FC2ブログ

Ambivalent and Vague

This page is the only Fan Fic.

  • 2018_08
  • <<
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • >>
  • 2018_10

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. [ edit ]
  2. スポンサー広告

彼らの日常 3

二人は恋人 (R-18)

 
 電話は、香を捕らえて人質にしていることを告げていた。そして、パートナーを助けたければ、亜矢子を指定する場所まで連れてこい、ということも。
「やだっ、香さん。私のために……」
 亜矢子は口元を手で押さえ、その目は驚愕の色ばかりが浮かんでいる。その後に不安となり、最後は後悔の色に変わった。
 撩はゆっくりと振り返り、立ちながら青ざめている亜矢子の前に立った。片手を肩に置き、ポンポンと叩く。そのリズムはとても優しくて、揺れ動いていた亜矢子の心は、それだけで落ち着きを取り戻せるような気がしてきた。
「亜矢子ちゃんのせいじゃない。こういうことは、珍しくはないから」
 それならばなぜ、香を一人で外出させたのか。危険だと予測できたのなら、外出しない亜矢子の代わりに、外出せざるを得ない香を守るべきではなかったのか。亜矢子はどうしても納得できなかった。
「私はここにいるから安全じゃないですか。なら、なぜ香さんを」
「香だって、シティーハンターだ。自分の身ぐらい、自分で守るさ。だが、こういうこともある。それは、香も承知だ」
「そんな……」
 危険な世界だと知りながら、なぜそこに香が留まっているのかがわからない。亜矢子の判断基準であれば、とっくにここから逃げ出している。
「というわけで、今から香を迎えに行くんだけど、亜矢子ちゃんにも手伝ってもらおうかな」
 亜矢子が撩を見る。口調はどこまでも優しかったが、撩の目にふざけはなかった。どこまでも真剣で、少し怖さがある。
「私ができることがあれば、なんでもします」
 自分のために香が誘拐されたのなら、なんでもする。亜矢子はそう思うも、それは撩が自分を助けてくれることが前提だ。本当に交換要員として連れて行かれてしまっては、依頼もこの数日間も、全部がガレキのように崩れていく。
「じゃ、ちょっと協力してもらおっかな」
 撩は目の鋭さを少しゆるめ、ニヤリと笑った。





 クーパーを飛ばした撩が辿り着いたのは、東京湾にほど近い倉庫街だ。その奥の方に指定された場所があって、錆びた扉を開けると、外の光が中を明らかにする。荷物は乱雑に放置され、ここなら勝手に使ってもばれないだろうと思われる場所だった。


 撩と亜矢子がゆっくりと奥に歩いて行けば、少し開けたところに出る。すると、明らかにその筋の者とわかるような人間が二十人以上出てきた。
 きっと、彼らは一人ひとりが武器を持ち、こちらを狙っているのだろう。そう思うと、数の多さに亜矢子の足はさらに震えた。何かに頼りたくて、前にいる撩の腕をギュッと掴む。
「来て下さったんですねぇ、ありがたいことです。こういうことは、穏便に済ませたいですから。あなたのようなチンピラでは、この数を相手するのは無理でしょうし」
 台詞を聞くだけでも、その男が上から目線だとわかる。話した男を見れば、誂えのいいスーツを着て、その他大勢とは少し違うとわかった。
「あ、この人……」
 亜矢子は、あの夜を思い出していた。物音がして振り返ったとき、周囲に指示しているように見えた男がいなかったか。その男は、目の前の男と同じようにオールバックではなかったか。そう、いわゆる若頭的なイメージの男。
「じゃ、やっぱり亜矢子ちゃんを狙っていたのは、あんたらだったというわけか」
「彼女には敵対組織とのやりとりを見られてしまいましてね。そこでも穏便に済ませたかったのに暴れるから、ちょっと手荒なことをせざるを得なかったんですよ」
「ほぉ。……見られてヤバいとなると、暴れたヤツに薬でも盛って大人しくさせたか。ヤクを扱ってるとバレたら、大変だもんなぁ」
 若頭らしい男は撩の言葉に一瞬だけ目を瞠り、そして鼻で笑った。
「私の想像以上に頭が回るチンピラだったようだ。なら、ここでみんな死んでもらうことにしましょう。おいっ!」
 音がパチンと指を鳴らすと、奥から別の人間が登場した。
「香さんっ!」
 香はロープでぐるぐるに巻かれて身動きできなくなっており、薄笑いの男がそのロープの端を持っていた。撩はその様子をじっと見ている。香も撩をじっと見つめる。


