Ambivalent and Vague

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Étude 1

エロくないけど5題

 
1. ネクタイを解く手

「だからって、こうしろとは言ってない」
 香はリビングでそう呟いた。
 事の起こりは、心霊番組特集の予告を少しでも見てしまったことだった。さすが予告、インパクトは十分で、香を怖がらせるのにも余裕だった。
「もうっ、何でもかんでも思っちゃうじゃないのぉ」
 あなたの後ろには、みたいに言われてしまうと、どうしても気になってしまう。そんなところに帰宅したのが、スーツ姿の撩だった。
「おまえ、なにしてんの?」
 目をつぶり、耳に指を突っ込んでいる姿は滑稽で、何をしているのかがわからない。
「見ちゃったのよ!」
「何を」
「怖い番組!」
 ははあ、と撩は思う。この時期なんだから、そういう番組があるのも珍しくはない。ふと見てしまって、怖くなった。そんなところなのだろう。
 本当に、香はわかりやすい。
「で、香ちゃんは、どうしたいの?」
「はぁ、どうしたいって?」
 いつの間にか目を開き、耳から指を外していた香は、撩の言葉に多少呆れている。何をしたいというのではないのだ、怖いものが見なければ、それでいい。
「怖いものが見えなきゃ、それでいいのよっ」
「ふーん」
 どこか意味を含んだ返事をしながら、撩は首もとに指を挿し入れた。そこから引き下ろせば結び目がほどけ、ネクタイがシュルリと滑っていく。
「じゃあさ、見えなけりゃいいんだな」
「そうだって言ってるじゃな、……って、ちょっと!」
 香が驚いたのも無理はない。突然視界が暗くなり、後頭部で何かが結ばれる感触がある。つまりそれは。
「なんでネクタイで目隠しされるのよぉ」
「言ったじゃん、見えなきゃいいって」
「やれとは言ってない!!!」
 いくら騒ごうが、香から視界は奪われてしまった。目の前の撩がどんな表情をしようとも、香は見ることができない。
 例え、この状況に愉悦を感じて嗤おうとも、微笑ましく見守ろうとも。
「さて、香ちゃん。怖い思いをしたら、上書きすりゃいいんだ」
「はい?」
「だからぁ」
 香の身体がふわりと持ち上がる。撩に抱き上げられたとわかると、香はその先がわかって慌てふためいた。
「いや、もういいってば。もう大丈夫!」
「はいはい、ちゃんと上書きしましょうね。リョウちゃん頑張る!」
「頑張らなくていいからあああああ」

 次の日、香は珍しく寝坊することとなった。





2. 艶やかな唇に紅い舌

 この季節に遭遇する、赤い宝石。
「ホント、甘くて美味しいの〜」
 香が発する全ての言葉、その語尾にはハートマークがついているのではないかと思うくらいである。
 「ちょっと行ってくるわ」という言葉と共に、撩がいなくなったのが数日前。その頃、撩が冴子とやりとりしていたのに気付いていた香は、「いつものことか、コソコソした依頼ね」と何も思わないことにした。
 ここに戻ってきたら、それでいい。帰ってきてくれれば、それで十分。
 そんなシンプルなことに気付いたら、たまの依頼も仕方ないかと思っていたのだ。
 そして昨夜、撩は大きな箱を持って帰ってきた。
「なにそれ」
「香ちゃんに、お土産」
 撩がへらっと笑いながら開けると、そこには艶やかな赤。
「うわぁ!」
「これ、佐藤錦なんだぜ」
「ちょっ、それ超高級じゃん! すぐ食べなきゃじゃん!!!」
 食べ物一つでテンションが上がる、そんな自分は嫌いじゃないし、そんな相棒が微笑ましい。二人してサクランボを前にすれば、あとは食べるだけだ。
「あんた、黙って行ったんだから、あたしがたくさん食べるのっ」
「なんだよ、もらってきたのは俺だろ」
「へーんだ、やましいことがあるからでしょ」
「なにおぅ!」
 そんなやりとりも楽しく、気付けば皿には種と茎の山だ。
「もうお腹いっぱい。あとは明日食べようね」
「いや、まだ俺は食べたいの」
 皿からはサクランボが消えているのに、撩はまだ食べたいという。どういうことかと訝しがっていると、撩がスッと距離を近づけてきた。
「ちょ、ちょっと!」
「サクランボもいいけどさ、この艶もいいんだよ」
 そう言って、撩は香の唇を指でそっと撫でた。何回も撫でていると、何かを感じ取った香が緩やかに口を開く。
「そう、いい子だな」
 撩は指をそっと入れて、香の舌もそっと撫でた。
「この赤も好きなんだ」
 そう言われては仕方ない。
 香はそっと目を閉じて、落ちてくるであろう熱を待ちわびた。





