Ambivalent and Vague

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Transmigration of Souls 4

DOOR

 
 ───ここはどこなのだろう?


 気付けば、女はここにいた。
 どこを見ても黒しかなくて、足に感じるはずの地面も見当たらない。いや、むしろ感触がなく、かといって女自身が宙にいる浮遊感もない。手を動かせばスッと動き、阻むものは何もない。それが却って女に不安をもたらしている。拠り所とするものがない不安と恐怖、ここにあるのはそれだけだ。
 歩き方を思い出して、足を一歩踏み出してみた。地面たるものがないのだから、踏みしめることなどできない。かといって、足が空回りしているわけでもなく、なぜか自分は前に進んでいるのだと女には感じられた。感覚器官から取り込む刺激、そして女の勘。その二つにズレが生じているために、女はどちらを信じたらいいのかがわからなくなっていた。
 足は動き、そしてもがく。前進している実感はないままで、勘だけはこっちだと言っているのだ。今、女はそれを信じるしかなかった。


 どれくらい、動いたのだろうか。時も場所も、果たして動きを見せていたのだろうか。
 動いたと感じたのは、辺りの真っ暗闇がだんだんぼやけ、淡い光が漂うようになったからだ。それがやがて、主従が逆転し、今はもう別の景色が見えている。
「砂浜? 湖?」
 現れた地面は砂にまみれ、目の前には水が広がっている。黒と赤が混ざったそれは、異様だと女に思わせるには十分だった。


 ───なぜ、こんなところにいるのだろう。誰か他に、ここにはいないのだろうか。


 とそのとき、波音の合間から、ザッザッと砂を踏みしめる音が聞こえてきた。歪んだ輪郭は徐々に形を成し、それが男性一人の姿形だと気付いた。
 男は女に気付くと、歩むスピードはそのままで近付いてくる。ガッシリとした体型、無駄のない美しい筋肉。男はなぜか裸だった。そして自分を見返すと、やはり女も裸だった。男は女の目の前に立ち、裸の二人が見つめ合う。


 どこかで会った人かもしれない、女がそう思ったとき、男が声を発した。
「kaori…」
 男の声を女の脳が認識すると、その声が根を張るように脳内を広がってゆく。バラバラに浮遊して存在していた記憶が、その根によって繋がり、まとまりを持つ。そして浮かぶのは、一人の存在。
「ryo…」
 世界を違えたとしても、これまで何度も二人は出会ってきた。今まではその最後、二人の手は離されていたのだ。


 今、この世界に存在は二人だけ。邪魔する者はいない。
 願いがやっと叶うと、ryoはkaoriの腕を取り、グッと引き寄せた。kaoriのしなやかな身体は、逞しいryoの腕の中に収まる。もう手放さないとばかりに、ryoは腕に力を込めた。
 離れている間、ryoの時間は止まっていた。自ら望んで闇に溶け込む者になったとしても、鮮やかな色を忌み嫌うわけではない。ryoにとって、自分の人生に色を運んでくれる存在、そのkaoriにまた会いたい。いや、永遠に手に入れて、世界の鮮やかさをもう一度教えて欲しい。次の扉の向こうには色鮮やかな世界が広がっている、という確証を得たかった。


 ───ずっと一緒にいられれば、それでよかったのだ。


 だが、彼女は疑問を持った。「一緒にいれば、それでいいの?」、彼女の言葉は刃となり、ryoの心を抉った。融け合うほどに愛し合いたいと思っていたのに、肝心のkaoriがそれを否定する。この手で描いていた未来はkaoriにとって、取るに足らないものなのか。
 答えなんて、聞きたくない。ここにその温もりがあること、それが全てだ。kaoriを閉じ込めようと、ryoはさらに腕に力を込めた。
 だが、kaoriはそんなryoの腕をスルリと抜け、距離を取る。ryoの手を伸ばしても、少しだけ届かない距離。kaoriに近づこうとryoは一歩前に進むも、kaoriが一歩退いた。どんなに動いても、二人の距離は変わらない。これが二人の事実なのだと見せつけられたようで、ryoの心は乱れ、この空間での存在自体も揺らいでいく。


「どうして、届かないんだ。二人が一緒になれば、もう二度と離れることはないのに」
 ryoの切実な願いは言葉となって、kaoriに伝わる。kaoriは優しく微笑み、そして言った。
「ありがとう、そう思ってくれて。ねぇ、二人が一緒になるって、どういうこと?」
「それはもちろん、二人融け合って、一つになって…」
 kaoriがどうしてその質問をしたのかわからないまま、ryoは想いの続きを言うしかない。それを聞いたkaoriは、優しい微笑みのままだ。
「一つになったら、あなたもあたしも消えるわね」
「一つになれるんだ。いいじゃないか、ずっと一緒にいられる。ずっと」
「でも、あなたとあたしが愛し合う、その意識すらなくなる。一つになったら、あなたとあたしの区別はなくなる」
「それのどこが悪い?」
 kaoriの言おうとしていることはわかりつつも、自分の意見とは異なる状態にryoは苛ついた。もう二度と離れたくないから一つになりたいのに、どうしてその想いをわかってくれないのか。ryoは手の平をギュッと握りしめた。
「だって、あたしを好きでいてくれるあなたも、あなたを好きなあたしも、そこにはいないでしょう?」
「だから、一つになれば」
「一つになったら、それまで。きっとあたしたちの意識はなくなる。側にいるのに、もう温もりを感じなくなる」
 kaoriの言いたいことがだんだんとわかってきたryoは、
「なら、このまま二人、別々でいようってことか」
と寂しく言った。