「パートナーは身動きできない、この人数が一気に狙えば、おまえたちも無事では済むまい」
「ほぉ、そうか……」
「おや、どこか自信があるようだね。まったく、力のない人間に限って、そういう根拠のない自信を持つ」
 ふふふと男が笑うと、撩は呆れた顔をした。
「まったくな。だからその言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」
「バカめ!」
 男が手下に指図をしようとした瞬間、香を縛っていたロープがバラバラになった。香はまず、自分の側にいた男に肘鉄を食らわせ、そのまま全速力で撩のもとへと走る。
「亜矢子くんを任せた!」
「了解!!!」
 そのまま二人が逃げようとすると、焦りを見せた男が、今度こそ指図しようと右手を上げた。手下がその指図に注目したと同時に、撩が何かを投げる。放物線を描きながら男の近くまで行くと同時に、眩しいほどの閃光が当たりを包み始めた。


「うわああああ!!!」


 その光に目をやられてしまった手下たちがうめいていると、腕で光を遮っていた撩が素早く動き出す。手刀で手下たちを気絶させ、その数を一気に減らしていく。めげずに何とか二人を追おうとする男には、腰から抜いたパイソンで撃ち抜いた。音が響きわたるうちに、追いかけようとした男がバタリと倒れる。
 また一人、ひとりと数を少なくし、もう若頭らしい男を残すのみだ。撩は、男の近くまで歩み寄った。
「まぁなんだ、俺も穏便に済ませたい派でね。もう狙わないって約束してくれれば、今回は見逃してやる」
「そんなこと、約束できるかぁっ!!!」
 男としては、そんな約束はプライドが許さないというところだろう。手がガタガタと震えているのも構わず、男は懐から拳銃を取り出した。「うわああああ!」と声を上げながら、指に力を加えていく。揺れ動く銃口を見つめていた撩は、銃声がすると顔を動かした。
「そ、そんなっ」
 こんな近距離から撃っているのに、弾が当たらない。こんなことがあっていいのかと男は驚いていた。もう一発、さらに一発。撃っても、撩に当たることはない。
「こっ、このバケモノがっ!」
 目を見開いた男がさらに撃とうとすると、撩は撃ってその銃を弾き飛ばした。なぜか撩は、その口元を歪めている。
「あのさ、あんたらを潰すなんて、俺にとっては朝飯前なの。こんだけの数揃えても、一瞬で終わっちまっただろうが」
「ほ、本部にはもっといるんだぞ。総動員すれば、あの女なんて仕留められるはずなんだ」
「あんなに用意周到だったのは、人数をそれだけかけてたってことか。そして、薬の件がバレれば、自分の身も危ない。……そうだよな、あんたらの上の組織、一応クスリには手を出さないって公言してるもんなぁ」
 撩がそう言うと、男は身体をビクリとさせた。途端に青くなった顔を撩に向けると、
「それだけは、それだけは……」
と繰り返し始めた。
「だったら、約束しろよ。もう手は出さない。ただ、クスリも止めるんだな。上にはもうバレてるさ、知らなかったのは、おまえだけだ」
 その言葉で、男はガックリと肩を落とした。





