せし者

 
 窓のブラインドからは、朝の光が差し込んでいる。いくつもの筋となって撩の身体へと降り注ぎ、少しずつ覚醒へと導いていた。それでも今朝の撩は、まだ起きようとはしない。夜の出来事を整理しようと思っても、何かが思考の邪魔をして、まとめることが出来なかった。そして、何の結論も出さないまま、眠りに就いてしまったのだった。
 ふと、部屋へ近付いてくる一つの気配。耳を澄ませると、香の足音ではない。
 撩は一気に覚醒し、息を潜めて次の瞬間を待った。ベッドに横たわったまま、枕下に潜ませたコルトパイソンに手を伸ばす。

 緊張の一瞬。

 それは、すぐに解けた。気配が誰なのか、すぐにわかったからだ。ドアがガチャリと開き、呑気な声が撩の耳に入る。
「入るぞ〜。…リョウ、おまえってば、相変わらずだなぁ」
 部屋に入ってきたミックは、少々呆れ顔だ。寝室内、床には衣服が散らかり、撩は裸で寝ていたのだ。床の障害物をたやすく避けて、ミックはベッド脇へと辿り着いた。
 アメリカ時代にパートナーとして組んでいたミックにとっては見慣れた光景だが、ここで一つの疑問が浮かび上がる。ミックは少々気難しい顔をして、腕を組んだまま唸り始めた。
「うーん」
「なんだよ、ミック。朝っぱらから、そんな面を見せるんじゃねぇ」
 唸っているミックを見て、撩は眉をひそめた。髪の毛を掻き乱し、イライラを隠さない。
 いつもならば香がやって来て、賑やかに撩を起こしていく。ハンマーを喰らうことはあっても、朝を告げる香の声で起きるのは、撩にとって実は心地良い。そんな日課を邪魔されたようで、撩は内心ムッとしていた。
「そんなことより、撩。真剣に話したいことがある」
「なんだよ」
 ミックの口調は真剣なのに、目は少し笑っているようだ。真剣とは言いながら、どうもそれをそのまま受け取ってはいけない感じがある。話半分で聞こうと、撩はベッド上で起きあがり、ヘッドボードに置いてあるタバコを一本取ろうとした。
「おまえ…。毎日そんな格好をカオリに見せてるのか? もしかして、露出がお好みだったり〜ぃ」
「はああああ?」
 全く想像していなかったことを言われ、撩はずっこけた。指先で掴んでいたタバコがポロリと落ち、白いシーツに転がってゆく。自分の指先からゆっくりとミックへと顔を向けると、撩は大きく息を吸い込んだ。
「んなわけねぇ! 俺はずっとこうだったろうが、ミック!!」
 距離が近い二人にとっては大き過ぎる声で撩が叫んだ。一体何を言い出すと思ったら、と撩はさらにイライラする。
 やりとりの中、ミックは一つ気にかかる。撩の反応が単純すぎるのだ。いつもの撩ならば、香について心ない言葉を並べ、さも自分は香のことを考えていないと見せかけていた。しかし、今回の返事は香のことには一切触れず、ミックと撩の関係だけで説明されていた。そしてそもそも、あの撩がイライラしている。
 ───やはり、何かが起こっているんだな。
 そう思ったミックは、組んでいた腕をゆっくり外し、撩を真っ直ぐに見た。真剣な目をしたミックに、今度は撩から声を掛けた。
「なんだよ、ミック」
「カオリのことだ。…昨日の夜はカオリ、家にいなかったんだろ?」
 断言するミックに、撩は怪訝な顔をした。
「まぁた、香にちょっかい出そうとしてるのか? 物好きだな」
 いつものように茶化そうとする撩に対し、ミックは視線を鋭くさせた。
「そうじゃない。最近、カオリには変わったことがあるんじゃないか?」
 ミックと同じく、撩の視線も鋭くなる。二人とも、瞬時にスイーパーと化していた。沈黙が続く後ろで、お互いの思惑が交錯する。出来れば隠密裏に事態を収束させたい撩は、このミックの問いに答えるべきかどうか、悩んでいた。ミックの鋭い視線は撩の逃げを許さず、何かしらを言わなければいけない雰囲気だ。
 緊張の糸はどんどんと張り詰めてゆく。