 ryoの姿を見ていると、kaoriの心がキュッと縮み、その反動でフワッと大きくなる。そこにあるのは、ryoへの想いと切なさだ。
 ryoが自分をどんなに求め、何をしてきたのか。今ここにいるkaoriは、その全てを覚えている。目の前で世界の犠牲となった「かおり」を追うために、神にその身を捧げようとした「カオリ」を守るために、再び離れてしまう「KAORI」の手を離さないために、ryoはさまざまな時代、姿でkaoriを追い求めようとしてきた。ryoの手が紡いできた歴史を、築き上げてきた真実を、誰が「狂っている」と言おうとも、「間違っている」と断じても。その理由がわかるから、kaoriがryoを評することはない。
 ただ、追い求めた先にあるものには賛同できなかった。自分たちの意識を崩壊させてまで共に在ることに、何の意味があるのか。二つの存在であるからこそ、人は違うこともあれば、愛することもできる。その想いの強さをryoにも信じてほしかった。別々の存在でいるからこその喜びをわかってほしかった。


 kaoriが一歩、二歩と前へ進むと、ryoは腕を伸ばしてkaoriを引き寄せ、再び抱きしめた。腕の中、kaoriはryoを見上げる。
「ねぇ、こういうことも出来なくなるんだよ。ギュッと抱きしめてもらう嬉しさも切なさも、温もりに包まれる喜びも、一つになれば存在しない。ただ、そこにいるだけ。…それでもいいの?」
 kaoriの優しい声が、ryoに少しずつ振り返らせる。自分がこうまでしてkaoriを追い続けた、その目的とは一体何だったのか。
 ryoの脳裏に浮かぶのは、これまで何度も繰り返し出会ってきたkaoriの、ryoに向けられた屈託のない笑顔だ。どんな運命が待ち受けていようとも、ryoはその笑顔を見ていたかった。守るために力をつけ、kaoriの側にいようとした。
 一つになれば、永遠の時を側で過ごすことはできる。しかし、笑顔を見ることは、もう叶わない。
「間違っていた、のか…」
「間違ってなんかないよ。ただ、想いが強すぎただけ」
「そうか…」
 ryoの身体から緊張感が消え、二人の温度は馴染んだ。温かい、二人はそう思った。


 安心して身を任せていたkaoriは、ryoの境界線が再び揺らいでいることに気が付く。
「もう行くの?」
「あぁ。ここにいたら、また同じことを願ってしまう。だから一足先に、次の場所へ行くよ」
「そこで会えるかな」
「会えるよ、絶対に。探してみせる。kaoriが来るのはゆっくりでいいさ。そうしないと、俺が力をつける時間がなくなっちまう」
 そう言いながら、ryoは苦笑いをした。少し照れたような、その表情をkaoriは好きだった。いつも気を張りつめていたryoがkaoriにだけは見せる隙。そうやってさらけ出せる関係をkaoriは大事にしたいと思う。どんなに出会いを繰り返しても、kaoriを守ろうとするryoが安らげる場所でありたい。きっと力があるとは限らない自分が提供できるものといえば、それしかないのだから。kaoriはそんな予感がしている。
「闇に溶けた俺がまともなヤツになれるとは思えないけど…。でも、おまえに会うまでは頑張るさ」
 時空を超えてkaoriを追いかけるために闇を選んだryoは、次も何かしらを背負う存在なのだろうと思っている。またkaoriに出会えるのであれば、背負うことすら怖くはない。時が来れば、またkaoriと出会えるだろう。とにかく、何があっても生きるしかないのだ。
「じゃあな、kaori」
「うん、次こそは二人でずっと一緒にいようね」
 kaoriの言葉に笑みを浮かべたryoは、境界線がさらに歪み、存在の色が薄れていく。最後に残った蒼黒い光が凝縮したと思った瞬間、次には空間いっぱいに広がっていった。それはまるで花火のようであり、すぐにその余韻すらも消えていく。
 kaoriがそこに手を伸ばしても、もうryoはいない。ただなんとなく、彼の温かさだけはそこに残されている、そんな気がしていた。何かを包むように手のひらをそっと閉じれば、中はほんのり温かい。


「さて、あたしはどのタイミングでryoに続こうかしら」
 一人きりになった空間。寂しくないと言えば嘘になる。すぐに追いかけることも可能だが、kaoriはもう少しここにいようと思っていた。この場所で考えたことは、次の存在に持ち越されることはない。思考はここに残り、そして消えていく。
 それでも、kaoriは考えたいと思う。言葉にすることで、自分がなにを想っているのかを確かめていきたい。例え次に持っていけないとしても、どこかで繋がりをもつはずだと願いたい。ryoを想えば想うほど、次も必ず会えると信じたい。
「待っててね、ryo」
 kaoriは砂の上に横たわり、そっと目を閉じていく。


 瞼の裏に残されたryoは、色褪せずに笑っていた。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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