「おーい、もう出てこいよ」
 撩がどこへともなく大声を出すと、近くから香と亜矢子が出てきた。
「あんなに光るなんて、目がくらんじゃう」
「だから、慣れない場合は当たらない場所に隠れるのが一番なのよ」
 閃光弾から逃れるために、的確なタイミングで光を逃れる位置に入った二人は、そこから見える撩と男を見ていた。二人がどんなやりとりをして、どんな表情だったのか。明確ではないにしろ把握はできたからこそ、亜矢子はどこかひっかかりを覚えていた。


 三人でクーパーへ戻るころには、もう夕方だ。午後早めに倉庫に入ってからは、時間も過ぎている。
「はい、お疲れさん」
「よかった、香さん。本当によかった」
 亜矢子は香の姿を見て、目に涙を浮かべている。
「あぁ、そんなに気にしないでね」
「でもっ、香さんは私のせいで」
「あぁ、それね」
 そこからの説明に、亜矢子は耳を疑った。つまり、香は早い解決のために、わざと敵の手に落ちたというのだ。
「でもっ、そんな危ないことをどうして……」
「危なくはないわよ。だって、撩がおおよそは把握していたし、あとは敵を引きずり出すだけだったから」
「でも、でもっ」
 亜矢子が、信じられないと頭を振る。その姿を見た香は、ふぅと息を吐いて、亜矢子の手をそっと包んだ。
「あなたを狙うのは用意周到だったけど、それ以上は敵が向かってこなかったの。事態を動かすためにはね、こういうこともアリよ」
「ま、大人しくしていれば、こういう手合いに傷付けられることは少ないし、香は捕まっても縄なんて切れるからなぁ」
 そういえば、と亜矢子は思い出す。確かに、香は縄で動けなくなっていたのに、いつの間にか縄がバラバラになっていたのだ。
「それはね、こういうものがあるから」
 香が手にしたのは、小さな両刃のカミソリだ。こうした道具を服やいろんなところに仕込み、緊急事態には対応できるようにしていると聞いて、亜矢子は驚いた。
「じゃあ、香さんが自分で」
「そう、撩とタイミングを計ってね。あなたが一緒にいると、撩は守りながら攻撃になっちゃうから。その役目を私が引き継げば、撩は攻撃に専念できるでしょ」
「でも、あのときは何も言ってはなかったし」
 そう、あのときは二人が互いをじっと見ていただけで、何かをやりとりした様子はなかった。それなのに、香は撩とタイミングを計ったと言う。それは一体、どういうことなのだろうか。
「撩のパートナーをやっていれば、切り抜け方もアイコンタクトでわかるものよ」
「今回もいいタイミングでしたな、香くん」
「まぁね」
 香が得意げな表情をすると、撩がフッと優しい顔になる。


 ──あぁ、この二人って。


 二人は確かにパートナーであり、お互いに命を預けることができる。亜矢子は心からそう思った。





 亜矢子はもう狙われることがなくなった。だから、もう二人のアパートにいる必要はないし、車内では亜矢子をいつ送り届けるかという話になっていた。
「あ!」
 何かを思いだしたように、亜矢子が大声を出した。
「うちの玄関、壊れてる……」
「あーーーーー!!!!!」
 撩と香、二人の声が重なる。その声は本当に驚いていて、二人の顔にはなぜか困った色が浮かんでいるように見えた。
「あの、お邪魔でしたら私、別にいいので」
「ううん、そんなことない。もう管理会社に連絡できないでしょ、危ないわ」
「そうだよ、亜矢子くん。危ないから、今日も泊まりだな」
 そうは言ってくれるものの、二人の言葉にはどこか白々しさがある。亜矢子はそう感じるも、確かに今日も泊めてもらうのが一番だ。依頼料はもう上乗せはできないけれど、さらにお世話になったお礼として、自分にできることはしようと亜矢子は心に決めていた。


 クーパーは三人を乗せ、アパートに戻ってきた。夕ご飯の準備があるからと先に香が上がると、それについて行こうとした亜矢子は、香を見る撩の目に複雑な色が浮かんでいるのを見てしまった。それは切なさなのか、後悔なのか、具体的にはわからない。ただ、喜びに満ちあふれているわけではないことだけは確かだ。


