Ambivalent and Vague

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彼らの日常 2

二人はバディ

 
 依頼が始まって約一週間、亜矢子は冴羽アパートでのんびりと過ごしている。


 外出してすぐに狙われてしまった翌日、三人は亜矢子のアパートへ向かった。冴羽アパートへの滞在が長くなりそうだったので、追加の衣類などを持ち出したかったからだ。アパートに到着して部屋の前に立つと、亜矢子はハンドバッグから鍵を出して差し込もうとした。


 そのとき。


「ちょっと待って!」
 香がやや鋭い声で言ってきた。初めて耳にする声で、亜矢子は身体をビクッとさせ、持っていた鍵を落としてしまった。香はかがんでその鍵を拾い、亜矢子にそっと渡した。その表情は、声からは想像できないほど穏やかだ。
「香ぃ、ドアになにかありそう?」
「そうじゃないかなぁ、と思ってね」
「んじゃ、頼むわぁ」
 ニカッとした表情で「了解」と言いながら、香はハンドバッグから細く折れ曲がった道具を出した。まずはドアノブに手をかけ、少しだけ動かしている。
「ん〜、当たりかなぁ。ちょっと待っててね」
 どうやらドアに仕掛けられたトラップを解除しているようであるが、香は工作を楽しむ少年のように夢中になっている。素早い判断と対応に、亜矢子はつい撩の説明を聞きたくなった。
「あの、冴羽さん」
「あぁ、香はトラップが得意なのさ。それに、トラップに関する勘もいいし、こういうことはお任せ〜」
 言葉は軽いが、撩の目は本当に香を信頼しているのだとわかる。
 もしトラップが命に関わるものだったら、解除に失敗してしまったら。きっと撩だってトラップの心得はあるのだろうに、そこをあえて香に任せるとは、命を預けることと同義だ。
 こんなに信頼しあっている二人なんだ、と亜矢子は新たな発見をした。


「はい、無事に外せたわよ。ドアの部分だけで完結しているトラップみたいだから、作動しないように切断したわ」
「ほいじゃ、入りましょうかね」
 撩が亜矢子に手を差し出す。その意図がわからなくて反応できなかったが、
「開けるから」
という声で、撩がドアを開けようとしていることがわかった。
「もう大丈夫だったら、私開けますよ」
「いや、念には念を入れてね。香は亜矢子くんを頼むわ」
「了解っ。さ、ちょっと下がってて」
 亜矢子が香と一緒にドアから離れると、撩がゆっくりとドアノブを下ろした。


 香の推理は正解で、ドアだけで完結しているトラップではあった。火薬を限りなく抑えた爆弾が破裂する仕組みであったが、それでもそのまま入っていれば、開けた人間はケガから逃れられない。ただし、敵が仕掛けたときにちょっと失敗したようで、ドアの一部が壊れてしまっていた。
「こればっかりは、ねぇ」
「今度、管理会社さんに言っておきます」
 敵の用意周到さと同時に、どこか抜けているところも感じた三人だった。


 とはいえ、亜矢子が狙われているのは変わらない。出掛ける先で毎回こうあっては、いくら撩と香でも守りきれないところがある。亜矢子の外出には、もう少し慎重にならざるを得なくなった。
 亜矢子の話からすると、新宿に関係する組のどこかだとは思うも、それにしては手際が良すぎる。これはもう少し情報収集してから迎え撃った方がいいだろう、亜矢子は撩からそう説明を受けていた。
 亜矢子は、その撩の考えに異論を唱える気はない。確かに外に出られないのは滅入るが、狙われずに安全に過ごせるだけいいというものだ。それに、自分を守ってくれるはずの二人が興味深くて、退屈という文字が亜矢子の辞書から消えていた。





 ある日の夕方、亜矢子は香と一緒に料理を作っていた。一週間も経つと、自分も何かできることが欲しい。役割を与えられれば、この場所にいてもいいのだと大義名分ができる。亜矢子は香に頼んで、食事を一緒に作らせてもらえないかと頼んだ。香は最初、それは自分の仕事だし、依頼人にそんなことはさせられないと断ってきた。しかし、亜矢子が気持ちを告げれば、そこをスッと汲んでくれるのも香だった。


