Ambivalent and Vague

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あなたに似た声 5

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真実から声は遠く

 
 窓から差し込む光が、部屋の中を明らかにしていく。
 香は扉にもたれかかったまま、体育座りで自分を抱え込んでいた。俯いていても、周りが明るくなったことだけはわかったため、香は顔をゆっくりと上げた。
「あのまま寝ちゃったんだ…」
 それはもう、遠い過去のようだった。獠から言葉の刃で傷つけられたことも、耐えきれなくて逃げ出した自分も、何もかも。
 きっと以前なら、いつものことだと自分の中で思うことができたのかもしれない。だが、同じ声で優しさを与えられてしまっては、獠からも同じものを求めたくなってしまう。
「そんなこと、絶対にないのにね」
 あの優しさは、圭一だからこそのはずだ。いくら声が同じでも、獠と圭一は別個の人間なのだから。しかし、耳と心はその区別を許してはくれない。圭一の言葉が香を混乱させ、獠の言葉すら受け流せなくなってしまっている。
 ふぅ、と一つ息を吐いた香は、次にスッと立ち上がった。今日は午前中に約束を入れているのだ。圭一の依頼を受けるには、とある人の協力が必要であった。





「待ってたわよ、香」
 にこやかに声をかけたのは、香の友人である絵梨子だ。絵梨子のブティック兼オフィスは、以前と変わらず窓が広い。その大きな窓はたくさんの光を招き入れるから、香のちょっとした変化も浮き上がらせていた。
「あら香、どうしたの? 元気ないみたいね。……あ、さては冴羽さんがらみ、かしら」
「う、ん……」
 答えを濁した香に、絵梨子は怪訝な表情を隠さなかった。
 依頼で再会して以来、絵梨子は二人のやりとりを何回も目にしていた。その度に香は獠から言葉で傷つけられ、香は傷つきを飲み込んでハンマーで終わらせてしまっている。本当に香がしたいことは、そうではないだろう。と思っても、肝心の香がきっとそれを認めないから、絵梨子は何も言えないでいた。
 しかし、今日はどうやら違うようだ。香は肯定もしないが、否定もしていない。何かあったと見ていい。
「まぁ、いいわ。それで、私に頼みたいこと、だったわよね。どんなこと?」
 絵梨子が努めて明るく言うと、それにつられた香も少しだけ微笑んだ。
「うん、実はね……」


 圭一の依頼は、香に対してのものだった。一日だけ一緒に過ごして欲しい、それが内容だ。
 圭一自身については、キャッツで自己紹介を受けていた。香も知っている有名企業の御曹司と過ごすのだから、服装もそれなりでなくてはいけないはずだ。だったら、と助けを求めたのが絵梨子だった。
 絵梨子はすでに用意していたのか、洋服を差し出して着るようにと言ってきた。フィッティングルームに香が入ると、自分では選ばない服に似合わないという想いが出てくる。


 ──おまえが着たら、服がかわいそうだろぉ? そういうのは、もっこりちゃんが着るもんだ。


 ここで聞こえないはずの声が、そう言ってきた。昨日の今日で、香はその声を流すことができない。これ以上聞こえないようにと、耳を塞いで頭を振った。
 そして、鏡を見る。なんて今日の自分は元気がないのだろう、と香自身で気付いてしまうくらいだ。きっと絵梨子だって何か思っているに違いないが、それでも黙っていてくれる親友に香は感謝した。


