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Ambivalent and Vague

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Cage

飢えたる匣 (R-18)

 
 どうしたらいいのか、もう香にはわからなかった。


 奥多摩での告白は、香をしっとりとした幸せに浸ることを許していた。これまでは撩の気持ちがわからなかったけれど、これからは違う、そう思っていた。
 しかし、三ヶ月経っても、二人の状況は変わらない。撩は街中でのナンパを繰り返し、香を女として扱うことはなかった。年が明けたら変わるかもしれないという希望も、二月にもなれば、さすがに幻だと思わざるを得ない。
 またか、と香は思う。これまで何回も、撩の気紛れには振り回されてきたのだ。想いのこもった言葉をもらえたと感じれば、次の瞬間には反故にされてかわされる。それを繰り返してきたはずなのに、どうして自分には学習能力がないのだろう。
 それでも。
 あの命を賭けた状況で掛けられた言葉は本物だと、嘘偽りのない撩の本心だと思っていた。言葉など形を持たない、手を伸ばしても決して掴めないものなのに、それに縋ってしまった自分が、香は悲しくなった。
 何も変わらない日々は、香を少しずつ追い詰める。未来への視野を狭くして、この選択肢しかないのだと思い込ませる。
 告白の威力が大きかった分、そうすることがお互いのためになるのだと信じて疑わないようになっていった。





 今、撩はアパートにいない。伝言板を確認する時間だからと、香はハンドバッグを肩からさげて出掛けようとした。
 一階に降り立った足は、そのまま階下を目指す。そこは普段は香が立ち入ることのない、撩だけの射撃場だ。ミックとの一件以降も、香はここに立ち入ることを許されていなかった。
 重い鉄扉を開けると、ギギッと音がする。コンクリートに囲まれた空間に思いの外響き、香はギクッとした。後ろを振り返っても、誰もいない。ホッとした香は、中の暗闇に身体を滑り込ませた。
 パチンと電気のスイッチを入れる。目の前に広がる射撃場には、ボウッと撩の姿が浮かんだ。背筋を伸ばし、凛として銃を構える姿に、香はいつから目を奪われていたのだろう。もう見ることはないのかもしれないと思いながら、香は武器庫へと辿り着いた。
 たくさんある銃の中で一箇所、空いている場所がある。ここにしようと、香はハンドバッグの中からそれを取り出し、場所へと収めた。
「これでいいのよね…」
 フッと息を吐いた香の笑顔は、少しだけ悲しそうだった。素早く移動し、スイッチを消して扉の外へと出る。これで終わるのだ、あとは自分がここから出る準備をすればいい。そうやって、香は次のことを考えようとしていた。





「香、そこで何をしていた」


 突然、辺りに響く声。身体がびくりとさせた香が、ゆっくりと顔を上げた。階段の途中には、撩が立っていた。ジーンズのポケットに片手を入れて見下ろしている姿は、どこか不機嫌そうに見える。
「な、なにも。掃除してたの。必要でしょ」
 何か言わなければ、撩はここから通してくれないだろう。お願いだから、騙されて欲しい。そんな香の願いは、決して受け入れられることはない。
「じゃあ、今すぐローマンを出してみろ」
 単刀直入に言われ、香は心臓がバクバクうるさくなった。さっき置いてきたのだから、今ここにはない。そう、今ないということで切り抜ければいい。
「上に置いてきたわ。伝言板を見に行かなくちゃ」
 撩の顔をじっと見て、それから一歩一歩、踏み外さないように階段を上がった。それぐらい、香は緊張していた。横をすり抜けても、撩は香に手を出そうとはしない。いける!と香は思った。
 だから、その衝撃が理解できなかった。一階への踊り場で、香は壁に向かって押しつけられていた。動こうと思っても、撩の身体が全てを邪魔する。
「ちょっと、何するのよ」
「ローマンを地下へ置いて、どこへ行くのかな、香」
「だから」
「今から確認してもいいんだぞ。それで不利なのはどっちだ?」
 冷たい言葉が香に降り注ぐ。撩はわかっている。わかっていて、香を追い詰める。
 きっと、香に言わせたいのだ。全てを香の口から暴かせ、優越を持ってそれを聞く。なんて悪趣味なのだろう。自分のことなど、何も思っていないくせに。だったら今の香に出来ることは、口を貝のように閉じることだけだ。
 沈黙が続く。ただ二人の呼吸だけが響き、そして消えていく。
 香には、言うことは何も無い。
 撩が諦めてくれれば、それでいい。自分など、見限ればいい。