 今日の夕食はカレーライス。これなら簡単にできると思っていたら、登場した鍋の大きさにまず驚いた。
「あ、あの、このお鍋は……」
「これね〜。ほら、うちには無限の胃袋を持つ、とってもエネルギー効率の悪いヤツがいるから、量が必要なのよ」
「これで、どれぐらいもつんですか?」
 業務用の寸胴かと思うほどに大きいそれを、亜矢子は指差して言った。それを聞いた香は、少しだけげんなりした顔でため息をつく。
「それがねぇ、明日の朝食分までもてばいい方なのよ」
「えええっ、そんなに冴羽さんは食べるんですか!?」
 こんなに大量のカレーおよびご飯が入る胃袋など、どこにあるのか。そう思わずにいられなかった亜矢子は、素直にそう言った。
「特にカレーは好きみたいでね。前もって取り分けておかないと、鍋にあるだけ食べちゃうの」
 変わらずげんなりとしている香であったが、亜矢子は別の考えが浮かんだ。確かに撩が馬車馬のように食べるのは事実なのだろう。しかし、食べられれば何でもいいというわけでもないし、文句を言いながらも香が作った食事を残すことはない。香の食事だからこそ、亜矢子はそう思った。
「ふふふ、冴羽さんって、香さんが作るお食事がそんなにも好きなんですね」
 亜矢子の言葉に、香は腕を大きく振って慌てたようだった。
「そ、そんなことない! あいつは文句ばかり言うし、だったら美味しいものを食べてきなさいよって思っちゃう」
「それでも、香さんが冴羽さんに食事を作り続けるの、何か理由があるんですか?」
 香だって撩に文句は言っているが、それでも作ることを止めないのだ。そこには理由があるのだろう、と亜矢子は純粋に思ったから聞いてみた。すると香は、どこか優しさと憂いを帯びた雰囲気をまとい始めた。
「香さん?」
「あたしには、それしかできないから。あいつが何の気兼ねもなく食べて、家で過ごして。その時間を守りたいの……」
「香さん……」
「あっ、ごめんなさいね。あたしにできる精一杯だからさ、それをやるしかないじゃない? ね!」
 急に明るく雰囲気を変えた香に、亜矢子はかける言葉がなかった。確かに亜矢子は、撩にほのかな想いを寄せているのも事実だ。しかし、香のそれは、亜矢子の比ではない。香にしかできない手段で、撩を守りたい。そんな強い想いを見てしまうと、亜矢子が撩に対してできるのはここまでなのだ、と引き際がわかる。この二人を引き裂いてまで自分の想いを押し通せるかといえば、即座にノーと浮かんでしまうのだ。
「そうですね、今はこのカレーを作っちゃいましょう!」
 亜矢子が言うと、香は一瞬驚いた表情をして、それからゆっくりと微笑んだ。





 夕食はおかわりの連続で、あんなに煮込んだカレーも炊いた米も、見事になくなっていた。
「今日はね、亜矢子さんが作るのを手伝ってくれたの」
「そぉかぁ、だから今日はとっても美味しかったのねん。亜矢子ちゃんの気持ちがこもったカレー、美味かったぜ」
「そんなことないです。ほとんど香さんが作りましたから。香さん、とっても美味しかったです」
「亜矢子さん、ありがと。それに引きかえ、あんたは本当に文句ばっかりなんだから。いっつも言ってるでしょ、そんなに美味しいものを食べたかったら、外食でもなんでもしなさいって」
 香が言った瞬間、撩の雰囲気が少しだけ変わった、と亜矢子は感じた。それは気のせいだったのか、今はいつもの撩だ。
「はいはい、そしたら今日は飲みに行かせてもらいますかね」
「まぁた、ツケを増やす。飲みが必要なのもわかるけど、ほどほどに!」
「わぁったよ」
 声にどこか力がないのは、やはり気のせいだろうか。食べ終わった皿をシンクに持って行き、既にそこで洗っていた香にそれをぶつけてみた。
「あの、冴羽さん。飲みに行くのは楽しくないんですか?」
「へ?」
 目を見開いた驚きの表情は、亜矢子が意外なことを言ったという証拠だろう。そして香は、大声で笑った。
「そんなことないない、飲みに行くのはあいつの生き甲斐だもの。……でも、どうしてそう思ったの?」
 亜矢子にそう尋ねる香は、ただ疑問に思ったから聞いてみたという感じだった。
「えっと、うまく説明できないんですけど。あの、冴羽さんの声にどこか力がなくて、ちょっと気落ちしているみたいに聞こえて」
「そうなの? あたしにはいつも通りにしか見えなかったし、聞こえなかったけど。……そうねぇ、亜矢子さんみたいな美人さんと離れがたいから、っていうならわかるわよ」
「そ、それはないですって、香さん!」
 亜矢子は即座に否定したが、香は笑っているばかりだった。
 ここまでの観察によると、撩と香の二人は、噛み合っているし、噛み合っていない。あの夫婦漫才のように絡み合う二人もいれば、ねじれの位置のように、どこまでも交わらず平行にもならない二人もいる。こんな不思議なバランスで、二人はどう過ごしているのか。撩への憧れはまだ消えていないが、それ以上に二人のことが気になっていた。