 糸を先に緩めたのは、撩だった。ここはミックにも知らせておくべきだ、そう思ったからだ。
「あぁ、あるな」
「おまえ、どこまで把握してる?」
 撩は自分が知りうる限りのことをミックに伝えた。鋭い目は驚きに変わり、声色に焦りが混じった。
「ちょっと待てよ、おまえはそれで、何もしてないってのか?」
「本当にそうなのか、保証がない」
「そんなの、確認すればいいだろ」
「香をずっと見張っているわけにはいかないんだぞ。どうやって確認しろってんだ」
 半ば投げやりに撩が言うと、ミックは「ははーん」となった。
「おまえ、確認したくないんだろ。それが真実なんだって、そう思いたくない。見なければ、おまえの中では無かったことにできるもんな」
「そんなんじゃねぇ」
「なら、真実を突きつけてやる。耳をかっぽじって、よーく聞けよ」
 ミックは撩に夜中の出来事を伝えた。金髪の女とすれ違った、ただそれだけの出来事、ではなかった。実は、そう言い切れることではなかったのだ。
 ───ミックの言うことが本当ならば、何かしら考えなくてはならない。
 撩がもっと話そうという姿勢になり、ミックはベッドに腰を下ろした。じっくり話をするためだ。


「で、同じ夜に何かあったのか?」
「麗香が地下の射撃場で襲われた。相手は女、あの麗香がやられるほどの腕前らしい」
「おまえは見なかったのか?」
「俺が行ったときには、麗香のビルに向かった後だった」
 ミックが頭の中に麗香を描き出す。冴子の妹で女探偵。大がかりな仕事も一人でやってのけるほどの腕前だ。その麗香をいなし、撩の気配を察知して逃げられるとあっては、手慣れているとしか思えない。ミックは「ふぅ」と息を吐いて、ぼそりと呟いた。
「ずいぶんと訓練されてるんだな。…それぐらい、出来そう?」
 ミックが何を言いたいのか、撩はすぐわかった。少し顔を歪ませて答える。
「あぁ、普段はあいつの優しさがリミッターになっているが、迷いがなければいけるだろう」
「同感」
 夜の出来事に共通理解が生まれたことで、二人の間には重苦しい空気が流れていた。