「残念だな、香」
 撩がさらに身体を押しつけてくる。二人の密着は、痛みしか香に生み出さない。
「素直に言えば、見逃してやったのに」
 無理矢理振り返ると、撩は笑っていた。瞳は瞳孔が開いたように濡羽色で、そこには何の感情も浮かべていない。それを見た香の身体はガタガタと震え、そこから一歩も動けなくなった。
「どうした、香。そんなに震えて。何を怖がってる?」
 優しい言葉にそぐわない、冷たい声色。相反する感覚が、香を掻き乱す。「あ、あ」としか言えず、身体はさらに震え出す。
 撩は香が見えない方の手で、懐から一つ、光るものを取り出した。
「え?」
 香が首に違和感を持ったと同時に、身体が痺れ始めた。針によってもたらされた痺れはじわじわと広がり、本当に香から動きを取り上げてしまう。撩が壁への押しつけを緩めると、香は撩へともたれかかった。
 撩が顔を覗き込むと、香は目を見開いていた。信じられない、と撩を非難しているようにも見える。
「言い分ならちゃんと聞いてやるよ、俺のやり方でな」
 今度は、撩が香をじっと見つめる。
 撩は軽々と香を抱き上げ、そのまま階段を上がっていった。





 二月の夕方は暗くなるのが早くて、撩の部屋も暗くひっそりとした空間になっていた。電気もつけず、迷うことなく歩いた先には撩のベッドがある。そこにゆっくりと下ろされた香は、まだ動くことができない。ベッドそばの照明を入れれば、少しだけ空間が暴かれた。
 ギシリ、とベッドが鳴る。香に覆い被さった撩は、やはりじっと香を見つめた。
「どうしてローマンを手放したのか、素直に言ってみる?」
 優しい声色の向こうに、有無を言わさない冷たさが横たわる。その両方が香に迫って、痺れ以上に香を動けなくさせた。
「ま、黙ってあそこまでしたんだ。簡単には言わないか…」
 一人納得している撩を見て、香の心はぐちゃぐちゃに感情が入り交じる。誰のせいでと責めてたくなるし、やはり彼の手の内だったのかと悲しくもなる。何をしたいのか、うまくまとまらない。
「無理矢理言わせることもできるけど、時間がかかるのもまどろっこしいしな。そうすると」
 香に笑顔の撩が迫る。場にそぐわないその笑顔が、かえって香の心を縮ませた。
「そうだな、痛みか、快楽か。なぁ、どっちがいい?」
 そんな選択肢を迫られたって、どちらも嫌だし、選べるわけがない。香は首を振ろうとしたが、痺れはまだ香に動くことを許さない。
「いや、どっちにしても、痛いのは変わりないか。…痛みの先に堕ちる快楽はどうなんだろうな、香」
 香の意見など聞かれず、撩一人で結論づけられたそれ。動けない香の服を撩が脱がせると、撩も同じく脱ぎ捨てた。
 再び香に覆い被さると、香の白い頬を撩の手が撫でる。滑らかな動きは、首筋から香の身体をスーッと辿っていった。





