Ambivalent and Vague

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03/夜伽

名前のない病 (R-18)
以前コメントでご紹介いただきました曲、
Ken Hirai「哀歌」をモチーフにしております。


 
 ふっと香が目を覚ます。
 いつもとは違う、かつては見慣れていた部屋。自分の部屋だったはずなのに、この天井を見なくなってからどれぐらい経つのだろう。そう思ったら、なぜか居心地が悪くなった。
 香はそっとベッドから起き上がり、部屋を出た。暗い廊下に人の気配はなく、それは階上に行っても同じだ。扉を開けて大きなベッドを見ても、そこに男の姿はない。
「いつ、帰ってくるのかな…」
 ぺたぺたと音を立てながら、香はベッドに近付く。そここそ今の香の居場所であり、全てを包み込み、そして狂わせる場所でもあった。乱されたままのシーツに横たわれば、男の匂いが香を捕らえる。


 一ヶ月前、香はしばらく家を空けると撩から告げられた。教授からの依頼で、確かにそれは撩でなければ難しいだろう。香にもそれはわかる。
「無理はするな。依頼も確認しなくて構わない」
「だって、それはあたしの仕事でしょ」
「わかってる。だが、俺がいない間のリスクだけは下げておきたいんだ」
 香の目線に自らを下げてまで請う男に、香は「うん」としか言えなかった。
 本当は「行かないで」と縋りたいのに、物わかりのいい女でいたくて、言葉を飲み込んでしまう。胸に積もった言葉はその行き場を無くし、心を掻き乱さないようにと熱を奪われ石灰化する。
 心を鈍くしなければ、この空虚感に巻き込まれてしまう。ぽっかりと暗闇に開いた穴は、いつでも香を引き摺り込もうと機を窺っているのだ。


 毎朝、取り替えるシーツ。入れ替える空気。
 この一ヶ月、香はその営みを放棄している。このシーツを新しくしてしまったら、空気を外に放ってしまったら、撩がここに残した痕が消えてしまう。この部屋に来ても、ベッドに倒れこんでも、身体は疼かない。
 撩の部屋で過ごせば、撩の不在を嫌でも目の当たりにする。それが嫌だから自室へ戻ったはずなのに、シングルベッドはあまりに潔癖すぎて違和感しかない。寂しさを募らせ辛くしたのは、撩がいない大きなベッドではなかった。


 一旦感じれば、香は匂いから逃れられない。嗅覚を刺激され、記憶が連鎖して蘇る。自分の身体を這い回る唇、意地悪く焦らす指。そして、香を狂わせる熱。
 尾てい骨のあたりがぞわりと震える。それは背骨を這い上がり、前に広がっては子宮を捕らえる。こうなってしまったら、震えは自分で蓋をするしかない。震えが疼きに変わった場所に指を運び、そっと触れた。
 止めたいから、そこを押さえるのだ。そのはずなのに。
 気がつけば指は水音を奏で、香は身体をくねらせる。香の指は今や、撩の指と同化している。男が自分をどのように弄んできたのか、この身体は鮮やかに覚え、指に再現させるのだ。姿を現した花芯に親指が強く弱く刺激を与え、中指はとぷっと穴に沈んでいく。反対の手は赤い蕾をつまみ上げ、横たわっても美しい胸を揉みしだいていた。
 撩がいつも、香の身体を使ってしていること。
「りょうっ」
 口からは甘い啼き声が零れ、身体はキュッと快感に跳ね上がった。





「香、待てなかったか?」
 他には誰もいなかったはずの部屋に今、一つの気配が現れる。香はその声にハッとして、一気に現実へ戻された。
 愛する男が戻ってきたことよりも、今自分がやっていたことは何か、それを男に見られたという羞恥。心では男を求めておきながら、自分の快楽を一心不乱に求めた自分のあさましい姿を見られたことに、ただただ泣きたくなる。
 本当は、「おかえりなさい」と言いたいのに。その逞しい胸に飛び込んで、匂いにも熱にも包まれたいのに。蜜にまみれた指がそれを許してくれない。
「あ、いや、みな、いで…」
「もう遅い」
「いや、いつから…」
「さあな」
 撩はそのままゆっくりとベッドへ近付く。部屋は暗く、撩の表情など香にはわからない。