 ふと、撩がぽつりと呟く。
「このままいれば、刺激しなければ。どうにかなるかもしれない」
 今回の出来事が自然と決着を見せること。それは撩の中の理想だ。そうあって欲しいと願うから、これまで撩からは、何もアクションを起こせなかったのだ。そんな撩の理想に、ミックは異を唱える。
「いや、無理だ。彼女は表に出て活動を始めている。一度破れた殻が戻るはずはない」
「そんなの、わからねぇだろ!」
 自分の理想を否定されて、撩はカッとなった。頭の片隅では、ミックの方が現実味を帯びているとわかっているのに、どうしてもそれを認めたくはなかった。
「まったく、カオリのことになると臆病になる。このまま時が過ぎるのを待って、カオリが消えたらどうするんだ?」
「それは…」
 予想もしていなかった意見に、撩は戸惑いを覚えた。彼女が肥大化しても、香は変わらずにそのまま、そうだと疑わなかった。だが、息を吹き込みすぎた風船は、いつかは破裂する。一つの身体を共有するには限界があるはずだ。
「何もしなかった自分をどうする? おまえなら、自分を許せないだろうな」
 何もしないで、もしミックの言うとおりになったら。そう考えると身体が強ばり、撩は目をギュッと閉じた。暗い瞼には、香が鮮やかに浮かび上がる。その姿が見せる変化に耐えきれず、撩は目を開いた。
「彼女と話したって、それが彼女の存在を強めることにはならないはずだ。まずは話すことが必要じゃないか?」
「話すって、何をだよ」
「はぁ、それも思いつかないほど、うろたえているってことかよ」
 わからないことがあれば、探りを入れて明確にしていく。不明な点が命取りになるスイーパーにとって、その姿勢は基本だったはずだ。しかし今の撩は、自然とどうにか解決して欲しいし、接触すれば「彼女」を刺激して固定化させてしまうと恐れている。どうにも身動きが取れないようだ。ミックはそう判断した。
「わかったよ」
「なにがだよ」
「オレが話す。その方が、冷静に対話できるはずだ」
 避けては通れないことだが、撩がやらなければならないわけでもない。ミックが名乗りを上げると、撩は目を見開いた。
「いや、これは俺と香の問題…」
「そうかもしれないが、今のおまえには無理だ。オレが事実を確かめる。それを待ってろ」
「だが…」
「リョウ、いいかげん、腹をくくれよ。いつまで逃げてるつもりなんだ」
 そう言って、ミックは撩を指差した。今度はミックがイライラしたのだ。
 ミックにとって、香が大切な存在なのは変わらない。それをこんな状態にし、そして何もやろうとしない男の腑抜け具合を情けなく思ってしまう。かつてビルの屋上で撩の苦悩を耳にはしたが、あれから二人の間には時間も会話も積み重ねられている。もう、言い訳などは聞きたくない。
「逃げてる?」
「カオリに対して、ずっとそうだ。だから、こんなことになったんじゃねぇの?」
「俺は何もしてない」
 なおも逃げようとする撩に、ミックは自分の手袋を両方、抜き取って投げつけた。勢いよく撩にぶつかった手袋は、そのままスルリと落ちていく。
「こんな手じゃなければ、オレがカオリをこの腕で守ってるさ! だが、今それができるのはリョウ、おまえだけだろっ!!」
 ミックは自分の手を見ながら、大声で言った。いつもスマートに立ち振る舞おうとしているミックが、ここまで感情をあらわにすることも珍しい。ミックにとって、香とはそういう存在なのだと改めて知り、撩は胸がチクリと痛む。だが、そんなミックに感情をぶつけられ、心は逆に落ち着きを見せていた。
「ミック…」
「だから、今はしなくていい。おまえはオレの仕事を待ってろ。いいな!」
「あぁ、そうだな。頼む」
「決着をつけるのは、おまえとカオリだ。それだけは忘れるなよ」
「わかってるよ」
 自分が出ては、まだ冷静になれそうにない。ここはミックに任せ、その結果でまた考えよう。その想いを込めた返事は、ミックにも伝わったようだった。フッと穏やかな表情になり、自分の手を見たときには切ない表情となっていた。撩は自分に落ちた手袋を整えてから渡すと、受け取ったミックはしゅるりとはめて、そのまま部屋を立ち去ろうとする。扉のところで、ミックは撩に背中を向けたまま右手を上げた。「今回は任せろ」、ミックの返事を撩もまた受け取っていたのだった。
 ミックに感謝しながら、撩は次を見据えて、室内の受話器を取り上げた。
「もしもし、俺です。この前お願いしていた件ですが…」