 その日の夜も、亜矢子は香と一緒に寝ていた。
 亜矢子はいろいろなことを考えていて、眠りに入る瞬間を逸してしまっていた。眠気はあるけれども、負けるにはもう一押しが必要だ。中心地から少しだけ離れたこの場所でも、新宿繁華街の光は淡く窓から入り込んでくる。そのぼわっとした光を、亜矢子はぼんやりと眺めていた。
 ギシッ。
 亜矢子の耳が、かすかな音を捕らえた。それはどこか遠くの音ではない、この室内のものだ。音がどんどん自分の方へ近づいてくると思ったら、最後には方向を変えていった。
「まぁったく、おまえも好き勝手なことを言いやがって」
 密やかな声であるが、この静かな夜なら誰の声かはわかる。そして、誰に言っているのかも。
「俺は紳士でもなんでもねぇんだよ。ケダモノに理性を求めてどうする」
 ベッドがきしむ音と沈黙が何を意味するのか。亜矢子は見ていないのに、すんなりと一つの答えを導くことができた。ケダモノなら、欲しいものと口で触れ合うはずだ。ぴちゃりと音がしたのは、亜矢子の空耳ではないだろう。
 撩にとってはきっと密やかな習慣で、寝ている香に気付かれることはない。ただ、こんな夜を二人は何回も過ごしてきたのだろうと思ってしまう。
「香……」
 次にリップ音がしたと思えば、またベッドがギシリと鳴いた。
「えっ!?」
 次に撩が動いたときは、これまでとは違っていた。足音や衣擦れの音をはじめ、音をほぼ隠さなくなっていたのだ。一体撩がなにをしようとしているのか、亜矢子はさっぱり理解ができなかった。
「亜矢子ちゃん」
 自分の名を呼ばれているのを聞いて、撩なら自分が起きているのに気付いているはずだ、とどうしてわからなかったのか。それくらい、二人の関係を観察することに没頭してしまったのだろう。さて、ここから何が起こるのだろうか、聞こえてしまったやりとりを口止めされるのだろうか。亜矢子はドキドキしてしまった。
「亜矢子ちゃん、か〜ぁわいいよなぁ」
 ぐふふふふという声に、これまでの雰囲気がガラガラと崩れていく。


 ──ちょっと待て、これまでの雰囲気はどうした。


 確かに、二人をのぞき見したようなことは申し訳ないと思うし、撩には憧れを持ってはいるけれど、その声はいただけない。今まで出会った撩の表情で、だらしのないものばかりが浮かんでは消えていく。ひいいいい、と思った瞬間、その人が登場した。


「くぉらぁ、またおまえは、性懲りもなくうううう!!!」
「げっ、なんでっ!? 待て香、早まるな、俺はだなぁ」
「この時間にここへ来て、何をするってのよ。はい、有罪決定!」
「しょええええ!」
 香の登場で、雰囲気はさらに変わってしまっていた。もう聞き慣れてしまったハンマーの衝撃音と、そしてズルズルと誰かが引きずられていく様子に、今は目を開けまい、関わらないことにしよう、と決めたのは仕方のないことだろう。


