Ambivalent and Vague

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あなたに似た声 3

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優しさを紡ぐ声

 
 カランカランとカウベルが鳴り響く。その音はどこか重く、入ってきた男もいつもより覇気がないようであった。
「美樹ちゃん、いつもの頼むわ」
 そう言って、撩はいつもの席に座った。


 撩は、香がいなければ静かなものだ。キャッツでコーヒーを飲み、ゆったりと流れる空気と時間を短時間でも味わうのがいつものこと。だが、今はそれどころではないらしい。目的であった彼女は立ち去った後だ、本当ならすぐにこの場を立ち去り追いかけたいのだろうが、この男の天の邪鬼は誰もが知っている。撩はどこか彼方を見ているかのように、心ここにあらずだった。
 そんな撩を、海坊主と美樹はじっと見つめている。
 美樹は、どんなことがあっても香の味方だ。彼女の恋心も努力も応援したいと思っている。だからこそ、撩を見る視線に厳しさがにじみ出てしまう。男にとっても掛け替えのないはずの彼女がなぜ、依頼人の言葉で泣かねばならなかったのか。美樹なりに推理すれば、撩に一言でも物申したくなるものだ。


 海坊主が淹れたコーヒーを美樹が差し出した。
「冴羽さん、どうぞ」
 一人では言葉数少ない男が、今はもっと少なくなっている。撩は口を開きたくないとばかりに、置かれたコーヒーに手を伸ばして飲み始めた。今は何もしてくれるなとばかりに、頬杖をついたまま視線は彷徨っている。だが、美樹は撩に対して容赦ない。
「さっき、香さんが依頼人と会っていたわ。引き受けるそうよ、一人でも出来るからって」
 撩の姿勢は変わらないが、僅かに緊張感が伝わってきた。美樹の言葉が気になり、無言で続きを促している。
 だが、美樹が言えるのはここまでだ。撩の知りたいという願いを叶える必要はない。ただ事実だけを伝え、あとは撩自身が考えればいい。知りたいのであれば、撩が香に聞けばいいだけなのだ。だから、美樹はそれ以上何も言わなかった。


 サイフォンのコポコポという音だけが、心地良いリズムを刻んでいる。そこへ、海坊主が皿を拭くキュッキュッという音が重なった。キャッツには変わらず沈黙が広がったままだ。
「香はあの声に、何を見たんだろうな」
 ふと、海坊主が呟いた。謎かけのような言葉に、撩はやっと相手に視線を向けた。





「香さん、もう大丈夫ですか?」
「はい…」
 香と圭一は二人、新宿の街中を並んで歩いていた。
 あれから、自分が涙していることに気付いた香は、手洗いの前へかけ込んだ。勢いよく水を出し、バシャバシャと顔を洗う。ペーパータオルで水を拭き取って、やっと鏡で自分の顔を見た。依頼人である圭一の声に動揺している自分が、まだそこにいる。


 圭一の声は、まさに撩そのものだった。その声で優しい言葉を紡がれると、いつもと違う状況に香がついていけなくなるのだ。
 何度か深呼吸すると、何とか落ち着いてきた。座席に戻ると、向かい側の圭一は心配そうな表情を香に向けている。
「香さん、大丈夫ですか? あの、僕は何か…」
 自分のせいかと思う圭一の言葉に、香はハッとした。自分が悪いのに、それを知らずと相手に押しつけてしまうのだけは嫌だった。だから、香は今できる笑顔を浮かべて答える。
「いえ、違うんです。ちょっとだけ驚いてしまって」
「そうですか。涙まで流されて、どうしたのかと思ったので。…あの、依頼の話は別の日にしましょうか、今日だと落ち着いて聞けないでしょう?」
 どこまでも香を労る言葉が紡がれていく。話す圭一をじっと見ながら聞けば、言葉は圭一のものであって撩ではない、というのは一目瞭然だった。今はもう、先ほどのような混乱はない。
「大丈夫です。だから、依頼の内容を聞かせてもらえませんか」
「わかりました」


 依頼は、香が一人でできる内容ではあった。むしろ、香でなければ成し得ないものでもあったのだ。だが、シティーハンターとして依頼を請けたからには、撩の判断も聞いてみる必要があった。数日中に返事をすると返すと、圭一は文句も言わずに快諾した。


 キャッツを出ると、二人は駅の方へと歩いた。顔を見ていれば声の主を意識できるも、横並びでは声だけが香に届いて今を錯覚させる。どこか心に引っかかっている香に気付いているから、圭一が話す内容も当たり障りのないことだ。だが、その度に香は、声に引きずられる自分をどうにかするのに精一杯だった。
「今日はお恥ずかしいところをお見せしちゃって、すみませんでした。あの、正式に依頼をお受けするかどうかは、またこちらからご連絡しますね」
 別れ際、香が依頼について確認すると、圭一は優しい微笑みを香に向けた。
「えぇ、こんな依頼でなんですけど、ご検討ください。でも、もし香さんに引き受けてもらえたら、嬉しいなぁ」
 この声に乗せて運ばれる、圭一の素直な感情がどこかくすぐったい。彼の笑顔も眩しくて、香はつられて少しだけ微笑んだ。
「よかった、最後にあなたの笑顔を見られて。じゃ、お待ちしてますね」
 そう言って離れていく背中から、香は目が離せなかった。





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好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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