 そこから始まった時間を、香はよく覚えていない。息継ぎを許さない支配的な舌と唇、自分の中心に捻り込まれた熱く大きな楔、香を暴くような動き。断片的な記憶が語るのは、それくらいだ。痛いと言うことすら許されず、楔は香を貫き続けた。
 いや、今も貫き続けている。
 あまりにも痛みが続きすぎて麻痺すれば、次に香を襲ったのは、身体の奥から少しずつ湧き出る疼きだ。それはあっという間に香を飲み込み、今や痛みは快楽へと逆転していた。しかし、針の痺れが香から実感を奪い去り、どうにも現実にならない。
 香の表情で状況を察した撩は、ヘッドボードに置いてあった針で再び香を刺した。封じられていた実感が少しずつ香に戻ると、快楽の濁流が一度に押し寄せてくる。
「んあっ、あぁっ!」
 抗う術を持たない香は、その濁流に流されるしかない。溺れて苦しいはずなのに、身体は嬉々として快楽を迎え入れていた。撩の唇がキュッと吸い上げ、香の身体には無数の赤い証が舞い降りていく。
 ピンと立ち上がった赤い頂きは、物欲しそうにふるふると震えだした。身体が疼きすぎて身体をよじれば、それが撩の楔に新しい刺激を与えてしまう。
「腰を動かすなんて、そんなに気持ちいいか」
「違う、ダメなの、これダメなの」
「ダメじゃないさ、もっとおまえから強請るようにしてやろうか」
 正常位で貫き続けていた撩が香を抱き込むと、そのまま起き上がった。二人が奏でる音は激しくなり、香から出る蜜はさらに滴り飛び散っているようだった。香の身体は緩急つけて突き上げられ、次に撩を深く飲み込んだ。香自身ではどうやったって届かない場所を執拗に探られ、香からは思考することすら失われていく。
 気持ちいいことしか、頭にない。それしかわからない。
「あぁん、あぁっ、ひぁっ、あ、あぁ…」
 香は今、自分がどうなっているのか、わからない。わからなくてもいい。快楽に支配され逃れられなくても、もう構わない。香の身体は、むしろそれを望んでいる。


 ───雁字搦めにしてほしい、あたしを。


 願いを伝えたくて、香は飲み込んでいた楔をキュッと締め付けた。甘い刺激が撩の背中に走り、さらに突き上げを激しくする。
「初めてだってのに、こうやって強請る。末恐ろしいな、香ちゃんは」
 達しても達しても、撩は動きを止めなかった。何度も襲い来る、底なしの絶頂。意識を飛ばされても、次でまた引き戻された。





「ん……」
 香が目を覚ますと、背中に感じる熱が動く。香は背後から抱えられる形で横たわっていた。
「目が覚めたか、香」
 香の身体に響く声は、間違いなく撩のものだ。あの責め苦は現実だったのだと、今改めて香は思う。そして、シーツで隠れた中心にはもっと熱い熱が潜み、何かを企むように蠢いている。
「やだ、撩、まだ…」
 二人がまだ繋がったままなのだと知ると、今更ながらに恥ずかしい。
「抜くのもったいねぇし。まだ終わってねぇし」
「え?」
「ほら、わかるだろ? 俺のがこんなにも深く入り込んで」

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 撩の左手が香の下腹部を撫で、それから埋め込まれた楔をゆっくりと辿った。太いそれは、香の奥深くに行き着いている。
「あっ、いやっ!」
 香の下から這い出た右手はそのさらに下、二人の繋がりに直接触れた。お互いの繁みが絡む中に、二人の境界線が存在する。ツツーッと指を走らせ、頂点にあるむき出しの核を爪で弾いた。
「はぁあっ、いやっ、やっ、あぁ」
「休憩は終わりだ。もう何も考えなくていい」
 優しい声は、さらなる姦濫な時を告げる。いつまで続くのかわからないそれは、ついに香を現実から連れ去った。










「りょお、気持ちいいの。ここはどぉこ?」
「おまえの場所だ、ただ唯一の」
「そっかぁ…」


 たくさんの赤い花びらに包まれた香は、ゆっくりと目を閉じる。
 口元にそっと笑みを浮かべたままで。







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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

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