 目も指も、幾重にも隠された柔肉も。様々なものに濡れた香の身体は、撩にとって美しいとしか言い様がない。自分を想いながら行為に耽った香を、撩はどうして揶揄することができようか。自らを慰める行為は純粋で、許されるのならば、もっと見ていたかった。撩の名を呼び、求める姿をずっと見ていたかった。
 ベッドの端に座った撩は、香の中心で蠢いていた手を取り、自分の顔に近づけた。香が嫌がることも構わず、指に唇を寄せる。大きな舌は指に絡む蜜を残さず集め、指を舐め上げた。今度は指を一本一本、口内の粘膜全てを使って吸い上げる。今は別のぬめりで覆われた、その白く細い指。
「綺麗だったよ、おまえの姿」
 そして、その身体をさらに狂わすのは俺の仕事なのだからと、撩は纏っていたものを全て脱ぎ捨てた。羞恥に耐えられず逃げようとしても、濡れた手は掴まれている。撩からは逃げられない。
「そこまでするなら、俺にぶつけろ」
「りょう?」
「そんなにも俺が欲しいなら、さっさと強請れよ」
 口調は優しくも、撩の目は欲情の色が強くなる。
 そんな目など見なくても、とっくに香は陥落していた。撩の帰宅は色情の空気を濃くし、吸い込めば酔うしかない。空気を吸うように、香が撩を求めるのは自然だった。


 覆い被さる撩の背中に腕を回す。久し振りに抱え込めることに喜びを感じ、もっと抱き寄せたくなる。しかし、男が与えるのは温もりだけでなく、逃亡を許さない鎖のような快楽。香の全身に刻み込むように、刷り込むように、執拗な愛撫は続く。上下する快楽に振り回され、理性はもう役に立たない。
 追い詰められてしまったら、香は堕ちないように爪を立てるだけだ。また付けてしまったと思いながら、この身体に傷痕を付けられるのは自分だけだと、そんな優越感を持つ自分が卑しくて仕方がない。男の歴史ともいえる傷の中に紛れ込んだ、この情交の証。それを嬉しく思う自分は、きっと病んでいる。
 ───だから、壊して欲しい。あなたの手で。
 ただひたすらに「もっと壊して…」と譫言のように繰り返す香を、撩は容赦なく追い詰め、閉じ込める。他に何も考えられないように、その感覚器全てが撩で飽和状態になるように。自身の全てで香の身体を責め、抜け出すことなど許さなかった。
 離れた時間が追い詰めたのは香だけではない。撩も同じく追い詰めた。余裕がないのは撩も一緒だ。香の反応など気にしない、欲しいから、香の身体をぴちゃぴちゃと舌で辿った。嬌声が聞きたくて、知りうる香の場所をまさぐった。柔肉は蝶のように開き、羽が風に揺れるようにひくつく。
「はあああああ!!!」
 羽を捲り上げながら、撩の身体が香に落ちる。二人の繁みが重なったと思えば、すぐに離れては激しく打ち付けられた。
「ひあっ、あっ、あっ」
 香は自分が何を考えていたのか、わからなくなる。ギシギシと鳴り止まぬベッドに合わせて、香の身体が踊り狂った。
 ───もっと、壊して。
 香はそれだけを願う。ただ、それだけ。
 壊れて狂えば、卑しさを恥じる自分も、撩の不在に心を痛める自分もいなくなる。身体を自らくねらせながら熱を待つ、ただの狂った女にしてほしい。そうすれば。
 寂しさなんて、関係ない。
 ───愛しているなら、あたしを引き裂いて…。
 撩が最後に最奥を穿つと、香は悲鳴を上げながら力を失った。


 香の首筋に顔を埋めていた撩が起き上がる。意識のない香から自身をずるりと抜き出すと、爛れたような赤い柔肉に蜜は溜まり、さらに満ちようとしていた。


 ───だから、どこまでも壊して。


 どこかで切なる願いが聞こえた。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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