 朝食の仕度が終わった香は、リビングのソファに座って雑誌を読んでいた。トンッと音がした方を見ると、階上から降りてくる姿が見える。
「あら、ミック。撩は起きたの? 随分、時間がかかってたし、賑やかだったけど」
 香は興味津々そうな、いたずらっぽい表情をして言った。
「あぁ。ちょっと話をしたからね」
「もしかして、また二人で飲みに行くとかいう話? それだったら勘弁してよね、また依頼がない日々なんだから」
「あはは、カオリは手厳しいね」
「まったく、この二人は…」
 言葉としては呆れながら、香の笑みは優しい。二人で飲む時間も必要だと思っているからこその表情だ。つられて、ミックも笑顔になる。
 ふとミックは、突然思いついたかのようにポンと手を打った。
「ところで、カオリ」
「なに、ミック」
「カオリは昨日の夜、ぐっすり眠れたのかい?」
 こんな真夏で暑いからね、と言葉を付け足して、ミックは香に尋ねた。香は少しだけ驚いた表情をしたが、視線を上へとさまよわせ、昨夜のことを思い出す。
「もちろん。撩が出掛けると聞いていたから、早く寝ちゃったわよ。特に見たいテレビ番組もなかったしね」
「そう。何時頃に寝たの?」
「えーと、日付が変わる前には寝たけど。なに、いきなりそんなことを聞いて、どうしたの?」
「ボクが帰ってきたころ、もうカオリの部屋の電気は消えていたからさ。どうなのかな、と思ってね」
 香はミックの質問に隠された意図などわからず、聞かれたことを答えている。昨日の夜は、香にとってはどうだったのか。ミックが確認したいのはそこだった。
「あ、そうだったんだ。仕事?」
「そうだよ。いきなり呼び出されて、ずっと缶詰でインタビューだよ」
 やれやれ、とミックは両手を上げたポーズを取った。そんなミックを、香は眩しそうに見ている。
「ウィークリーニュース特派員のお仕事は大変ね」
 同じ仕事をしていたミックからすれば、スイーパーの方が大変な部分もあるとわかっている。その大変さが「命がけ」のこともあり、とてもではないが、特派員の仕事と天秤で比べられるものではない。しかし、全てを分け隔て無く見る素直さ、これが香の特徴であり、強みだ。香の言葉が心からのものだとわかるから、ミックも裏など考えずに答えることが出来る。
「いや、たまたまだよ。このまとめが終われば、またいつものようにゆったりさ」
「うちよりは忙しいはずよ。ミック、体調を崩さないようにね」
「サンキュー、カオリ。その言葉だけで、また頑張れるよ」
「もう、調子いいんだからっ」
 コーヒーどう?という香からの誘いを断り、ミックはアパートを出た。アパートを見上げ、さっきまで居た場所に強い視線を向ける。
「さ、彼女はどう出るかな」
 これからのことを楽しむかのように、ミックはニヤリとした。





 一週間後、撩と香の二人が短い依頼を終えた夜、ミックはある場所に潜んでいた。
 これまでの情報を合わせ、彼女はこの歌舞伎町のどこかを使っている、そうミックは踏んでいた。
 歌舞伎町にもテリトリーが存在し、密やかにシマ争いが続いている。そんな中、いくつかのポイントは緩衝地帯となり、そこでひっそりと営業している人間も少なくはない。その中に一軒、ミックがひっかかる店舗があった。名前などなく、ビルの地下でやっているのだが、その店で用意されているものに興味を持った。変装をするために必要な物と場所、それらを提供していたのだ。
 店に乗り込んで店主に聞くことも可能だった。それをしなかったのは、出来れば彼女を今のままで泳がせておきたかったからだ。店主の態度が変わり、別の居場所を求められるのは、本意ではない。であれば、店に入るであろう彼女を張り込みするしかなかった。
 依頼中の香に変化はない。撩からはそう聞いているし、今回の依頼でも同様だった。ならば、依頼が終わった今日明日にでも動きがあるだろう。ミックはそう予想していた。
「ビンゴだな」
 パンツスタイルで颯爽と歩く姿が見えてくる。目深に被った帽子で顔は見えないが、ミックにはそれが誰であるのかがわかっていた。彼女は周囲を窺うことなく、堂々と路地裏を抜け、ぽっかりと空いたビルの入り口に吸い込まれていった。
「さて、どんな姿になってくるかな。…スカートかねぇ」
 すれ違ったときのことを思い出し、ミックはグフフと笑う。膝上のラップドレスは足を美しく見せ、ヒールはその足と一体化していた。端的に言えば美しいと表現されるその姿にまた会えるかもしれない。今回の目的を忘れてはいないが、「眼福」とミックが思ったのは確かだ。
 そんなことを考えていると、また女が入口から出てきた。青いラップドレスを纏った女性は、ヒールの履きこなしが鮮やかで、音もない。やはり今回も金髪で、青いサングラスをしている。一瞬見えた表情はやや挑戦的で、口元は微笑んでいた。
「カオリじゃ出来ない表情だな。いや、カオリが身につけたら、リョウの心がもたないか」
 今はここにいない男を思いながら、ミックは苦笑いをした。