 なぜ、撩は突然態度を変えたのか。そうしたら、何が起きたのか。
「気付かれないようにはしたけど、それだけじゃ我慢できなかった、ってことか。ううん、わざとばらしてまで、ここにいた理由を偽りたかったとか。でも、不器用すぎるわよねぇ、二人とも」
 さて寝よ寝よ、とこっそり呟いて、亜矢子は布団をかけ直した。





 翌朝、先に起きていた香が朝食の準備をしていた。
「あら、亜矢子さん。おはようございます」
「おはようございます、香さん」
 やりとり上は、香に変わった様子は見られない。夜のうち、亜矢子は香が戻ってくる前に寝てしまっていたから、結局どうなったのかはわからずじまいだ。いまさら聞くことでもないから、夜の秘密としておくしかないのだろう。
「そろそろ朝食ができるから、食べちゃいましょうか」
「そうですね。……あの、えっと、冴羽さんは?」
 やはり気になってしまって、つい名前が出てしまう。それを香がどう捉えたのかはわからなかったが、
「あぁ、あいつは昼過ぎまでダメね」
と苦々しそうに言ったのが印象的だった。
 その言葉通り、撩が起きてきたのは昼過ぎで、昼食は三人でとることになった。
「それで、昨日の夜遊びで何か収穫はあったのかしら?」
 どこか棘のある言葉をぶつけられた撩ではあったが、ぶすっともせず淡々とご飯を食べていた。
「まぁな、亜矢子ちゃんが何に巻き込まれたのか、それはだいたいわかってきた」
「あんたの夜遊びも役に立つのね」
 香の棘になんの意味があるのか、それは亜矢子にもわかるのだから、撩はもっと理解しているのだろう。どこか受け流す余裕すら感じられて、それがなおのこと香にとっては癪に障るのかもしれない。
「ちょっと書斎で調べものをしてるから、コーヒーはそこへ持ってきてくれ」
「はいはい、わかったわよ」
「力仕事もあるから、ここは力自慢の香ちゃんにもお願いしようか」
「引っかかる言い方だけど、了解」
 コーヒーを持って行くだけなら亜矢子でもできるが、今回は香に用事があるのだろう。もしかしたら、仕事上の打ち合わせかもしれない。ここまでの二人は、その多くが夫婦漫才ではあったが、何かあれば即座に撩が対処し、それを香がサポートする。そんなバディな二人も見えるようになっていた。


 ──あぁ、この二人って。


 亜矢子は何も言わず、残っていたサラダをパクリと口に入れた。





 香がコーヒーを持って行っている間に、亜矢子はシンクに食器を置いて水を出した。泡立てたスポンジで洗えば、キュッキュという音が心地良い。撩が大量に食べるとはいえ、食器の数はたかが知れている。あっという間に洗い終わった亜矢子は、やることがなくなって手持ち無沙汰になった。
「どうしようかしら……」
 事件についても二人についても、気になることはまだまだあるけれど、亜矢子にできることはそう多くないはずだ。できることを精一杯やるしかないわねと思い、掃除をしようと台所を出た。すると、客間から出てくる香を目に入った。
「あら、香さん」
「亜矢子さん、ちょっとあたしは出掛けてくるので、アパートで待っていてくださいね」
「お買いものですか? それならお手伝いしますけど……」
「ううん、ちょっと用事ができたから。撩もいるし、亜矢子さんはここでね」
 突然の展開に先が読めない亜矢子だったが、香はやはりいつも通りだ。いや、どこか余裕というか、安心感すら醸し出している。
「じゃ、お留守番をお願いしま〜す」
 ピンクのシャツに明るい青のジーンズ。動きやすい装いになった香はハンドバッグをさげて、玄関から出て行った。
 外では撩と二人きりということもあったけれど、アパートでは初めてだ。どこかシーンとしていて、この沈黙がどこまでも続いているような気がしてしまう。香がいるだけで雰囲気が違うみたい、亜矢子はそう感じていた。撩には憧れを持っているのに、この沈黙を乗り越えて彼のもとへ行くのは、難易度がどこか高すぎる。
「早く帰ってこないかな」
 やっぱり、二人のことが好きみたい。亜矢子は香が戻るのを待ちわびたが、何時になっても戻ってくることはなかった。





 夕方、アパートに一本の電話が入る。
「もしもぉし」
 のんびりと電話を取った撩は直後、身体に緊張が走っていた。

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Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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