「バケモノ、か……」


 静かな車庫の中で、亜矢子は確かにその言葉を聞いた。





 これまでのように香と亜矢子は一緒にご飯を作り、三人で楽しく夕食を共にした。事件解決後、最後の夕食とあって、香はワインを手にしている。
「おっ、それ飲むのか。いいな、打ち上げって感じで」
「そうでしょ、みんなで楽しまなくちゃね」
 どうやら、このアパートには酒が蓄えられているらしい。「たまには二人で飲んだりするの」と香が言っていたから、それ用に購入しているということだろう。事件からも解放され、明日にはこのアパートを立ち去ることになる。その後は、依頼の最初に約束していた通り、会ったことすらも公言しない。道ですれ違っても、表だってはやりとりできない関係。だからこそ、亜矢子は今を楽しもうと思った。





 香と一緒に部屋へ入り、布団の中で眠りについたのは、日付が変わる頃合いだったと亜矢子は記憶している。なぜかフッと目が覚めてしまい、横で寝ている香を目覚めさせぬよう、ゆっくりと上半身を起こした。
「あら?」
 隣にいるはずの香が、今はいない。確かに寝ていた形跡はあるも、肝心の香がいないのだ。布団にはまだぬくもりが残っているから、ここ何分かで布団から出たようだった。
「トイレかな?」
 待っていれば、きっと帰ってくるだろう。そう思って、亜矢子は再び横になった。
 そして数分後、まだ香は戻ってこない。というより、近くで誰かが動いている音がしないのだ。トイレは同じ階にあるはずなのに、どうして何も聞こえないのだろう。
 そのまま寝てしまう選択肢はもちろんあったが、最後の夜だから少しぐらい、と亜矢子は夜のアパートを探検することにした。
 同じ階のリビングにも台所にも、香はいなかった。もちろん、風呂場にもトイレにもいない。この時間に外出することはなさそうだったから、このビルの中にいることだけは確かだろう。では、どこに行ってしまったというのか。


 ふと、亜矢子の耳が微かな音を捕らえた。注意深く音を追うと、それは階上から聞こえてきているようだ。
「上は、冴羽さんの部屋、だったわよね」
 さすがに男性の部屋近くに行くのはどうだろう、とためらいがある。しかし、今日で二人とは最後なのだ。撩と香がどんな関係なのか、この依頼の日々でたくさん見せてもらった。まだまだ亜矢子が見ていない面もあるのだろう、もしあるというのならば、こっそり見ておきたい気持ちは止められない。
「よし、ちょっとだけ」
 亜矢子は意を決して、七階への階段を踏みしめた。





 階上には扉が一つ見える。そこは僅かに開いていて、中から淡い光が漏れていた。確かに音はそこから聞こえているが、一体何の音なのか、亜矢子には見当がつかない。
 足音に気をつけながらそっと扉に近づくと、視界は限られるも中を見ることができた。やはり音は部屋からであり、ギシギシと音はリズミカルで、さらに別の音が重なっていた。
「あっ、いやっ、あっ、あっ」
 か細い声が、何かを訴えている。それと同時に、亜矢子に視界に白くスラリとした膝下が見えた。足も何かを訴えるように、忙しなく動いている。


 ここまで見てしまえば、亜矢子だって中で何が起こっているのかはわかる。
 確かに二人は仲がよかったし、一緒にいることが自然だった。撩が香の寝室に来ていた夜もあった。だから、こういう関係なのだと見せられても想定内のはずなのだが、こう目の当たりにしてみると衝撃的である。しかも亜矢子は撩に少なからず好意を抱いていたわけで、もちろん失恋決定なのはわかってはいたけれど、それにしてもこの展開なのか、というのが正直なところだった。


