Ambivalent and Vague

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37/はじめて

夕闇のパレード
光が跳ねたら」の続きがもし甘かったら、みたいな(すみません、これが限界です…)。


 
 誤魔化して見上げた空も、やはり太陽が眩しい。どんなに撩が躊躇っても戸惑っても、太陽はそこにいるのだ。
「撩?」
 香は自分の側で動かなくなった撩に声を掛ける。その目は「撩が心配」だと訴えていた。
「あぁ、すまん。ちょっとな」
「それならいいけど…」
 香は優しく微笑んで首を傾けた。海を背にした香は、波に跳ねる光を纏っている。


 やはり、眩しい。


 それは香を別世界の人間だと撩に知らしめるし、暗闇の世界で彷徨っていた撩にとっての道しるべだとも思える。戻る場所がある心地良さを撩は知ってしまったから、手放すなんて行動は出来るはずもない。それが香の幸せに通じる唯一の方法であるなんて、そんな思い込みは捨てようと思ったはずなのに。
 それなのに、撩はまだその思い込みを捨てきれない。
 ───わかっちゃいるんだがな。
 今までの習性を直すのは一苦労で、ショック療法なんて便利なものは存在しない。ちょっとした積み重ね、それが一番の近道だ。
 だから、今日だって。
「香、そろそろ移動すっぞ」
「あっ、ちょっと待ってよ、撩っ」
 微妙な距離から縮める勇気は今なくて、撩はくるりと海に背を向けた。そのままクーパーへ歩いて行く撩を、香は少し寂しそうに見つめていた。





「ねぇ、どこへ行くの?」
 撩が運転するクーパーが新宿へは向かっていないと香が気付いたのは、走り出してだいぶ経ったときだ。チラリと香を見た撩は、
「いいの、いいの」
とはぐらかした。
 ───どうやら今は答えてくれなさそうだ、相変わらずの秘密主義なんだから。
 香は頬を膨らませ、拗ねてみせた。ポーカーフェイスなんて駆け引きが出来ない自分をお子様だと思っても、それが自分なのだから仕方がない。こんなことをしても、運転している男は見もしないだろう。
 ぷにっ。
 香の頬に太い指が突き刺さる。
「ちょっ、ちょっとおおおおお!」
「おっ、笑った、笑った」
「何すんのよおおおお!」
 頬に刺さった指が、さらにぐりぐりと動いてくる。そんなにねじ込んでくれると、本当に穴があきそうだ。それだけは勘弁してもらいたい。
「ぐおらあああ、りょお〜!」
「はいはい、わあったよ」
 撩が指を離すと、それはそれで寂しくなる。香はそんな自分をわがままだと感じるが、自分の感情は自分のものだから、こればかりは仕方がない。離れた撩の指は、そのままシフトレバーを包み込んだ。クーパーの小さなレバーに撩の大きな手。器用にギアチェンジを繰り返す様は、いつ見ても心地良い。
「もうちょっと待ってろ。ちゃんと説明すっから」
「…わかった」
 撩が自分に構ってくれて嬉しいくせに、拗ねていた自分から変わり身が早いことを知られたくない。香の返事は自然と低い声になった。


 クーパーが到着したのは、ログハウス調の別荘だった。さっきまで戯れていた海はやや遠く、もう夕日となった太陽の光を優しく照り返している。
 今まで香が来たことのない場所に、撩は我が物顔でズカズカと入り込んでいく。前にも来たことがあるのか、スイッチをつける手には迷いがなかった。
「ねぇ、ここは?」
「教授の別荘。あちこちにあるからなぁ、こんなのが」
 都内にもあれだけ広大な土地を持つ教授のことだ、こんな別荘を持っていることは何となく想像しやすくて、香はすぐに納得した。
 それはいいのだが、どうしてここに来たのかがわからない。
 どんなに考えてもわからなくて、頭の中ははてなマークで埋まり、それでも増殖するはてなマークが頭を飛び出して宙に浮かびそうな勢いだ。それぐらい、香には理由が思いつかない。
 バタンと音がすると、香はやっとハッと気付いた。自分がいるのはリビングで、床は贅沢に木が使われたフローリングだ。奥には暖炉がある。白い色をした皮のソファは高級で、見るからにふかふかで座り心地が良いとわかる。足が太いどっしりとしたテーブルは、ソファと対照的な焦げ茶色だ。いずれにしろ、全て高級そうである。香の印象はそれに落ち着いた。
 ドアを閉めた撩は、立ちつくしていた香を見て笑っている。バカにされている、香はそう思った。
「なによっ、慣れないのよ、こんなの」
「そうじゃねぇよ。座りゃいいのに、って思っただけ」
「じゃ、そうするわ!」
 香が座ると、白いソファは優しく香を受け止める。これはまずいソファだ、もう立ち上がりたくない。
「こ、こんなソファに座ったことない…」
「じゃ、そのまま座って待ってろ。俺はちょっと準備してくる」
「へ?」
 撩ってば何を言っているんだろう。そう思う香は立ち上がりたくとも、ソファがそれを許さない。
「疲れただろ、寝ててもいいぞ。時間になったら起こす」
「だから、一体何を言って…」
「じゃ〜な〜」
 手をひらひらさせて、撩はリビングを後にした。バタンと締まったドアは、これまたどっしりとした木製だ。中にはまっているガラスだって厚くて、向こうなんて見えやしない。
「もう、なんなのよ」
 わけがわからないまま残された香は、そのままソファに座っていた。