 着替え終わると、香はゆっくりとフィッティングルームから出た。
「ほおおおお、さすがねぇ、香!」
 香が顔を上げると、絵梨子が満面の笑みで見ていた。
 香が着ているのは、さまざまな赤で編み上げられた、ノースリーブのサマーニット。下は落ち着いたイエローのロングスカートだ。
「もうっ、絵梨子ったら、おおげさなんだから」
「そんなことないわ。この組み合わせって身体のラインが大事だから、香みたいに背が高くてスタイルのいい人にこそ着て欲しいのよ」
 熱弁を振るう親友に苦笑いをするも、嘘をつけない絵梨子の言葉が本当にありがたかった。そんなほっとした雰囲気が絵梨子にも伝わったのだろう、優しく微笑んでから、絵梨子はサンダルを差し出そうとする。
「あ、それ……」
「夏だから、サンダルがいいと思ったの。さらにスラッと見せるために、シンプルだけど底があるやつはどうかなって」
「うん……」
「なにか、気になるの?」
 香の反応に気付いた絵梨子が問いかけると、香は少しだけ目を伏せて応えた。
「ほら、今回は依頼だし。……それに、いつなにがあるかわからないから、もうちょっと動きやすい靴がいいかなって」
「もぉ、やっぱりそれなの? オシャレは女性の特権なのに。……わかったわ、ちょっと待って」
 絵梨子は何かを思いついたように、オフィスの奥へと引っ込んでいった。次に出てきたときに手にしていたのは、サンダルと同じベージュのローヒールだった。甲の部分で細い皮が交差していて、サイドはストラップになっている。エナメルでポインテッドトゥな形は、可愛さとスマートさを同時に表現していた。香が履いて試してみると、見た目以上に動きやすい。
「これなら、大丈夫でしょ」
「うん、大丈夫そう。さすが絵梨子ね、ありがとう」
「いいのよ、私の服を香が着てくれるなら、お安い御用だって。あとね、これも持ってね」
 絵梨子が渡したのは、皮のハンドバッグだ。ストラップ部分は二本の皮でできていて、入れる部分は巾着のようにぽってりとして、口は絞れるようになっている。全体的に見てみれば、夏らしい鮮やかさが印象深いし、小物で柔らかさを添えている。
「これでいいんじゃないかしら。香としては、どう?」
「うん、いいと思う」
「よかった!」
 ようやく香らしい心のからの笑みがこぼれたのを見て、絵梨子は香に近寄った。そしてその頬に手をそっと添える。
「絵梨子?」
 戸惑う香を、絵梨子はじっと見つめた。


 香の幸せは、香自身が決めるものだと絵梨子もわかっている。しかし、それでも二人を知っている人間としては、一言伝えたかった。
「香、あなたが幸せなら、私はそれが一番だと思ってる。だけどね、あなたにとって、幸せってなんなのか、それをもう一度考えてみて」
「絵梨子……」
 依頼での再会以来、「香だったら、他に素敵な人がいたっておかしくないのに」と何回か絵梨子に言われていたのを香は思いだした。かつては男への想いが強くて言葉を流していたが、今は絵梨子の言葉がズシンと心に響いてきた。自分の幸せとは何か、あの声で優しさを受け取ってしまったからこそ、わからなくなった。
「それで出した答えなら、私は精一杯応援させてもらう。だけど、恋は盲目なだけじゃいけないの。香の立場なら、なおさらよ。だからこそ、考えてみて。変わることを恐れないで」
 絵梨子が自分のために言ってくれているのだと強く感じるから、香は痛いところを突かれたと思いながらも、
「うん……」
とゆっくり頷いた。





 同じ日の夜、獠はとあるバーで飲んでいた。横に座っているのは、今は記者として活躍している、かつての相棒だ。
「おいリョウ、聞いたぞ。今度の依頼は、カオリがデートするんだって?」
 隠そうとしなければ、この新宿で自分たちの話が広まるのは早いと改めて思いつつ、獠は何事もなかったかのようにバーボンをあおった。
「おい、リョウ。聞いてるのかよ」
「耳塞いでねぇんだから、聞こえてる。香がやるって言ってるんだから、やらせるしかないだろーが」
「だったらおまえ、今回の依頼人については調べてるんだろうな。久留井圭一、超有名企業の御曹司だ。身辺調査をしても、出てくるホコリなんぞない。オレほどじゃないが、顔もいい。誠実で温厚と人柄もよく、次期トップにと今から期待されているような存在だ。しかも学歴だって高いときちゃ、難敵だぞ」
 こんな時間でよくそこまで調べたなと感心しながら、獠はやはり表情を変えなかった。圭一のことは、昼間までに情報を獠も得ている。報告を聞けば聞くほど、獠は自分が対抗できる部分がほとんどないことに気付いていた。
 表の世界で地位のある男、そんな存在が香を見初めて求めたのなら。そして、香がそれを受け入れようと手を伸ばすのなら。
 獠はそんな二人を邪魔する権利など、どこにも持たない。許されるのは、二人を見送り、祝福するだけだ。


