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Ambivalent and Vague

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いつもと違う笑顔で

 
 いくら思わせぶりな言葉をかけられたとはいえ、その後に何もなければ、その言葉自体を疑いたくもなる。
 奥多摩の後は、まさにそんな感じだった。あのときの言葉は一体なんだったのかと思いたくなるほど、撩と香の間には進展がない。今までと同じような毎日が過ぎていく。いわゆる恋人同士にはなれなくても、今までとは違う二人になれるのではないか。そんな香の期待は、日々裏切られ続けている。
「で、これかぁ…」
 香の目の前には、液体が入ったガラス瓶が置いてある。日常生活に復帰した美樹に愚痴を言ってしまったら、「いい考えがある」と手渡されたものだった。


「冴羽さん、本音をなかなか言ってくれなそうだものね」
「本音というか、何を考えているのか、またわからなくなってきて…」
 そう言いながら俯く香に共感したのか、奥に消えた美樹が戻ってきたとき、ガラス瓶を手にしていた。カウンターにコトリと置きながら話す美樹に対し、
「やだっ、そんなことまでして」
と香は焦ってしまった。美樹の言いたいことはわかる。しかし、そこまでしなくてもいいのではないかとも思うのだ。だが、
「香さん、あなたは冴羽さんの本音を知る権利があるの。言ってくれないんだもの、どうにかして聞き出すしかないじゃない。だから、これよ」
と力説されてしまえば、そうかなと思ってしまうのも香だ。果たして美樹の作戦に乗るべきかどうか、迷っているうちに時間は過ぎていく。


 ガラス瓶が香の手元に来て、もう一週間だ。この間、二人の関係にはやはり変化がない。きっとこのまま、二人はこのままでいくのだろう。
「やだ、な…」
 自分に正直になれば、香はやはり撩ともっと近付きたいのだ。愛されているというのならば、もっと愛を実感したい。
「うん、やってみよう」
 ガラス瓶の中身を使わなければならない自分の弱さを思いながら、香はついに決心した。





「撩、コーヒー飲む?」
「あぁ、頼む」
 台所でゴリゴリと豆を挽く手は、必要以上に力が入ってしまう。無味無臭というあの液体を撩のカップに入れれば、香が期待していた言葉が聞けるのだろうか。いや、何かしなければ何も変わらないのだから、とにかく行動を起こさないと、自分の心が潰されそうなだけだ。
 コーヒーを注ぐ手がどこか震える。そこにガラス瓶から数滴、ぽたぽたと垂らした。
「よし、行くぞっ」
 香の心臓は跳ねるようにバクバクしていて、どんなに深呼吸しても落ち着きそうにない。これでは撩が不審に思って、飲んでくれないのではないかと心配になる。
「笑え、笑うのよ、香!」
 自分に言い聞かせ、両手で頬をぱちぱちと叩いた。


「撩、お待たせ」
 自分ではいつも通りに撩へと近付き、コーヒーカップを目の前に置く。せめて笑えているのかどうか、そこだけしか気にすることができない。いつもとは違う笑顔になっているんだろうなと思いつつも、これ以上のことは無理だ。
「おう、サンキュ」
 香をチラリと見た撩は、再び手元の資料に視線を落とした。以前のような肌色の多い雑誌ではなく、教授から渡されたという分厚い書類だった。ところどころ英語で書かれており、それでも撩が読むスピードは変わらない。
 本当に飲んでくれるのかどうか、もちろん香が気になるところだ。じっと見るのはよくないと思いつつ、つい見てしまう。だから、
「香ちゃん」
と撩から声を掛けられ、香は身体をビクリとさせた。返事をする声もどこか震える。
「な、なに、撩」
「いや、さっきからずっとこっちを見てるなぁ、と思ってさ」
「あ、その資料って何が書いてあるのかな、って気になって」
 もちろん、それは嘘ではない。その資料について香は教えられていないのだから、内容が気になるのはもっともだ。しかし、香が一番気になっているのは、そこではない。
「ふーん」
 察しのいい撩はきっと、香の言葉を疑っているのかもしれない。ただ、それ以上追及しても仕方ないと思ったのか、そこから何も言わなかった。
 撩が自然とカップを手にして、ゴクリと大きく喉を鳴らす。喉が渇いていたのか、ゴクゴクと一気に半分を飲んでいった。
 液体は即効性だと聞いている。同じリビングにいれば、違う二人になれるのだろうか、今度は違う意味で心臓がうるさくなってきた。


