Ambivalent and Vague

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あなたに似た声 4

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もう声は届かない

 
   見えない砂は、香の心に少しずつ降り積もる。
   さらさら、さらさら。
   その砂は、心の動きを奪うもの。
   さらさら、さらさら。
   静かに、密やかに。


 圭一と別れてから香が帰宅するまで、数時間が過ぎていた。
 その間、撩と香はそれぞれが言葉にしがたい想いを抱いていた。圭一の言葉に心地良さを感じ始めていた香は、帰宅して撩の言葉を耳にすることが怖かったし、撩は香に男の依頼を請けてほしくはなかった。それは撩自身のモットーというよりは、香に男を近づけたくないという自分勝手で理不尽な願いだ。しかし、香にかける言葉を見つけられない撩は、これまでのように香を傷つけることしか言えない。





 食後、二人はいつものようにリビングでコーヒーを飲んでいた。コトリとテーブルに置かれたカップから立ち上る湯気は熱い。
 二人は沈黙したまま、緊張した雰囲気がいつもと違っている。その沈黙を破ったのは、撩だった。
「あのさ、香」
 香が身体をビクリとさせる。この男が依頼について知ろうとしないわけがない。いや、もう知っているのだろう。だから、この言葉の続きは香にとって心地良いものではないだろうし、むしろ聞きたくない。優しさを含んだ同じ声を聞いてしまうと、いつもなら対応できるはずのこともできなくなる。撩の言葉は棘を増し、香の心を傷付けるのだ。
「おまえ、一人で依頼を請けるんだって?」
「そのつもりよ、一人でできることだから」
 断るという選択肢のない香に、撩は勝手に焦っていく。男からの依頼というだけでもいやなのに、香一人でできる内容とはどういうことだろう。どんなに情報屋を当たっても、今日だけでは有力な情報が得られるはずもなく、依頼内容を把握できないまま帰宅していたのだった。
「なんだよそれ、一人でできることって。おまえはいつから、そんなこと言えるような一人前になったんだよ」
 あぁ、やっぱり来たなと香は思う。想像していた通り、圭一と同じ声なのに、撩は棘のある言葉しか口にしない。しかも棘には毒が含まれていて、香からどこまでも意欲を奪っていこうとするから厄介だ。
「あんたじゃなくて、あたしに頼みたいって。仕方ないじゃない、そう言われたんだから」
「だから、依頼内容はなんだっつーの」
 当初から香に頼むつもりで依頼をしてきたというのなら、それは一体なんなのか。海坊主も美樹も、そこまでは教えてくれなかったのだから、香から聞く以外に方法はない。そして、返ってきた答えは、撩にとって驚きだった。
「今度、二人で過ごしてほしいって。そう言われた」
「なんだよ、それ。なんでそんなこと、スイーパーに頼もうとすっかな」
 一番あってほしくない依頼に、撩は無意識にいらついた。だから、依頼人への言葉が自然ときつくなる。そんな依頼はスイーパーが請ける価値もない、だから断れと暗に伝えても、香がそのメッセージを受け取るはずもなかった。
「いいじゃない、あんたがやるんじゃないんだから」
 どこまでもわかりあえない状態に、撩は香への言葉もきつくなっていく。
「だからだろ。なにかあったらどうするんだよ、尻ぬぐいだけは勘弁してくれ」
 やれやれという表情で撩がため息をついた。どうすれば香に依頼をあきらめさせられるのか、いい考えが思いつかないからこそのため息でもあったのだが、香はやはりそれを読み取れはしない。
「ま、香ちゃんにとっては願ってもないチャンスか。男とのデートだもんな」
 撩も自分がなにを伝えたいのか、この言葉が適切なのかがわからなくなってきた。とにかく、今までの習慣で言葉だけはどんどん口をついて出てくる。
「信じられねぇけど、おまえとデートしたいなんて物好きなヤツがこの世にいるんだな。リョウちゃん、びっくり」
 香の顔など見られるはずもない。撩は香の反応を見ないまま、どんどん言葉がこぼれていく。本心と乖離した言葉は、ただ香の心を貫く刃となって傷つけ、香を苦しめていった。
「男だってバレる前に断っとけば?」
 こう言えばハンマーが飛んできて、この緊張感が少しはリセットされるはずだ。撩はそう思ったが、計算は見事に外れていく。


   気付けば、心は砂だらけ。
   さらさら、さらさら。
   砂は止まらず、もういっぱい。
   さらさら、さらさら。
   お願い、無理なの、動けない。


「やめてっ!!!」
 ──お願いだから、これ以上その声で辛くさせないで……。
 耐えきれなくて、香はとっさに耳を塞いだ。それでも頭の中で声が毒を振りまくから、どうにかしたくて頭を振り乱す。しかし、撩の声は離れてくれない。だから、ここから逃げるしかなかった。
「もういいっ!!!」
 テーブルをバンと叩き、香が立ち上がった。叩いた弾みでカップはガチャンと音を立て、その水面を今なお揺らしている。
 香は撩に背を向けていて、撩が顔を見ようとしても今さら無駄だ。香はもう、撩の言葉を受け入れることができない。
「別にあんたに誰も頼んでないでしょ。尻ぬぐいだって、やらなくっていい。あたしになにがあったって、あんたには一切関係ない!」
 撩を振り返ることなく、香はリビングを立ち去った。バタンッと閉められた扉の強さに、撩はしまったと思う以上に状況が飲み込めなくなっていた。いつものやりとりが、いつものやり方でなく終わる。それは違う流れが生まれてきているということだ。


「関係ないはずがないだろうが……」
 その呟きは、いつもと違って弱々しい。最後に見た香の姿が、撩の頭から消えてくれない。
 気持ちをどうにかしたくて、撩はコーヒーを口にした。カップのコーヒーはすでに冷め切っていて、それ以上飲む気にはなれない。
 もし彼女の心が……と思うだけで、撩は自分の足元が凍りつくようだった。





 リビングから逃げ出した香は、そのまま客間へ引っ込んだ。この部屋では一人きりのはずなのに、撩から投げられた言葉が頭の中で再びリフレインして、どんどん香を追い詰めていく。響き渡る言葉をどうにか止めたくて、香はまた耳を塞いだ。それでも言葉は棘を持つ蔦となり、香の存在そのものを締め付けていく。
 なぜ、こんなにも言われなければならないのか。
 圭一の声と言葉を知ってしまったからこそ、今の香にはわからなくなる。あんな言葉を放つ撩にとって、自分はどんな存在であるというのか。


 好きだったはずの声は、香を苦しめるだけ。
 香は苦しい表情のまま、扉にもたれながらズルズルと座り込んだ。もう、自分がどうしたらいいのかがわからない。そんな気持ちは涙となって、ついにこぼれ落ちた。その後はただ涙することしか、香にはできなかった。





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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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