「だったら、願ったり叶ったりだろ。あいつにそんな男が近付こうとしているなら、表に返すいい機会ってこった」
「ちょっと待てよリョウ、自分の発言を反故にするつもりか!?」
「おまえ、さっきから日本語堪能だな。反故だのなんだの、よくしゃべること」
 ミックは獠から直接、香への想いを聞いている一番の存在だ。一緒にいてほしいことも、香を種族維持本能だけで見ていないことも、獠はミックに伝えたはずなのに、今言ったことはそれと矛盾している。
「おまえな、なんでオレがカオリを託したと思ってるんだ。それが彼女の幸せだと思ったからだろ?」
「だからといって、あいつの幸せと身の安全を考えれば、表が一番なのはわかってるはずだ」
「またそんなことを言ってるのかよ」
 まるで振り出しに戻ってしまったかのような態度に、ミックも焦りと苛つきを隠せない。それならば、今や表の人間となった自分が彼女の手を引いていいのかと思うも、最愛の人を思えば言葉にするのは憚られる。
「いいんだよ、決めるのは香だ。香が決めた幸せを、俺が壊すわけにはいかない」
「おまえ、自分が裏の人間だって負い目があるからって……。人を愛することには変わりがないだろうが。なぜ、彼女を大事にできない。もしカオリがこの男のもとへ行くとしたら、それはこいつに惹かれたからじゃない。おまえに愛想を尽かしたからだ、違うか?」
「んなこと言われても、ボクちゃん、わかんな〜い」
「まったくおまえって……。結局、自分が傷つくくらいなら、傷つけて離れてもらった方がいいなんて、どこまで甘ちゃんなんだよ。呆れた」
 獠は黙って飲み続けている。今日のところは聞く耳を持たない男に、これ以上何を言っても仕方がない。そう思ったミックは、これ以上追及することをやめた。
「ま、そうやって余裕のフリをしていろ。確かに、選ぶのはカオリだ。この男だって、女性との付き合いはあったようだし、結婚を考えた女性だっていたみたいだしな。それくらい、相手のことを真剣に、大切に考えられるんだろうよ」
 その言葉の裏は、獠はそれをできないという批判だ。元相棒は自分に容赦ないなと思いつつ、ここでは反論しても意味がなく、獠はやはり飲んでいるしかなかった。
「オレが調べたところは、伝えたぞ。それでちゃんと考えるんだな」
 そう言って、ミックはバーを立ち去っていった。





 残された獠は、何かを誤魔化すように、残っていたバーボンをあおった。近付いてきたバーテンダーにグラスを差し出すと、色濃い液体がまた注がれていく。トクトクと心地良い音は、これまで獠が感じた心地良さを記憶から引きずり出し、脳裏で突きつけた。


 自分をどこまでも信頼する瞳。穏やかな日々。そして、彼女の笑顔。


 彼女からもらったものは、数え切れない。だからこそ、彼女が幸せになれる場所があるのなら、そしてそれを彼女が望むのなら。


 ──あのとき、あの森で決意したはずなのに。


「俺なんかよりお似合いのヤツは、ごまんといるんだよ……」
 そう呟いた獠の手は、グラスを握りしめながらも震えていた。





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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

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