 女は歌舞伎町を歩いていく。店をどんどんと通り過ぎ、既に歌舞伎町の外れだ。街灯しかないそこに、人が住んでいる気配は少ない。目の前には廃ビルがそびえ立ち、女はその前で立ち止まった。ミックはすかさず、近くの壁に隠れる。
 すると、急に女が振り返った。手に持った小さなライトで、ある場所を迷わず照らす。ミックの場所を的確に照らした女の手腕に、ミックはヒュウと口笛を吹いた。
「いつ襲ってくるのかと思っていたのに」
 女の低い声は怒るでもなく、隠れているミックに言った。まいったと両手を上げ、壁の後ろから姿を現した。
「ソーリー。キミの美しさに見とれていたんでね」
「そうかしら。私に用事があるのでしょう?」
「もちろん。だから、こんなところまで付いてきたんだ」
 二人の距離は、お互い懐に潜り込んで倒すには遠い。ただ、二人は初めて対峙するにも関わらず、女からは緊張が感じられない。悠然とそこに立っていて、ミックの出方を窺っている。その足元に傅きたくなるような存在、彼女はまさに女王だった。
 どのように話を斬り込めばいいのか、ミックは頭を回転させる。恐らく、女はここから逃げることはないだろう。逃げようとするのならば、そもそも女から声を掛けてはいない。ミックが何を目的に尾行していたのか、それがわかっているがゆえの言動だったはずだ。
 そこまでわかっているのであれば、直接本人に聞いてみればいい。
「キミは、何をしようとしているんだ?」
「あら…。私自身は何もしないわ。何も、ね」
「なら、なぜその身体を使う? 何もしないのならば、静かに眠っていればよかっただろう」
「意味がわからないわね。私は私、他の何者でもないわ」
 女は確かにミックの問いに答えている。しかし、どこかはぐらかされているようで、ミックはもっと直接的に聞くことにした。一呼吸置いて、また話し出す。
「いや、その身体はキミのものじゃない。カオリのものだ」
「カオリ? 知らないわね」
「その身体はカオリだ。でも、今ボクが話しているキミは違う」
「じゃあ、証拠は? 私がカオリだという」
「キミはカオリじゃない。その身体がカオリなんだ」
 女と話していると、肝心な部分が曖昧になってくる。目の前にいるのは、確かに香の身体だ。しかし、それを操っている意識は別人で、香とは重ならない。自分でもこうなのだから、撩ならもっと混乱するのだろう。ミックはそう思った。
 女は髪をかき上げ、サラサラとした金髪が暗闇に舞った。丸いイヤリングは先日と変わらず、鈍い光を放っている。
「なら、証拠を示してもらえる?」
「証拠ならここにある」
 ミックは一歩、二歩と歩みを進めた。あともう少し、手を伸ばせば触れられる距離で、ミックは女の耳を指差した。
「いくら変装の名人でも、忘れやすい部位があるんだ。指紋には気を遣うのにね」
「……」
「耳だって、個人を特定するのに十分な証拠さ。その耳は、カオリだ」
 ミックが断言すると、女はフッと笑みを浮かべた。そこを指摘されては仕方がないと、ミックの言い分を認めていたのだ。
「さすがはミック・エンジェル、ってとこかしら」
「ボクのことを知っているのかい?」
「もちろん、あたしは私、ですもの」
「なら、教えて貰おうか。キミは誰なんだい?」
「ストレートね。スマートになれないほど、かしら」
「Lady, you dominate her body. Your name?」
「It’s mine.」
 そう言いながら女は目を伏せる。手は自分の身体を這い回り、慈しむもその所有を主張していた。
 そして女は顔を上げ、サングラスを取る。その途端、ミックの鼓動が速くなり、彼女の表情から目が離せない。
「I’m SARA.」
 ミックを見るセイラの目は射抜くように鋭く、そして妖しかった。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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