 白い足に加え、逞しい足も視界に入ってきた。二人はどうやらベッドにいて、男女の営みを繰り広げているようである。
「ちょっと待って、撩、待って」
「なにを待つっていうんだ。もう十分我慢したぜ、だから抱かせてくれよ」
「でも、まだアパートに亜矢子さんが……」
 自分の名前が出てきて、亜矢子はドキッとした。身体が瞬時に緊張して、どうしたらいいのかがわからない。このまま見ていてはいけないと思うも、うまく足が動かない。
「だったらなんで、俺の部屋に来た。こうなることは、わかってただろ?」
「だって、話があるっていうから」
 どうやら、香は撩に呼び出されて部屋に来たらしい。撩に組み敷かれているらしい香は、精一杯の反論を試みている。
「おまえ、察しろよ。それに、おまえだってヤりたかったんだろ、だから来た」
「そんな、違うっ」
「いい加減、認めろよ」
「だから違うって、あぁ……」
 ちゅぱっ、ちゅぱっと音がする。それは夜這いの夜を思い出させて、あのケダモノがここにいるのだと想像することができた。
「まったく、おまえ黙れよ。ほれ、まずは一回イカせてやるから」
「何を言って、……ひやぁああん!」
 ぐちゅっという音と共に、香の嬌声がどんどん大きくなる。音はその後ぬちゅっぬちゅっと変わり、白い足は激しく揺れていた。動きはどんどん大きくなり、ついに耐えきれなくなった香の声が七階に響いた。


 その後は、香が反論することはもうない。撩は香を気持ち良くさせることで、その口を封じようとしたらしい。そういうことなら、二人の夜はここからが本番になるのだろう。下世話なことをしていると亜矢子自身も承知はしていたが、この場から離れられなかった。
「じゃあ、今度はゆっくりかわいがってやるから」
 「よっ」とかけ声をすると、撩は香を抱きしめたまま起き上がっていた。そのままベッドの端に座って、足は床に下ろしている。亜矢子からはちょうど、撩の背中が見えるような位置だ。香は亜矢子の方を見てはいるが、その目はトロンとしていて、快楽に巻き込まれたそれだ。
「じゃ、少しずつ腰を落として。……そう、イイ子だ。……じゃあ、支えている手を離すぞ」
 腰で香を支えていた手を撩が離すと、香はたまらないとばかりに顔を歪めて目を閉じた。
「りょお、ふかっ、あんっ!」
 自身の加重でもう抜けられないそこは、またぐちゅぐちゅとした音を立てている。撩が腰を緩く動かし、そこからだんだんと速度を上げる。しまいには動きも激しくなって、突き上げと共に香の身体が踊り狂っていた。
「りょっ、あっ、あっ」
「香おまえ、目を開け」
「なぁに?」
「目ぇ開いて、俺を見ろ」
 そう言われた香が、ゆっくりと瞼を上げる。きっと、香の視界には、撩の顔が入ったはずだ。
「香、おまえを抱いているのは、こんな男だぞ」
「ど、どういう、こと?」
 荒くさせられた息に言葉は少なくなっても、香は撩に尋ねた。
「こんなバケモノに抱かれて、おまえはどうなんだ」


 そこで亜矢子はハッと気がついた。帰宅時の車庫で確かに撩の呟きを耳にしたし、確か敵の男もそう言っていたような気がする。撩が投げつけられ、自身でも確認するように呟いた「バケモノ」というキーワード。
 言った撩の表情はわからないが、受けた香の表情ならわかる。甘えるようにニッコリと微笑んで、香は両腕を首に回した。
「りょおはりょおだもん。他の何でもないもん」
 その言葉を聞いた瞬間、撩は香を抱く腕に力を込めた。きっと香は、撩にとって正解を言ったに違いない。どう見てもやりとりが一瞬で香のペースになったが、撩は一つ激しく突き上げ、主導権を渡さない。
「やっ、いやっ、もっとぉ……」
「もっともっと、くれてやるよ。……ホントおまえ、エンジェルダストよりもタチ悪いわ」
 亜矢子は撩の言葉があまり理解できなかったが、香という存在は撩にとって、ひとときも手から離したくない存在なのだろう、というのはわかった。