「香ちゃん、おまたせ〜ぇ」
「なんじゃ、その格好は!」
 香が驚くのも無理はない。リビングに入ってきた撩は、香のエプロンをしていたのだ。
「あぁ、これ。アパートにあったから、持ってきた」
「ちょっと、勝手に使わないでよ」
「仕方ないだろ、俺持ってねぇし」
 そう言いながら、撩はズカズカと香の前までやって来る。いつまでも立ち上がらない香の両脇に手を差し入れ、そのままぐっと持ち上げた。
「ひゃあっ」
「はいはい、香ちゃんは移動するよ〜」
「だから、さっきからなんなのよぉ」
 やっぱり、さっぱりわからない。そんな香を後ろから押して、二人が辿り着いたのはダイニングキッチンだ。対面式のカウンターで、その上には既に何枚かの皿がセッティングされている。
「ごはん、出来てる…」
「そりゃそうだ、だって撩ちゃんが作ったもん」
「はあああああ!!!!!?????」
 香が作ったものには文句ばかりを言い、なら自分が作れと言ってもやらなかった男が料理をしている。これは天変地異が起こる前触れだろうか、それとも明日は一気に依頼が降ってくるのだろうか。わけがわからず、香はぽかんと口を開けたままだった。
「ほれ、座れよ」
 そのまま押された香は、誘導のままにカウンターの椅子へと座る。それを見た撩はキッチンから鍋を持ってきた。レードルで掬い上げられたのは、黄金色に澄んだスープだ。
「ほれほれ、飲め飲め」
 今までの生活にはない展開に、香は頭がついていけない。鹿島悦子の依頼で、撩がプロ級の腕を持っていることは知っていた。けれど、それを香に発揮されることはこれまでになかったし、この先もないと思っていた。
 だから怖くて、スプーンを動かせない。食事の意味がわからない。
「な、んで…」


 明らかに戸惑う香を見て、撩はふぅと息を吐いた。香がそうなるのも無理はない。自分の行動は突飛すぎて、香はすぐに消化出来ないのだろう。
 香を手放す気はない。だが、今の関係のままでいるのも無理がある、限界だ。といっても、何をどうしたらいいのかがわからなかった撩は、海が見たいと香に言われたとき、すぐに今回の計画を思いついた。
 いつも頑張っている香を労る。
 それはこれまで、撩がやってこなかったことだ。褒めることをせず貶すことばかりだった自分は香を傷付けるばかりで、恥ずかしさはその正当な理由になどなりはしない。
 言葉にすれば簡単なのだろう。香に日々の感謝を伝えればいいのだろう。そうは言っても、撩だってまだ慣れない。
 だから強引でもいいから、まずは行動に移してみようと思ったのだ。
「まぁ、なんだ。おまえも日々頑張ってるしぃ」
「りょお?」
「今日ぐらい、ゆっくりしてもいいだろ?」
「りょお…」
 これまでの生活で香が身に着けたのは、トラップの技術や撩のアシストだけではない。不器用な撩の言葉から本当の意味を読み取る術もそうだ。撩が意味を込めて言ってくれれば、香はそれを受け取れる。
 撩が今、何をしようとしているのか。それがわかるから、香の胸はいろいろな気持ちでいっぱいになった。目の前のスープがぼやける。涙を浮かべる香に気付いても、撩は料理をしたことに精一杯で、気の利いた言葉など掛けられない。
「ほれ、スープが冷めちまう。早く飲めよ」
「うん…」
 スプーンでそっと掬う。それは野菜の甘みが感じられるコンソメスープで、口の中にゆっくりと撩の気持ちが広がった。
「おいしい、ね…」
「そうか」
 撩の声は穏やかで優しい。その声のように優しいスープの味にポタリと一滴、隠し味が加わった。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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