Ambivalent and Vague

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08/探しもの

光が跳ねたら

 
 熱い砂浜、押し寄せる波。高い太陽から落とされた、海の輝き。
 まだ夏の余韻を残しながら、その向こうには確実に秋が近付いている。風が少し冷たい。


 海が見たいと言ったのは香だった。こんな時期に、と撩は面倒くさがったが、どうしてもと聞かなかった。実は慎ましい香がそこまで願うなら、撩としても叶えたい。


 つい先日、依頼が終わった。また何も無い日々の始まり。穏やかで平和な時間。だから、海に行くのも悪くはない。撩はそう思っていた。
 真横に駐車場があるそこは、広い砂浜ではない。首を軽く捻れば、その全貌が見渡せる。停めたクーパーから勢いよく飛び出した香は、海へとまっしぐらだ。サンダルに入る砂など関係ない。砂が生み出す痛みなど、幼子のようにはしゃぐ香には気にならなかった。
 海に入る直前、ベージュのサンダルを脱ぎ捨て、空高く飛ばした。放物線を描いたサンダルは、そのままポトリと砂浜に落ちて転がっている。
 足で海の感触を確かめる。冷たいけれど滑らかで、浸した足は心地良い。軽く足踏みをすれば、パシャパシャと立つ飛沫。そのステップは、海と遊んでいるかのようだ。
 足だけでは勿体ないから、今度は手で掬ってみた。遠く見渡す海はこんなにも青いのに、手の中は透明で、同じものだとは思えない。指から零れ落ちる水も気にせず、香は勢いよく残りを手放した。ふわっと放たれた水は、太陽の光を味方にして煌めいている。


 ただ、眩しい。


 クーパーの横でタバコを吸いながら、海と戯れる香を撩は見た。
 彼女は誰もいないこの場所で一人、ひたすら楽しむことが出来る。依頼が終わった直後ぐらい、そんな彼女を堪能させてもらってもいいだろう。何の約束も交わしてはいない二人が、周りに気を張って誤魔化す必要はない。新宿という枷を壊されたら、二人はどうなるのか。
 ───振り向いて欲しい。自分を見て欲しい。
 ただ、撩はそう思った。それでも、楽しいという感情を迷うことなく出している、その香の姿を見ているのも悪くはない。

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 香が顔を上げると、撩がじっと自分を見つめていた。いや、そんなことはない。自分を見つめているなんて、何かの間違いなのだろう。そう思っても、繋がれた視線を途切れさせる勇気はない。香はいっぱいに息を吸い込んで、思い切り呼び掛けた。
「ねぇ、撩。気持ちいいよ!」
「わかってるよ。ガキみたいにはしゃぐねぇ、香ちゃんは」
 そう言いながら、撩はその足を一歩、砂浜へと踏み入れた。一歩、また一歩。その歩みを進めるたびに、近付くのは香への距離だ。
「ガキで結構よ。楽しいんだから、いいじゃない」
 香が笑う。撩が優しい顔をしていたから、ケンカはあり得ない。
「そうだな」
 この時間が穏やかで楽しいのだと、口には出せない。もし出せていたら、二人の関係はとっくに変わっているのかもしれない。


 変わらず笑みを湛えた撩が、香に近付く。
 あともう少し、というところで、なぜか心がざわついた。
「Keep under wraps... って言っても、もう限界だろ」
 笑みは苦笑いとなり、呟きは風に舞い散っていく。どうしようもなくて、撩は空を見上げて誤魔化した。







Special Thanx to M.Hituji

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