 二人の絆の深さをここまで見られたら満足で、しかし自分がやっていることは悪趣味だ。
 それがわかったから、亜矢子はそっとその場を立ち去った。





 翌朝に亜矢子が目覚めると、何事もなかったかのように香が隣で眠っていた。ただ、じっくりと目を凝らして見れば、首筋に赤い痣が見える。
「香さん、すぐには起きないわね。じゃあ、お礼もあるし、朝食を作ろうかな」
 手早く着替えた亜矢子は、まだ起きているのが一人だけだと思って、そっと台所へと向かった。香はまだ起きていないし、いつも朝が遅い撩が起きてくるはずもない。


「お、亜矢子ちゃんか」
 台所では、撩が朝食を準備していた。香だって料理は上手だと思うのに、撩のそれはさらに上を行く。イメージとしては、高級ホテルでいただくブレックファーストだ。シンクの様子から、ドレッシングなども撩が作ったとわかる。ベーコンはカリッカリ、スクランブルエッグはふんわり。完璧すぎる、と亜矢子は思う。
「亜矢子ちゃん、ちょっとテーブルの皿をこっちへ持ってきて」
 亜矢子に頼んだ撩は、何やら焼いていたフライパンからポンと皿へと乗せた。
「うわぁ、このフレンチトースト、美味しそう!」
 持っていた皿に乗せられたのは、バターの香りあふれるフレンチトースト。外側はカリッと焼き上げられながら、少し揺すると横にふるりとする。大切にそっと皿を置くと、亜矢子は撩を見た。
「どうした、亜矢子ちゃん」
「あの、なんだか最後までお世話になってしまって……」
 目の前の男は、実は裏の世界ナンバーワンのスイーパーで、そんな人が作った朝食を食べる機会に巡り会うことなどなかったのに、この依頼のお陰で経験することができた。だらしなさはあるけれど、仕事は確実にこなし、全てを器用にこなす。そんなスーパーな人に覚えたときめきは、今は二人を応援したい気持ちに変わっていた。
「んなこと、気にしなくていいよ。……それより、香はまだ?」
「えぇ、まだ起きてなかったです」
「そっか」
 撩の表情がどこか不本意そうで、そうしたのはあなたでしょうにと亜矢子は呆れてしまう。
「しばらくは起きてこないんじゃ……」
 そう口にしたところで、しまったと亜矢子は思った。これでは、さも昨夜の二人を知っています的な発言ではないか。
 どうしようと亜矢子がオロオロすると、撩が亜矢子の肩をポンポンと優しく叩いた。
「そうだろうなぁ、仕方ねぇか。……ただ、人のを聞いてたのは、感心できないけど?」
「え、あ、ごめんなさい……」
 撩が知っているとは思っていたけれど、面と向かって言われてしまうと、亜矢子は何も言い返せなくなる。ただ謝ることしか、亜矢子にはできなかった。





 それから約一時間後、香がやっと起きてきた。「なんで起こしてくれなかったのよ!」とプウッと頬を膨らませる香を二人でなだめながら、この朝食が本当に最後の食事だ。


「送らなくて大丈夫?」
「はい、このまま管理会社にも行っちゃうので」
「じゃ、気をつけてな」


 別れの時は、あっけない。そして、それぞれの日常がまた始まり、きっとそこに埋没していくのだ。だが、二人と出会ったことは事実で、この先誰ともこの記憶を共有できなくても、亜矢子はきっと忘れない。


 あんなにも素晴らしい二人を。そして、大変でありながらも楽しかった、あの時間を。

スポンサーサイト
  1. [ edit ]
  2. 彼らの日常

プロフィール

うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息してたけど、只今休眠中。

最新コメント

最新トラックバック

« 2018 09  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

検索フォーム

The antenna is here.

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム


pagetop

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。