 ドキドキドキドキ。


 血液の流れに耳を当てているのかと思うくらい、心臓の音が近い。緊張感も高まって、カップを持っていられなくなる。カタンとテーブルに置いて、香は手を膝に乗せてグッと握りしめた。


「香」
 資料を置いた撩が、香をじっと見つめている。だから、香もじっと見つめ返す。撩の表情はいつも通りで、これから何かが起こる予兆など、そこに見出すことはできない。
「おまえ、コーヒーさ」
 続いた言葉に、香はギクッとした。もしかしてばれてしまったのか、そうだとしたらどうなってしまうのか。香は少しずつ追い詰められ、頭がうまくまとまらなくなる。
「なんか力任せに豆挽きすぎじゃね? いつもより苦いんだけど」
 そう言った撩は苦笑いで、それは香がよく見る表情だ。これならきっと、香にだってうまくかわす言葉が返せるはずだ。
「そう? ツケが無くならないな、って思ってたからかな」
 返事はできても、きっと声は震えている。だからせめて笑っていようと口角を上げた。
 ───これで大丈夫、きっと大丈夫。こんなことになるのなら、止めればよかった。今はただ、ここから無事に立ち去れればいい。
「はいはい、香ちゃんは手厳しいね」
 自分の言葉に撩が乗ってくれたと、香は少しだけ安心して息を吐いた。自然と俯いた香が目にしたのは、膝の上で震えている手だ。










「って、言うと思ったか?」
「え?」
 突然変わった声色に、つい香は顔を上げる。そして見たのは、笑みをたたえた撩の姿。だが、今の笑顔を香は見たことがない。どこか冷たくて、残酷で、それを向けられているだけで香はそこから動けなくなる。
 撩がゆっくりと立ち上がり、香の目の前まで来た。見下ろす者と見上げる者、二人の関係はもう確定している。撩が腰を下ろして香と目線を合わせても、どちらが主導権を握っているのかは明らかだ。
「いつもと違う笑い方をしているから、何かと思えば」
「ご、ごめんな…」
「美樹ちゃん、か?」
「ご、ごめ…、りょ…」
 この緊張感に耐えきれず、香は泣いていた。こんなことしなければよかったと改めて思いながら、今は謝ることしかできない。
「まったく、こんなに手が震えて。俺が怒ると思ったのか?」
 香が黙って頷くと、今度は撩が親指で香の涙を拭っていく。親指はそのまま頬を降りて顎と捕らえた。グイッと上げられ、香は撩と面と向かうことになる。
「俺、薬が効きにくいんだ。あの薬のせいでさ」
 支配者の目をしながら、撩の声は穏やかだ。それが却って不気味で、香は「ごめんなさい」と繰り返すしかない。
「ごめんなさい、じゃなくてさ、俺は違う言葉が聞きたいの。おまえだって、はっきりと言葉にはしてないだろ、わかってる?」
「あ、あたしは…」
「だからさ、聞かせてくれたら、俺も言うさ。だが、素直に言ってくれるのかなあ、香ちゃんは」
 撩は香から視線を外さず、背後にある自分のカップを手に取った。そのまま口に含むと、二人の顔はどんどん近付いていく。唇が触れると、舌が香の緊張をこじ開けて隙間を作り、液体が送り込まれる。その意味に香が気付いたときには、既に残っていたコーヒーが空になっていた。
「香には効くと思うぜ、自白剤。さて、何から聞こうかな」
「あたし…」
 ボーッとした香の頭に、撩の声が奥深くまで響いていく。抗えないくらい、撩の言葉は香の脳を雁字搦めにして、言葉を抉り出される。
「香、おまえは俺のことを───」





 いくつかの会話を経て、香は撩の腕の中にいた。薬はまだ効果を残し、撩に全てを預けている。香の素直な言葉は、彼女への愛しさを撩に再確認させていた。自分の腕の中でずっと愛でていたい。そう思ったから、撩は香の鼻へキスを落とした。
「りょお…」
「ん?」
「あたし言ったよ。撩も言ってよぉ…」
 素直に強請る姿もまた可愛らしい。
「そうだな、そう言ったな」
 自白剤で意識が緩んだ香に撩の言葉が残るかは不明だが、約束は守らなければならないだろう。いや、今だからこそ言えるのかもしれない。
「香、俺はおまえのことを───」
 その言葉を聞いた香は、ふわっと微笑んだ。
「嬉しい…」
「そうか」
 そのまま香が目を閉じると、脱力した彼女を撩はギュッと腕で閉じ込めた。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

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