3.ベルトを外す音

 もう何時間、この森を歩いているのだろうか。
 依頼が無事に終わったのはいいものの、二人とも敵のアジトに連れ去られてからの展開だけに、帰るには応援が必要だった。とはいえ、応援を呼ぶにも連絡手段が必要であり、ある程度のところまで出なければならない。
 それはわかっても。
 ぎゅるるるる〜ぅ。
 お腹が空くのは、避けようがないのである。
「香ちゃん、こんなときにも正直ね」
「しょうがないでしょ! ろくに食べてないところを連れ去られたんだから」
「だっから、ちゃんと今朝食べとけと言っといたのに」
「もう、いまさらでしょ!」
 そうやって二人がやりあっていても、どこかから食事が出てくるわけでもない。それに気付いた香が溜息をついて、ふと空を見上げた。
「ねえ撩、あれ……」
 香が指差した先には、木に果実がぶら下がっている。
「あれは……、多分食べられるな」
「そうなのっ!? じゃあ撩、取って取って!」
「おい、いくら俺でも、あれはなぁ」
 撩がジャンプしても届く高さではなく、かといって木をよじ登っても枝の先だから取れない。なんとも絶妙な位置にある果実だった。
「えええええ〜、じゃあ食べられないの……」
 途端に香がしょぼーんとうなだれる。
 撩は知っているのだ。今朝は食材がいつもより少なくて、その分を香が撩に回してくれていたということに。だから、どうにかして取ってやりたい。
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
「うん、わかった。……って、えええ!」
 香が驚くのも無理はない。聞こえてきたのは、ベルトを外す音だったからだ。外したベルトを持って、撩はムチのようにしなやかに操りだした。
「ま、これでいけるだろ。じゃ、ちょっと待ってろ」
 撩がちょっと離れたところから助走を取り、そのまま力強く地面を蹴り上げた。浮かび上がった身体はさらに背中の筋肉を使い、バネのように前のめりになる。それと同時にムチも生き物のように伸びて、ブチッと音がした。
 見れば、地面にボトリと落ちた、かの果実。
 撩はそれを取り上げて、香の前に持ってきた。
「ほらよ。きっと食べられるだろ。ちと待ってろ」
 バックルに仕込まれたナイフで、上手に果実を剥いていく。
「ほれ」
「ありがと」
 依頼は大変だったけれど、この時間は得難いのかな。
 果実と共に、この時間もゆっくり味わいたい香だった。





4. 微かに汗ばんだ髪

 依頼の終わり、撩はよく香の髪の毛をくしゃりと撫でる。「よくやった」「助かったぞ」、天の邪鬼で口に出せない言葉を手のひらに込めて、ほんの少しでも伝わればいいのだが、という行為だ。
 その手の優しさを、香はいつも感じている。撩の本音がわかることはない。ただ、何かしらを伝えようとしてくれている撩の行為が、香はたまらなく好きだった。
 だけど、と思う。
 撩は知らないのかもしれない。依頼が解決したとき、彼の身体は奮闘のあとを残している。艶やかでしなやかな黒髪が、このときばかりはしっとりしている。こんな状態の彼を、一体どのくらいの人間が知っているというのだろうか。
 だから、と手を伸ばす。
「ん、どうした?」
 お返しにとばかりに、香が撩の髪を撫でる。意外に思った撩が香を見ると、ふっと香は微笑んだ。
「ううん、なんとなく」
 髪を撫でられるなど、いつぶりのことなのだろう。どこかこそばゆく思いながら、撩は香の手に身を任せた。ここまで気を許している自分に、こいつは気付かないだろう。そう思いながら。






5. 掠れた声と吐息

「なんでよっ、なんで……」
 香は泣きそうになりながら、撩を見ていた。
 それは偶発的に起こったことであり、今回ばかりは運が悪いとしか言い様がなかった。撩を狙う敵が同時に現れ、両方を相手にするには、自分の身体を多少なりとも犠牲にするしかなかったのだ。
 それで自分も香も守れるなら、安いものだ。撩はそう割り切ることができるも、香はそうはいかない。
 身体の中にめりこんだ銃弾を、撩が自分で掻き出している。香はその案配がわからないから、こればっかりは撩に任せるしかなかった。
「うっ、……くっ……」
 いつもなら涼しい顔をして依頼をこなしている撩も、今は脂汗をかきながら、どこか声も掠れている。
 コロン、と音がする。銃弾は鉄製のトレイに落とされ、撩は「ふぅ」と息を吐いた。
 香はもう、いてもたってもいられなかった。おまえのせいじゃない、とどんなに言われようとも、自分が何かをしたかった。
 撩が手にしようとした包帯を先に取り、
「やるのっ、あたしがやるのっ」
と何かを堪えるように繰り返した。泣きそうな表情の香を見るのは、撩にとって苦しい。こんな表情をさせたいわけではないのに、自分たちが生き延びようとすれば、時にはこんなこともある。
 それは二人にとって、もはや逃げることのできないことだ。
 撩は、後の処置を香に任せ、巻かれる包帯をじっと見つめていた。
 これから、何回もこんなことはあるのだろう。もう傷だらけの自分にこれ以上の傷がついても痛くはないが、香に傷がつくのだけは勘弁だ。
「終わったよ」
「あぁ」
 今夜の二人は、これ以上何も言えそうになかった。







 今回のお題5つは、それぞれ10分で書いてみようと挑戦したものです。4→5→2→3→1の順で書いており、今回は加筆修正することなく、そのままを掲載しています。タイトルにÉtudeとした通り、いい練習になりました。

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うーたん

Author:うーたん
好き勝手に書き散らかしておりまする。書いたお話は、まるで千歳飴(どこ切っても同じ)。タニシのようにひっそりと生息中。

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